ユニクロを展開するファーストリテイリングが、2026年10月8日に2026年8月期の決算を発表しました。売上収益は3兆6兆円超えの3兆9633億円(前期比16.6%増)、営業利益は7431億円(同31.7%増)。年間配当は1株あたり850円で、次の2027年8月期は900円への増配を予想しています。
これだけ業績が好調だと、「株を持ってみたい」と考える方もいるでしょう。ところが、調べてみるとファーストリテイリングには株主優待がありません。小売業や外食には自社の買物券や割引券を配る会社が多いだけに、不思議に感じるのも無理はありません。
そこで今回は、読者から寄せられた疑問に、LIMO&ファイナンス編集長の泉田良輔が答えます。泉田は日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)で、日本生命で外国株式のファンドマネージャーを、フィデリティ投信でアナリストを務めてきた元機関投資家です。
読者の疑問
「ユニクロの業績が好調なので、ファーストリテイリング株に興味があるのですが、この会社株主優待の制度がないです。事業はリテールなのになぜなのでしょうか」
会社自身は優待を実施しない理由を公表していません。そこで今回は、会社が示している配当の考え方と、有価証券報告書の株主構成から、優待を設けないことの合理性を読み解いていきます。結論は次の3点です。
- 還元の手段:優待ではなく、株数に応じて公平に行き渡る配当で利益を還元しています
- 株主の顔ぶれ:株式の約57%を金融機関と外国法人等が保有しており、優待の恵むを受けにくい株主が多数派です
- 規模の問題:優待を配っても、配当総額に比べればわずか。「なくても困らない」というのが実情といえるでしょう
一つずつ見ていきましょう。
会社は「優待なし、配当で還元」という立場
まずは会社の説明から確かめましょう。ファーストリテイリングのIRサイトには、株主優待について次の一文があるだけです。
Q: 株主優待制度はありますか?
A: 現在のところ、実施しておりません。
理由は書かれていません。ただし、同じページで配当の考え方は次のように説明しています。
当社は、将来にわたり競争力の維持を図り、企業価値を高めることで株主のみなさまへ利益還元を図りたいと考えております。 このような観点から、利益配分につきましては、今後の事業拡大のための内部資金の確保と株主のみなさまへの安定的な配当を念頭に、財政状態、利益水準および配当性向を総合的に勘案して実施することとしております。
つまり、「企業価値を高めること」と「配当」が還元の2本柱です。その配当の中身を、決算短信から見てみましょう。
2026年8月期の配当
- 年間配当:1株あたり850円(中間320円、期末530円)
- 配当金の総額:2608億2400万円
- 配当性向(連結):48.1%
- 2027年8月期の予想:年間900円(中間450円、期末450円)
利益のおよそ半分を配当に回している、ということになります。100株を持っていれば、2026年8月期の配当は8万5000円(税引前)。予想どおりなら、次の期は9万円です。優待はなくても、株主への還元が少ない会社ではないといえるでしょう。
株主の約57%は金融機関と海外投資家。優待が届きにくい株主が多数派
では、なぜ優待ではなく配当なのでしょうか。
私が機関投資家として企業を分析していたころ、「この会社の株主は誰か」は必ず確かめる項目でした。還元のやり方は、株主の顔ぶれに合わせて決めるのが自然だからです。有価証券報告書の「所有者別状況」を見ると、次のようになっています。
株主の構成(2025年8月31日現在、所有株式数の割合)
- 個人その他:32.79%(株主数1万735人)
- 金融機関:28.76%(同64人)
- 外国法人等:28.52%(同1036人)
- その他の法人:8.01%(同239人)
- 金融商品取引業者:1.92%(同38人)
- 外国個人:0.00%(同62人)
- 株主数の合計:1万2174人
出所:ファーストリテイリング「有価証券報告書(2025年8月期)」。割合は単元数ベース
金融機関と外国法人等を合わせると、57.28%。株式の半分以上を、年金や投資信託のお金を預かる信託銀行や、海外の機関投資家が持っていることになります。大株主の1位は日本マスタートラスト信託銀行(19.83%)、3位は日本カストディ銀行(9.35%)です。また「個人その他」の32.79%には、大株主上位に並ぶ個人名義の大口保有も含まれています。
ここで、優待の性質を思い出してみましょう。優待は「100株以上で買物券◯円分」のように、株主1人あたりで株式の持ち株数の範囲に応じて配るのが一般的です。ただ、一定以上の株数を保有する株主からすると、比例して株主優待のリワードが増えるという仕組みにはあまりなっていません。配当なら、持っている株数に比例して公平に行き渡ります。
さらに、年金や投資信託を運用する機関投資家にとって、買物券は運用成果になりません。最終的な受益者である年金加入者や投信の保有者に、買物券を届けることはできないからです。株主の半分以上がこうした投資家である以上、優待より配当のほうが、株主全体にとって納得感のある還元方法だといえるでしょう。
仮に優待を配ったら?(編集部試算)
- 前提:株主1人につき3000円分の買物券を配る
- 株主数:1万2174人(2025年8月31日現在)
- 優待の総額:約3652万円
- 2026年8月期の配当総額:2608億2400万円
- 配当総額に対する割合:約0.01%
※優待の内容は編集部が置いた仮定で、発送などの事務コストは含めていない。株主数と配当総額は基準日が異なる。
会社の規模からすると、優待は「誤差」といえるほどの金額です。コストが重いからやらないのではなく、「やっても株主全体の価値はほとんど変わらない、しかも届く相手が偏る」。そう考えると、優待を設けないことには十分な合理性がある、ということになります。
この3年で株主数は約1.9倍、海外投資家の比率も上昇
株主構成を時系列で並べると、もう一つ興味深いことがわかります。個人株主の数は増えている一方で、海外投資家の保有比率も上がっているのです。
2022年8月31日現在
- 株主数の合計:6420人
- うち個人その他:5309人
- 外国法人等の保有比率:18.75%
2025年8月31日現在
- 株主数の合計:1万2174人
- うち個人その他:1万735人
- 外国法人等の保有比率:28.52%
株主数は3年で約1.9倍。それでも総数は1万人あまりです。ユニクロの知名度を考えると、少ないと感じる方もいるでしょう。個人にとっては、まだ「身近な会社なのに、株主にはなりにくい」会社だといえます。
その一方で、外国法人等の比率は約10ポイント上がりました。ユニクロを世界で展開する会社らしく、株主もグローバル化している、ということがわかりました。この構成を見る限り、国内の個人株主だけに恵みが偏る優待より、配当を軸にした還元のほうが整合的だといえるでしょう。
元機関投資家イズミダの視点
「優待がない会社は株主を大事にしていない」という指摘もあるかと思いますが、 ファーストリテイリングは2026年8月期に配当として総額2608億円あまりを支払い、次の期も増配を予想しています。還元の有無ではなく、還元の「形」の違いです。
また、「小売業なら優待があるのが当たり前」と考える方もいるかと思います。しかし、 優待は法律で定められた制度ではなく、会社が任意で行うものです。業種よりも、株主の顔ぶれや還元の考え方で決まります。
優待は、個人投資家にとってわかりやすい魅力です。私もその楽しさを否定するつもりはありません。
しかし、株式投資で大事なのは、優待の有無よりも「その会社が稼ぐ力を伸ばし続けられるか」です。配当も株価も、稼ぐ力の結果としてついてきます。ファーストリテイリングがアピールしているのは、まさにこの部分だといえるでしょう。
優待のない会社を検討するときは、優待の代わりに「配当はいくらか」「利益は伸びているか」を円の金額で確かめてみてください。優待のある会社と比べるときも、「優待+配当」と「配当だけ」を同じ物差しで比べると、判断を誤りにくくなります。
まとめ
ファーストリテイリングに株主優待がない理由を、会社は公表していません。ただし公開情報からは、次のような合理性が読み取れます。
- 企業価値の向上と配当で還元する方針を示しており、2026年8月期の配当性向は48.1%
- 株式の約57%を金融機関と外国法人等が保有し、優待では恵みが偏る
- 優待を配っても配当総額に比べてわずかで、株主全体の価値はほとんど変わらない
優待の有無ではなく、配当と利益の伸びで会社を見ること。それが、優待のない企業を検討するときの第一歩といえるでしょう。
参考資料
- ファーストリテイリング「2026年8月期 決算短信〔IFRS会計基準〕(連結)」(https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/tanshin202608_4q.pdf)
- ファーストリテイリング「よくあるご質問」(https://www.fastretailing.com/jp/ir/faq/)
- ファーストリテイリング「有価証券報告書(2025年8月期)」(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100X6X6)
- ファーストリテイリング「有価証券報告書(2022年8月期)」(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100POPP)
LIMO編集部