犬を車に乗せて出かける方にとって、事故で犬がけがをしたときに犬の治療費が自動車保険から出るのかは、気になるところではないでしょうか。家族のように暮らしていても、法律や保険での扱いは人と同じではありません。

自動車保険は補償ごとに、対象が「人」か「物」かで分かれています。ここでは、民法や日本損害保険協会の説明をもとに、犬の治療費が自動車保険でどう扱われるかを整理します。

あわせて、相手のいる事故で、犬の治療費10万円あたり、自分の過失割合ごとに相手から受け取れる額を試算します。

※過失割合ごとの額は、民法第722条第2項の「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」という規定にもとづき、自分の過失の分を差し引いて計算したものです。

1. 犬の治療費は自動車保険の人身傷害で出る?人身傷害は人のけがが対象で、犬は対象外

犬の治療費を自動車保険で考えるときは、まず補償の対象を確かめます。日本損害保険協会によると、人身傷害補償保険は、自動車事故で死亡したりケガをしたときに支払われる補償です。搭乗者傷害保険も、運転者や同乗者など自動車に乗っている人が対象です。

民法第85条は、「物」とは有体物をいうと定めています。犬は法律上、この「物」として扱われるため、人のけがを補償する人身傷害や搭乗者傷害では、犬の治療費は対象になりません。

  • 【人身傷害補償保険】自動車事故による人の死亡・ケガ(犬は対象外)
  • 【搭乗者傷害保険】自動車に乗っている人の死亡・ケガ(犬は対象外)
  • 【自賠責保険】他人の生命または身体の損害(犬は対象外)
  • 【車両保険】事故による自動車の損害(犬は対象外)

自賠責保険も、自動車損害賠償保障法第3条で「他人の生命又は身体」の損害が対象とされており、犬のけがは含まれません。ただし、動物の愛護及び管理に関する法律第2条は、動物を「命あるもの」と位置づけています。法律上の物の扱いと、命あるものとしての扱いは、別の場面の決まりです。

2. 犬の治療費は自動車保険で相手に請求できる?過失2割なら10万円あたり約8万円

犬の治療費は、相手のいる事故なら、相手に損害賠償として請求できる可能性があります。日本損害保険協会によると、対物賠償保険は、他人の自動車や建物などの財物に与えた損害について、法律上の損害賠償責任を負った場合に支払われます。事故の相手から見れば、犬はこの「他人の財物」にあたります。

ただし、自分にも過失があれば、その分は差し引かれます。犬の治療費10万円あたり、相手から受け取れる額は次のとおりです。

  • 【自分の過失0割】約10万円
  • 【自分の過失1割】約9万円
  • 【自分の過失2割】約8万円
  • 【自分の過失3割】約7万円
  • 【自分の過失5割】約5万円

※試算の前提:犬の治療費10万円の全額が事故による損害と認められ、相手の対物賠償保険から支払われる場合。民法第722条第2項にもとづき、自分の過失割合の分を差し引いた。

【図表】犬の治療費10万円あたりの受取額と、飼い主のけがの補償の違い1/1

相手のいる自動車事故で、犬の治療費10万円あたり相手の対物賠償保険から受け取れる額の試算。自分の過失0割なら約10万円、1割なら約9万円、2割なら約8万円、3割なら約7万円、5割なら約5万円。飼い主のけがは人身傷害補償保険で自分の過失部分を含めて損害額の全額が支払われ、10万円あたり約10万円

出所:e-Gov法令検索「民法」、日本損害保険協会「自動車保険」をもとにLIMO編集部作成

過失2割の事故なら、犬の治療費10万円のうち約2万円は、相手からは受け取れない計算です。

3. 犬の治療費と飼い主のけがは自動車保険でどう違う?飼い主は全額、犬は過失の分が差し引かれる

同じ事故でも、犬の治療費と飼い主のけがでは、自動車保険での受け取り方が違います。日本損害保険協会によると、人身傷害補償保険は、自分の過失部分を含めて、自分が契約している損害保険会社から損害額の全額が支払われます。

  • 【飼い主のけが(人身傷害)】10万円あたり約10万円(過失2割でも全額)
  • 【犬の治療費(相手の対物賠償)】10万円あたり約8万円(過失2割の場合)
  • 【犬の治療費の残り】約2万円は、特約がなければ自己負担

飼い主のけがは過失があっても自分の保険で全額をまかなえる一方、犬の治療費は相手への請求が中心になり、自分の過失の分は手元に残りません。

4. 犬の治療費を自動車保険で備えるには?ペットのけがを補償する特約があるかを確認

犬の治療費を自動車保険で備えたいときは、契約にペットのけがを補償する特約が付いているかを確かめます。こうした特約を用意している保険会社もありますが、名前や支払いの条件、上限額は保険会社や商品によって異なります。

特約がない場合、自分の過失が10割の事故や単独事故では、犬の治療費を相手に請求できません。自分の契約の対物賠償保険も、対象は他人の財物のため、自分の犬の治療費には使えません。保険証券や契約内容を一度見ておくと安心です。

5. 犬の治療費が膨らむと自己負担は?過失2割なら治療費30万円で約6万円

犬の治療費の自己負担は、治療費が大きくなるほど増えます。自分の過失が2割の場合、相手から受け取れない分は次のとおりです。

  • 【治療費10万円】自己負担 約2万円
  • 【治療費20万円】自己負担 約4万円
  • 【治療費30万円】自己負担 約6万円

※試算の前提:治療費の全額が事故による損害と認められ、相手の対物賠償保険から自分の過失2割を差し引いて支払われる場合。

また、物が壊れたときの賠償では、修理にかかる費用とその物の価値(時価)との関係が問題になることがあります。犬の治療費でも、どこまでを事故による損害とみるかが、相手方との話し合いの論点になりえます。領収書や診療明細は捨てずに残しておきましょう。

6. 【保険手続きで大事な視点】検証

今回の試算で示した「10万円あたり約8万円」は、治療費の請求書の8割が必ず戻るという意味ではありません。もとになる10万円が、事故による損害として認められた額である、という前提が付いています。

数字を読むときは、「いくら認められるか」と「そのうち何割を受け取れるか」の2段階に分けて見ていただきたいところです。過失割合で決まるのは後半の割合で、前半の額は治療の内容や相手方との話し合いで決まります。

人身傷害という名前から、同乗している犬も含まれると考えてしまうと、事故のあとで想定と違うことになりかねません。

犬を車に乗せる機会が多い家庭では、保険証券にペットのけがを補償する特約があるか、その上限額はいくらかを、更新のタイミングで一度見ておくとよいでしょう。

犬は家族の一員でも、自動車保険の上では人とは別の扱いになります。その違いを知ったうえで備え方を選べば、もしものときにも落ち着いて手続きを進められるのではないでしょうか。

7. まとめ

犬の治療費は、人身傷害や搭乗者傷害など人のけがを補償する自動車保険では対象外です。相手のいる事故なら相手の対物賠償保険に請求できる可能性があり、自分の過失が2割なら、犬の治療費10万円あたり約8万円を受け取れる計算です。

飼い主のけがは人身傷害で過失の分を含めて全額が支払われる一方、犬の治療費は過失の分が自己負担として残ります。ペットのけがを補償する特約の有無や条件は、契約している保険会社で確かめておくと安心です。

※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。損害として認められる額や過失割合、補償の内容は、事故の状況や保険会社・契約によって異なります。実際の扱いは契約している保険会社でご確認ください。

参考資料

下村 美乃莉