この記事の読みどころ
米連邦準備制度理事会(FRB)には12の地区連銀がありますが、各地区連銀は特色のある経済指標を公表しています。経済指標の中でもGDP(国内総生産)は景気動向を知る上で重要な指標ですが、公表が遅いのが欠点です。
そこで、アトランタ連銀は速報性の高いGDP予想(本物は米国商務省が公表)を公表してきました。さらに、2016年4月からはニューヨーク連銀もGDP予想(ナウキャスト)の公表を開始しています。2つのGDP予想方法はどこが違うのか、利用方法をご紹介します。
アトランタ連銀に続きニューヨーク連銀もGDP予想を公表、1-3月期のGDPは?
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米地区連銀GDP予想モデル:アトランタ連銀に続きNY連銀も公表開始
ニューヨーク連銀(以下、NY連銀)は、米国のGDP(国内総生産)を予想する「ナウキャスト」を2016年4月15日から毎週金曜日に公表(ただし当局者が金融政策に関する公式発言を自粛するブラックアウト期間を除く)しています。
4月15日時点の、NY連銀が予想する2016年1-3月期GDP成長率は前期比年率で0.8%となっています。一方、先行してGDP予想を発表していた米アトランタ連銀の「GDPナウ」は同成長率を0.4%と予想しています(4月26日時点)。
どこに注目すべきか:GDPナウ、ナウキャスト、1-3月期GDP
アトランタ連銀の提供する(公式ではない)GDPナウはGDP予想値として市場でも利用が見られ、調査レポートなどでも参照されています。最近、NY連銀もGDP予想(ナウキャスト)の公表を開始しました。2つのGDP予想方法は使用するデータや計算方法が異なり、予想値に特色(クセ)が見られます。予想方法の違いは以下の通りです。
まず、アトランタ連銀のGDPナウはGDP(の予想)に関連する経済指標であるISM製造業景況指数や国際貿易統計、小売売上高などのデータを用いて、これらの指標が新たに公表されるたびに新たなGDP予想値を算出するイメージです。したがって、GDPナウの予想値はデータが出揃う予想期間の終わりにかけて「真の値」に近くなる傾向が見られます。
例えば、GDPナウによる2016年1-3月期のGDP予想値の推移を見ると、予想開始時期の2月は2%を越えていました。しかしデータが出揃う4月末に向け低下(4月26日で0.4%)しています。
米国のGDPがこの期間に大きく変動した可能性もありますが、予想開始当初のデータがたまたま好調で、3月頃に公表されたデータ(例えばコア資本財出荷)の低下がGDP予想の低下に影響した可能性もあります。大雑把に言って、GDPナウのクセとしては予想開始時期より終了間際(1-3月GDP予想では4月末)の精度が高い印象です。
一方、NY連銀が公表するナウキャストは、GDPナウと違い幅広い経済データを利用します。例えば、雇用者数などGDPの構成と異なるデータも使用します。またナウキャストの算出方法は様々な経済指標の動向の背後にある共通因子からGDPを予想します。
そのため、ナウキャストでは予想する各時点で様々なデータを反映しやすく、どの時点の予想でも景気動向の実態に近いことが期待されます。GDPナウと比べナウキャストの予想値は(データによる)変動が小さいように見られます。
2つのGDP予想をどのように利用すべきか?
米商務省は4月28日に「正式」の1-3月期GDPを公表します。どちらの予想値が正式のGDPに近いかという点だけでGDPナウとナウキャストの優劣を単純に判断することは避けるべきと思われます。
今後の検証(ナウキャストは公表されたばかり)が必要ですが、経済動向を知る上ではGDPナウとナウキャストの予想方法の違いにより生ずる予想値の違いを踏まえて使い分けるのが望ましいと考えています。
例えば、2016年1-3月期はGDPナウでは0.4%と低い数字ですが、ナウキャストは(恐らく)足元の米国の景気回復を反映して若干高い0.8%となっています。またナウキャストは4-6月期を1.2%と予想を算出しており、足元米国は緩やかに回復していると読み取るべきとも見ています。
【2016年4月28日 ピクテ投信投資顧問 梅澤 利文】
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