国際通貨基金(IMF)は2026年10月、「国際金融安定性報告書(GFSR)」を公表しました。第1章のタイトルは「Beneath the Resilience: Rising Risks, Unresolved Vulnerabilities(強靱さの下で:高まるリスク、未解決の脆弱性)」。市場は一見落ち着いていても、その下でリスクが高まっている、という問題意識がうかがえます。
IMFはこれまでも、AI関連株の評価が修正されるリスクに触れてきました。半導体やAI関連の株式をNISAで持っている方にとって、「もしバブルだったら」という不安は他人事ではないでしょう。
そこで今回は、読者から寄せられた疑問に、LIMO&ファイナンス編集長の泉田良輔が答えます。泉田は日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)で、日本生命で外国株式のファンドマネージャーを、フィデリティ投信でテクノロジーセクターのアナリストを務めてきた元機関投資家です。アジア通貨危機や昭和金融恐慌など、金融パニックの研究も手がけています。
読者の疑問
個人投資家です。NISAで半導体関連株やAI関連株を購入しています。現在の株式市場が「AIバブル」とするのであれば、バブルがはじけると、株式市場はどうなってしまうのでしょうか。今後、以前あったドットコムバブル、サブプライムローンバブルなどがはじけて、ITバブル崩壊、リーマンショック、というようなパニックが起きたら、個人投資家レベルの資産運用はどうするのがよいのでしょうか?また、準備できることはありますか?
ご質問ありがとうございます。先にお断りしておくと、いまがバブルかどうか、いつはじけるかを当てることは、私にもできません。ただし、「はじけたときに何が起きるか」と「いま何を準備できるか」は、過去の歴史から学ぶことができます。結論は次の3点です。
- 暴落の深さは想像以上:リーマン・ショック期、日経平均は高値から約6割下落しました
- 集中投資ほど痛みは大きい:特定のテーマに偏るほど下落幅が大きく、元に戻るまでの道のりも長くなります
- 準備は「暴落前」にしかできない:資産配分の見直しと生活防衛資金の確保は、落ち着いているいまだからこそできます
一つずつ見ていきましょう。
過去のバブル崩壊で、株価はどこまで下がったか
まずは、歴史を振り返っておきましょう。日経平均株価を算出している日本経済新聞社は、ITバブル崩壊からリーマン・ショックまでの流れを、2000年3月に2万円台に乗せていた日経平均は同年10月に1万5000円をわったとしています。
一方で、リーマン・ショックでは、さらに深い下落が起きました。
リーマン・ショック期の日経平均
- 2007年7月:1万8261円まで戻す
- 2008年10月27日:7162全90銭(終値)とバブル崩壊後の最安値を更新
- 2009年3月10日:7054全98銭(終値)。1982年10月以来の水準
- 2007年7月からの下落率:約▲61%(編集部計算)
約6割の下落です。しかも日経平均は225銘柄に分散した指数ですから、特定のテーマの株に絞っていれば、下落がこれより大きくなることも十分にありえます。
一方で、バブル崩壊後の最安値から3カ月あまりで4割上昇ということもあります。底値は、誰もが悲観しているときにやってきて、そこからの反発も速い。これも歴史が教えることです。
では、いまはAIバブルなのでしょうか。IMFは2026年1月の世界経済見通しの記者会見で、次のように述べています。
Potential overvaluation of the U.S. equity market remains modest so far compared to the 1995–2000 dot-com episode.
「米国株式市場の割高感は、今のところ1995~2000年のドットコム期に比べれば控えめ」という意味です。ただし同じ記者会見では、AI関連株の評価がある程度修正されるリスクにも触れています。専門家でも「バブルかどうか」は断定できない。だからこそ、「はじけても耐えられる形」にしておくことが大事になるのです。
6割下がると元に戻すには2.5倍。集中投資とNISAの注意点
暴落の怖さは、下落率の数字以上に「元に戻すのが大変」というところにあります。100万円が6割下がると40万円。これを100万円に戻すには、2.5倍、つまり150%の上昇が必要です。下落が深いほど、復活に必要な上昇率は加速度的に大きくなります。
下落率と、元に戻すのに必要な上昇率(編集部計算)
- 20%下落:25%の上昇が必要
- 40%下落:約67%の上昇が必要
- 60%下落:150%の上昇が必要
- 80%下落:400%の上昇が必要
では、資産配分によって暴落の影響はどれくらい変わるのでしょうか。500万円を運用している人を例に試算してみました。
500万円の資産で暴落が起きた場合(編集部試算)
前提:AI・半導体株が60%下落、世界全体の株式が40%下落、預金・個人向け国債は変わらないと仮定
- Aさん(AI・半導体株500万円に全資産を投資):200万円に減少(▲300万円)
- Bさん(AI・半導体株100万円、世界株式の投資信託250万円、預金・国債150万円):340万円に減少(▲160万円)
※編集部試算。下落率は説明のための仮定で、リーマン・ショック期の日経平均の下落率(約▲61%)を参考に設定。将来の下落率を示すものではない
同じ500万円でも、損失は300万円と160万円と大きく変わります。さらに大事なのは、Bさんには暴落後も値下がりしていない預金・国債が150万円残っていることです。生活費に困らず、安くなった株式を買い増す余力もあります。
ここで、NISAならではの注意点も押さえておきましょう。日本証券業協会のQ&Aには次の記述があります。
NISA 口座では、上場株式や公募株式投資信託等の配当金や売買益等は非課税となる一方で、これらの売買損失は税務上ないものとされます。
つまり、NISAで出た損失は、特定口座など他の口座の利益と相殺(損益通算)できません。課税口座なら損失で税金を減らせる場面でも、NISAではその救済がありません。非課税という大きなメリットの裏返しです。
なお、金融庁によれば、NISAで商品を売却すると、翌年以降に「売却した商品の簿価(取得金額)の分だけ」非課税投資枠が復活します。暴落時に慢てて売った場合も枠そのものは戻りますが、復活するのは翌年以降です。底値圈で買い直したくても、その年の枠が残っていなければNISAでは買えない、ということになります。
暴落が来る前に、いまから準備できる4つのこと
暴落が始まってからでは、冷静な判断は難しくなります。だからこそ、準備は市場が落ち着いているいまのうちにしておきたいところです。私がおすすめしたいのは、次の4つです。
一つ目は、生活防衛資金を株式とは別に確保することです。暴落でいちばん避けたいのは、生活費のために下がった株式を売らざるを得ないことです。この部分は、値下がりしにくい預金や個人向け国債などに置いておきましょう。
二つ目は、特定のテーマへの集中を資産全体で確かめることです。分散投資について、金融庁は次のように説明しています。
1つの資産だけに投資するより、値動きが異なる複数の資産(国内/海外、株式/債券/不動産など)に分散して投資を行うことで、価格の変動をある程度抑えられ、安定的な運用を目指すことができます。
出所:金融庁「資産形成の基本」
半導体やAIの個別株だけでなく、S&P500などの米国株のインデックスファンドも、時価総額の大きいテクノロジー企業の比重が高くなることがあります。「分散しているつもりで、実は同じテーマに偏っていた」ということがないか、保有商品の月次レポートで組入上位銘柄を確かめてみてください。
三つ目は、積立を続ける前提で計画を立てることです。金融庁は積立投資について、「安いときに買わなかったり、高いときにだけ買ってしまうことを避けられます」と説明しています。暴落時は、積立で安く買える時期でもあります。先ほど触れたように、底値からの反発は速いことがあります。止めてしまうと、その機会を逃します。
四つ目は、「暴落したらどうするか」をいまのうちに紙に書いておくことです。たとえば「積立は止めない」「個別株は資産の◯%まで」「下がったら預金から◯万円まで買い増す」といった具合です。パニックの最中には、人はどうしても「売って楽になりたい」と考えてしまいます。落ち着いているときの自分が決めたルールが、暴落時の自分を助けてくれます。
元機関投資家イズミダの視点
バブルの話題になると、「はじける前に全部売って、底で買い戻せばいい」という声をよく耳にします。
しかし、これは現実的ではないと私は考えています。プロの機関投資家でも、天井と底を当て続けることはできません。IMFでさえ「ドットコム期に比べれば割高感は控えめ」としながら、修正のリスクにも触れています。売るタイミングと買い戻すタイミングの両方を当てる必要がある以上、外れる確率は小さくありません。
もう一つ、「バブルがはじけたらAIは終わり」という見方も誤解だと考えています。私はフィデリティ投信でテクノロジーセクターを担当していましたが、ITバブルがはじけた後も、インターネットは社会に広がり続けました。はじけたのは技術ではなく、「株価に織り込まれた期待」です。そして、生き残った会社と消えた会社の差は大きかった。だからこそ、テーマに賭けるなら個別企業の稼ぐ力を見る必要があり、それが難しいなら広く分散する、という選択になります。
私は金融パニックの歴史を研究してきましたが、パニックで大きく傷つくのは、下落そのものよりも「売らざるを得ない状態」に追い込まれた人です。個人投資家の皆さんにとっての最大の武器は、売らなくてもよい「時間」と「現金」を持っていることだといえるでしょう。
まとめ――AIバブル崩壊に備えるためのチェックポイント
いまがAIバブルかどうかは、誰にも断定できません。ただし、リーマン・ショック期に日経平均が約6割下落したように、パニックが起きれば株価は想像以上に下がります。6割下がった資産を元に戻すには2.5倍の上昇が必要で、特定のテーマに集中しているほど痛みは大きくなります。しかもNISAでは損失を他の口座の利益と通算できません。準備は、市場が落ち着いているいましかできません。次の4点を確かめてみてください。
- 生活防衛資金を、株式とは別に預金や個人向け国債で確保しているか
- 半導体・AIなど特定テーマの比重が、資産全体で大きくなりすぎていないか(投資信託の組入上位も含めて)
- 暴落時も積立を続けられる金額設定になっているか
- 「暴落したらどうするか」を、落ち着いているいまのうちに書き出してあるか
バブルを当てることより、はじけても売らずに済む形をつくっておくこと。それが、個人投資家にできるいちばん確かな備えといえるでしょう。
参考資料
- International Monetary Fund「Global Financial Stability Report, October 2026」(https://www.imf.org/en/publications/gfsr/issues/2026/10/13/global-financial-stability-report-october-2026)
- International Monetary Fund「Transcript of the January 2026 World Economic Outlook Update Press Conference」(https://www.imf.org/en/news/articles/2026/01/21/tr-01212026-weo-press-conference-on-release-of-the-january-2026-world-economic-outlook-update)
- 日本経済新聞社「2000年代:911テロとリーマン・ショック」(https://indexes.nikkei.co.jp/atoz/2016/06/2000s.html)
- 日本経済新聞社「バブル崩壊後最安値」(https://indexes.nikkei.co.jp/atoz/2018/03/20090310.html)
- 日本証券業協会「2024年以降のNISAに関するQ&A」(https://www.jsda.or.jp/shijyo/seido/tax/files/202609_nisa_qa.pdf)
- 金融庁「NISAを知る」(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/index.html)
- 金融庁「資産形成の基本」(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/invest/)