町内会に未加入の世帯が、ごみ置き場や除雪の利用料を請求されて戸惑うことがあります。町内会は任意加入の団体ですが、ごみ置き場の管理には費用も手間もかかり、会費を払っている世帯との公平も問題になります。
町内会に未加入の世帯のごみ置き場をめぐっては、神戸市の夫妻が自治会を訴えた裁判があり、地方裁判所と高等裁判所が判断を示しています。ここでは「いくら払うか」よりも先に、「そもそも使わせないことは許されるのか」を、裁判と法令で確かめていきます。
自治会の会費と裁判で認められた賠償額を並べ、賠償額が会費の何年分にあたるかを試算します。除雪の費用については、法令の面から整理します。
※神戸の裁判の内容は、参議院「町内会や自治会に入会しないとごみが捨てられない等の町内会及び自治会の問題に関する質問主意書」と、判決を紹介した報道・解説をもとにしています。
1. 町内会に未加入だとごみ置き場は使えない?神戸の自治会は会費を払わない人の利用を禁止していたが、地裁も高裁も「違法」と判断
兵庫県神戸市の住宅街で、自治会に加入していない夫妻が、ごみ捨て場(ごみステーション)の利用を禁じられました。夫妻は自治会を相手に、慰謝料と、ごみ捨て場を利用する権利の確認を求めて裁判を起こしています。
浜松市議会の一般質問資料によると、この自治会は総会を開いて、ごみ捨て場のルールを次のように決めていました。
- 【役員や掃除当番を担う住民】年会費3600円
- 【掃除当番などを担わない「準自治会員」】年会費1万円
- 【会費を払わない非自治会員】ごみ捨て場の利用禁止
裁判所の判断は、一審と二審で次のように分かれました。
- 【一審・神戸地方裁判所(2021年9月)】夫妻にはごみ捨て場を利用する権利があると認め、自治会の対応を違法と判断。賠償は夫妻あわせて20万円
- 【二審・大阪高等裁判所(2022年10月)】自治会の対応は違法としたが、ごみ捨て場を利用する権利そのものは認めず。賠償は夫妻あわせて30万円
参議院の質問主意書にも、大阪高等裁判所が令和4年10月に自治会側の違法性を認めたことが書かれています。高裁の判決のあと、双方が上告したと報じられています。
2. 町内会に未加入でもごみ置き場の利用料は払う?「一切使わせない」は違法だが、使い続ける権利は認められず、相当な対価を求める考え方が示された
判決を解説した資料によると、大阪高等裁判所は、ごみ置き場の維持管理の費用や労務の負担は、相当な対価を求めて利用を認めれば足りると考えました。「加入しなければ利用できない」という自治会の主張は、加入の強制に等しいとして採りませんでした。
一方で、夫妻と自治会のあいだで利用の合意が成立したとはいえないとして、使い続ける権利は認めていません。神戸の裁判から読み取れる「払う必要はあるのか」への答えは、次のとおりです。
- 【利用を一切認めない対応】違法と判断された
- 【利用料(相当な対価)】費用や労務の負担は、相当な対価を求めることで足りるとされた
- 【金額】この裁判で利用料の額が決まったわけではなく、地域の費用や規約で変わる
会費を払わないことを理由に利用を一切認めない対応は、神戸の裁判では認められませんでした。ただし、自治会ごとに事情も規約も異なり、個別の請求が妥当かどうかを一律に決められるものではありません。
3. 町内会に未加入でごみ置き場を使えなかった賠償は会費の何年分?夫妻で30万円は、準自治会員の年会費1万円の30年分
裁判で認められた賠償額を、自治会の年会費と並べてみます。
- 【一審の賠償】夫妻で20万円(準自治会員の年会費の20年分、当番を担う会員の年会費の約56年分)
- 【二審の賠償】夫妻で30万円(準自治会員の年会費の30年分、当番を担う会員の年会費の約83年分)
- 【二審の賠償・1人あたり】15万円(準自治会員の年会費の15年分、当番を担う会員の年会費の約42年分)
- 【会費の差】準自治会員の年会費1万円は、当番を担う会員の3600円の約2.8倍で、差額は年6400円
※試算の前提:賠償額は報道や解説で紹介された金額、年会費は自治会が総会で決めた金額です。賠償は利用を一切認めなかった対応への慰謝料で、会費の代わりになるものではありません。年数は小数点以下を四捨五入しています。
神戸の自治会のごみ捨て場をめぐる裁判:賠償額は年会費の何年分か1/2
出所:参議院「町内会や自治会に入会しないとごみが捨てられない等の町内会及び自治会の問題に関する質問主意書」、浜松市「令和5年11月30日 一般質問資料」などをもとにLIMO編集部作成
会費の差は年6400円でも、「会費を払わない人は使わせない」という一律の対応に対して、裁判所は夫妻あわせて数十万円の賠償を命じました。利用料の額の差よりも、利用を一切認めない対応のほうが、裁判では問題とされました。
4. 町内会に未加入の世帯のごみ置き場は誰の責任?廃棄物処理法は収集を市町村の義務とし、国は「個別の状況に応じて市町村が判断」と答弁
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」第6条の2第1項は、市町村が一般廃棄物処理計画に従って、区域内の一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、運搬し、処分すると定めています。家庭ごみの収集の責任は、町内会ではなく市町村にあります。
参議院議員が令和6年2月13日に出した質問主意書は、町内会や自治会に入らないとごみが捨てられない問題について、市町村の責務などをたずねたものです。政府は令和6年2月22日の答弁書(内閣参質二一三第三一号)で、市町村は廃棄物処理法第6条の2第1項により、一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集する義務を負うと答えました。
一方で、住民からの相談への対応や、ごみ置き場の管理の見直しなどについては、「一概にお答えすることは困難」とし、個別の状況に応じて市町村が関係法令に従って判断するものだとしています。
ごみ置き場の設置や管理を町内会が担っていても、収集の責任は市町村にあります。請求や利用の可否で困ったときは、町内会との話し合いのほか、市町村の廃棄物の担当窓口に事情を伝えて確かめる方法もあります。
5. 町内会に未加入で除雪の費用を求められたら?公道の除雪は道路管理者の役割で、神戸の裁判は除雪を扱っていない
除雪については、道路法第16条が市町村道の管理をその市町村が行うと定め、第42条は道路管理者が道路を常に良好な状態に保つよう努めなければならないと定めています。公道の除雪は、本来は道路を管理する国や自治体の役割です。
神戸の裁判はごみ捨て場の利用をめぐるもので、除雪の費用を直接判断したものではありません。地域によっては町内会が除雪に費用を出していることがあるため、請求を受けたら、どの道路の除雪で、年にいくらかかり、何世帯で負担する費用なのかを確かめることが出発点になります。
なお、福井地方裁判所が2025年4月に出した判決は、町内会を退会した世帯のごみ置き場の使用料を年1万5000円とし、会費とほぼ同額の請求は認めませんでした。
6. 町内会に未加入で利用料を請求されたら確認することは?費用の中身・金額の決め方・決めた手続き・市町村の窓口の4つ
請求を受けたときは、払う払わないを決める前に、次の4点を確かめると、話し合いの材料になります。
- 【費用の中身】ごみ置き場の管理人への報酬、ネットやボックスの購入・修繕、除雪など、何に使う費用なのか
- 【金額の決め方】世帯数で割った額なのか、会費と同じ額なのか
- 【決めた手続き】総会の決議や規約に、会員でない人の利用料が書かれているか
- 【市町村の窓口】ごみ置き場の設置や補助の仕組み、困ったときの相談先
町内会に未加入で利用料を請求されたら:法令で決まっている役割と、確かめたい4つのこと2/2
出所:e-Gov法令検索「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」、e-Gov法令検索「道路法」、参議院「町内会や自治会に入会しないとごみが捨てられない等の町内会及び自治会の問題に関する質問に対する答弁書」をもとにLIMO編集部作成
総会で決めたルールがあっても、会費を払わない人の利用を一切認めない対応は、神戸の裁判では認められませんでした。ルールの有無だけで、請求の当否が決まるわけではありません。
7. 検証:会費と賠償は別の話。実家を相続したときも町内会との関係を確かめる
今回の試算で並べた賠償額と年会費は、性質の違う金額です。賠償は利用を一切認めなかった対応への慰謝料で、年会費は町内会の活動のために払うお金です。賠償が会費の何年分かという見方は、金額の大きさをつかむためのもので、払わなくてよいという意味ではないように思います。
神戸の裁判で目を引くのは、会費が年3600円と1万円という身近な額でも、利用を認めるかどうかで地裁と高裁まで争われた点です。数千円から1万円の話でも、利用を断つ対応にまで進むと、大きな問題になります。
相続では、親が住んでいた実家を引き継ぎ、離れて暮らしながら管理することも少なくありません。町内会の会費やごみ置き場の使い方は地域ごとに違い、親の名義のまま続いていることもあります。
実家を相続したら、町内会に加入しているか、会費を誰が払っているか、ごみ置き場をどう使うかを、早めに確かめておくと安心です。相続の手続きの一覧に加えておくとよいように思います。
町内会の規約や裁判の扱いは、地域や事案で変わります。請求を受けたときは、払う払わないをすぐに決めるより、費用の中身と決め方を尋ねるところから始めるのが、お互いに納得しやすい道のように思います。
8. まとめ
神戸の自治会のごみ捨て場をめぐる裁判では、地裁も高裁も、会費を払わない人の利用を一切認めない対応を違法と判断しました。高裁は、使い続ける権利までは認めませんでしたが、費用や労務の負担は相当な対価を求めて利用を認めれば足りるという考え方を示したとされています。
夫妻あわせて30万円の賠償は、準自治会員の年会費1万円の30年分にあたりますが、会費の代わりになるものではありません。請求を受けたときは、費用の中身と決め方を確かめ、必要に応じて市町村の窓口にも相談しましょう。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。神戸の裁判の内容は、報道や公的資料で紹介された概要で、最高裁での扱いなど確定の状況は変わることがあります。町内会費や利用料の扱いは地域の規約や事情により異なります。個別の請求への対応は、お住まいの市区町村の担当窓口や弁護士などの専門家にご確認ください。