サイゼリヤは2026年10月14日、10月29日から価格改定を実施すると発表しました。

メニュー全般について平均6%の価格改定になります。一例として300円(税込)の「ミラノ風ドリア」は320円(税込)、400円(税込)のメニューは420~430円(税込)など。
なお、当社の提案商品である「フレッシュワイン」と、お得にお楽しみいただける「ランチ」「モーニング限定メニュー」の価格変更はございません。

出所:株式会社サイゼリヤ「10月29日(木)価格改定のお知らせ」(2026年10月14日)

レジャー施設周辺・都市部の一部店舨24店舗は、平均10%の改定となります。安さを武器にしてきたサイゼリヤの値上げだけに、「客が離れるのではないか」と気になる人も少なくないでしょう。

では、この値上げで客数や客単価、売上高はどう変わるのでしょうか。今回は3つの仮説を置いて、日本生命で外国株式のファンドマネージャー、フィデリティ投信で証券アナリストを務めた、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)の泉田良輔が試算します。

今回の仮説:平均6%の値上げで、客数がどう動いたら

外食の売上高は、「客数×客単価」で決まります。値上げで客単価は上がりますが、客数がどう動くかは分かりません。そこで、次の3つの「もしも」を立てて試算してみます。

  1. 値上げ後も、客数が変わらなかったら
  2. 値上げ幅と同じ6%だけ、客数が減ったら
  3. 2026年9月のように、客数が8.6%増え続けたら

先に、この3つの仮説を試算して見えてきた私の結論をお伝えします。

  • 客数が変わらなければ、国内の売上高は年約122億円増えます。国内の営業利益(60億円)の約2倍にあたる額で、原価上昇を吸収する余地が生まれます
  • 客数が6%減っても売上高はほぼ横ばいで、稼ぎ(限界利益)は値上げ前より増えます。分かれ目は、値上げがなかった場合と比べて「客数約1割減」です
  • 値上げの成否は、今後の月次データの「客数」で分かります。客単価の上昇よりも、客数の伸びがどこまで鉄るかに注目してください

一つずつ見ていきましょう。

そもそもサイゼリヤはなぜ、これまで価格を据え置いてきたのか

皆さんは、サイゼリヤが物価高の中でも値段を保ってきたことをご存じでしょうか。同社は10月14日に公表した決算短信で、これまでの方針と今後の方針を次のように説明しています。

メニュー価格方針は、原材料価格の高騰や、エネルギー等のコスト上昇が続く中、様々な改善取組を行い、メニュー価格維持という方針で行ってまいりました。今後も、ソーシングやサプライチェーンの改善などの改善取組は継続して行ってまいりますが、商品の品質を維持し安定して提供していくためのメニュー価格改定は状況に応じて行う方針としてまいります。

出所:株式会社サイゼリヤ「2026年8月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年10月14日)

「価格維持」から「状況に応じて改定」へ。方針の転換です。安さを入り口に客数を増やすという戦略は、数字の上でもはっきり結果に表れていました。

国内既存店の前年同期比(2026年8月期通期)

  • 売上高:+15.7%
  • 客数:+13.4%
  • 客単価:+2.1%

(参考)2026年9月:売上高+10.6%、客数+8.6%、客単価+1.8%

出所:株式会社サイゼリヤ「Saizeriya Monthly Sales Data(2026年9月末現在)」

売上高の伸びの大半は、客数の増加です。一方で、利益は売上ほどは伸びていません。

2026年8月期の業績

  • 連結売上高:3014億円(前期比+17.4%)
  • 連結営業利益:164億円(同+5.9%)
  • 日本の売上高:2033億円(同+17.6%)
  • 日本の営業利益:60億円(同+19.4%、売上高営業利益率は約3.0%)
  • (参考)2027年8月期の連結予想:売上高3337億円(+10.7%)、営業利益212億円(+29.1%)

出所:株式会社サイゼリヤ「2026年8月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年10月14日)

国内では、100円売って手元に残る営業利益は約3円。売上高に対する売上原価の割合も、連結ベースで前期の約41.9%から約43.7%へと上昇しています(決算短信の数値から計算)。客は増えても、食材や人件費の上昇が利益を削っているということです。たとえるなら、客であふれる店なのに、仕入れ値が上がって手元に残るお金が増えない「繁盛貧乏」に近づいていたのかもしれません。仮説を一つずつ試していきましょう。

国内事業の数字をもとに3つのシナリオで試算

ここからは、2026年8月期の国内の売上高(2033億円)を出発点に、次の3つのシナリオで試算します。

  • 仮説1:客単価が6%上がり、客数が変わらない場合
  • 仮説2:客単価が6%上がり、客数が6%減る場合
  • 仮説3:客単価が6%上がり、客数が8.6%増える場合

いずれも試算で、通年1年分の効果を示しています。ここでいう「稼ぎ(限界利益)」は、売上高から食材費など客数に比例して増減する費用(変動費)を引いたものです。変動費の割合は公表されていないため、連結の売上原価率(約43.7%)を目安に約44%と仮定しました。

仮説1:客数が変わらない場合

値上げしても客足がまったく遠のかなければ、売上高は値上げ幅の分だけ増えます。

  • 売上高:年約122億円の増加(+6%)
  • 稼ぎ(限界利益):年約122億円の増加

客数が変わらなければ食材の使用量も変わらないため、値上げ分がほぼそのまま稼ぎになります。国内の営業利益(60億円)の約2倍にあたる額です。ただし、これは「利益が3倍になる」という意味ではありません。値上げはそもそも、食材やエネルギー、人件費の上昇を吸収するためのものです。会社の2027年8月期の連結営業利益予想が「+29.1%」にとどまっているのは、そうしたコスト増も見込んでいるためと考えられます(予想の内訳は公表されていません)。

仮説2:客数が6%減る場合

値上げ幅と同じだけ客が離れたら、どうなるでしょうか。

  • 売上高:年約7億円の減少(▲0.4%、ほぼ横ばい)
  • 稼ぎ(限界利益):年約46億円の増加
  • (参考)稼ぎが値上げ前と並ぶ客数の減少率:約▲9.6%

売上高が横ばいでも、稼ぎは増えます。客が減れば、その分の食材費もかからなくなるからです。計算上は、値上げがなかった場合と比べて客数が約1割減るところまでは、値上げ前の稼ぎを保てることになります。

仮説3:客数が8.6%増える場合

2026年9月の国内既存店の客数は、前年同月比+8.6%でした。この勢いが値上げ後も続いた場合です。

  • 売上高:年約307億円の増加(+15.1%)
  • 稼ぎ(限界利益):年約231億円の増加

客数の伸びと客単価の上昇が掛け算で効き、売上高は15%近く伸びる計算です。会社の2027年8月期の連結売上高予想(+10.7%)を上回るペースです。ただし、客が増えれば人手も必要になり、人件費などの固定費も増え得るため、稼ぎの増加がそのまま営業利益になるわけではありません。

前提:客単価の上昇率は平均改定率の6%としました。実際にはランチやモーニングなど据え置きの商品があり、注文の中身も変わるため、客単価の上昇は6%より小さくなる可能性があります。変動費率は約44%で一定、固定費や原価上昇の影響、値上げが10月29日からであることによる期中の月数の差は考慮していません。

「もしも」は絵空事ではない:客数の伸びはすでに鈍っている

仮説3のような客数の伸びがずっと続くとは限りません。実際、国内既存店の客数の伸びは、値上げ前から少しずつ小さくなっています。

国内既存店の客数(前年同期比)

  • 2026年8月期 上期(2025年9月~2026年2月):+15.3%
  • 2026年8月期 下期(2026年3月~8月):+11.7%
  • 2026年9月:+8.6%

出所:株式会社サイゼリヤ「Saizeriya Monthly Sales Data(2026年9月末現在)」

前年に大きく客数が増えた反動もあり、伸び率が小さくなるのは自然なことです。ただ、この流れの中で値上げが重なれば、客数が前年を下回る局面もあり得ます。外食業界では、値上げ後しばらく客数が落ち込み、その後に戻るかどうかが企業によって分かれるというのが、私の印象です。

では、今後は何を見ればよいのでしょうか。サイゼリヤは毎月、既存店の売上高・客数・客単価を公表しています。値上げの影響が丸ごと表れるのは、2026年11月分からです。

月次で見るべき数字

  • 客数:前年同月比がプラスを保てるか。値上げ前の伸び(9月は+8.6%)からどれだけ鈍るか
  • 客単価:平均6%の改定に対し、実際に何%上がるか。小さければ、据え置きのランチなどに注文が移っている可能性
  • 売上高:客数と客単価の掛け算でどう着地するか

なお、月次の数字は休日の数などでも振れます。たとえば2026年9月の既存店売上高には、前年より休日が多いことによる約2%の押し上げ効果があると、会社は注記しています。1か月だけでなく、数か月分を並べて見ることが大切です。

元機関投資家イズミダの視点

「値上げしたら客が離れて、業績は悪くなる」という声をよく耳にします。しかし、これは誤解だと私は考えています。仮説2で見たように、値上げ幅と同じだけ客が減っても、食材費が減る分だけ稼ぎは増える計算です。問題は客が減るかどうかよりも、「どこまで減るか」です。分かれ目は、値上げがなかった場合と比べて「客数約1割減」ということになります。

もう一つよくあるのが、「6%値上げすれば、利益もその分増える」という考え方です。これも誤解だと私は考えています。今回の値上げは、コスト上昇を吸収しきれなくなったためだと会社は説明しています。値上げで増える稼ぎの多くは、上がった食材費や人件費の穴埋めに回ると考えるのが自然でしょう。

私は企業を分析するとき、「率ではなく額で見る」ことを大切にしています。平均6%という「率」は小さく見えますが、国内の売上高が2000億円を超える会社にとっては年約122億円という「額」になり、国内の営業利益60億円の約2倍です。売上高に対する利益の割合が約3%と薄い会社ほど、わずかな価格の変化が利益を大きく左右します。そして、その額を守れるかどうかの鍵を握っているのは、結局のところお客さんの足です。月次の「客数」という地味な数字が、この値上げの成否を一番早く教えてくれると私は考えています。

まとめ――サイゼリヤの値上げの影響を見るときのチェックポイント

サイゼリヤは「価格維持」の方針を転換し、10月29日から平均6%の値上げに踏み切ります。国内事業で試算すると、客数が変わらなければ売上高は年約122億円増え、客数が6%減っても売上高はほぼ横ばいで稼ぎは約46億円増える計算です。分かれ目は、値上げがなかった場合と比べた「客数約1割減」です。ただし、値上げの目的はコスト上昇の吸収であり、稼ぎの増加がそのまま利益になるわけではありません。今後の影響を見るときは、次の点を確かめてみてください。

  • 月次の国内既存店の客数が、前年同月比でプラスを保てているか
  • 客単価の上昇が、平均改定率6%に対してどの程度か
  • 休日の数などの特殊要因を除いて、数か月分を並べて見ているか
  • 決算で、売上原価の割合や国内の営業利益率が改善しているか

値上げの成否を判断するのは、発表の日ではなく、これから毎月出てくる客数の数字です。

参考資料

  • 株式会社サイゼリヤ「10月29日(木)価格改定のお知らせ」(2026年10月14日)(https://www.saizeriya.co.jp/files/261014-10%E6%9C%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E6%94%B9%E5%AE%9A5.pdf)
  • 株式会社サイゼリヤ「2026年8月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年10月14日)(https://www.saizeriya.co.jp/files/544q決算短信7.pdf)
  • 株式会社サイゼリヤ「Saizeriya Monthly Sales Data(2026年9月末現在)」(https://www.saizeriya.co.jp/files/%E3%80%907581%E3%80%91Saizeriya-Monthly-Sales-Data-2609-2%E8%8B%B1%E6%96%87.pdf)

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の購入や売却を推奨するものではありません。試算は客単価や変動費率に関する編集部の仮定に基づく目安であり、会社の業績や見通しを示すものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。内容は2026年10月15日時点の情報に基づいています。

泉田 良輔