1. コンテナ船を運ぶ会社は、連結のなかにいなかった

川崎汽船は報告セグメントを三つに分けている。ドライバルク、エネルギー資源、製品物流である。

有価証券報告書によれば、製品物流には自動車船事業、物流事業、近海・内航事業、そしてコンテナ船事業が含まれる。ここまでは、海運会社としてごく普通の並びだ。

意外なのは、その製品物流を構成する会社の一覧である。川崎汽船本体や川崎近海汽船といった連結会社に混じって、OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(以下、ONE社)とオーシャンネットワークエクスプレスホールディングスの2社に、関連会社を示す印が付いている。

つまり連結子会社ではない。持分法(関連会社の利益を持株比率に応じて取り込む会計処理)を適用する関連会社だ。

ホールディングスに対する議決権所有割合は31.0%。過半に遠く及ばない。ONE社にいたっては、議決権所有割合の欄が空欄になっている。

コンテナ船は海運のなかでも最も目立つ事業だろう。その事業を、この会社は自分の連結のなかに持っていない。売上高には1円も乗らない構造になっている。

2. 営業利益841億円、経常利益1,091億円。差はどこから来るのか

この持ち方は、損益計算書の形をはっきり変える。

2026年3月期の連結売上高は1兆183億円、営業利益は841億円だった。ところが経常利益は1,091億円と、営業利益を250億円上回っている。

会社によると、この期に持分法による投資利益として227億円を計上した。うちONE社からの計上額は150億円である。

営業段階の外側で積み上がった利益が、経常利益を押し上げた。売上に乗らない事業の成果は、こういう形で決算に現れる。

面白いのは、この構造が年によってまったく違う顔を見せる点だ。過去5期の営業利益と経常利益を並べてみよう。

2022年3月期は営業利益176億円に対し、経常利益6,575億円。翌2023年3月期は営業利益788億円に対し、経常利益6,908億円である。

営業利益の数十倍から数倍という、通常の事業会社ではまず見ない開きだ。営業外収益がそれぞれ6,561億円、6,360億円に達していた。

その後は落ち着いていく。2024年3月期の経常利益は1,327億円、2025年3月期は3,080億円、2026年3月期は1,091億円。営業外収益も632億円、2,143億円、380億円と大きく上下してきた。

ここで営業利益のほうを見直すと、様子が違う。176億円、788億円、841億円、1,028億円、841億円。凸凹はあるが、経常利益ほど暴れてはいない。

海運は市況産業だとよく言われる。だがこの会社に関しては、市況の振れが連結の営業段階ではなく、持分法という別の入口から入ってくる。

バランスシートを見ると、その偏りはさらにはっきりする。2026年3月期末の投資有価証券は1兆2,018億円。総資産2兆3,439億円のおよそ半分にあたる。

一方、船をはじめとする有形固定資産は4,936億円である。投資有価証券のほうが2倍以上大きい。

船会社の資産の中身が、船ではなく他社への出資だという状態だ。セグメント別でも、製品物流の資産は1兆6,680億円と突出している。売上では6,164億円と全体の6割程度なのに、資産では7割を超える。

この会社を「船を持って運ぶ会社」とだけ捉えると、決算の半分を読み落とすことになる。

3. 昨秋から6割。株価はどの利益を見て動いたのか

株価の動きに移ろう。2025年10月末の終値は2,200円台。11月末には2,000円台まで下げている。

この2,000円台が、2025年10月末以降の月末終値では最も低い水準だ。

そこからは緩やかに戻していく。年明けの2026年1月末に2,200円台、2月末に2,500円台、3月末に2,600円台と、三か月かけて水準を切り上げた。

もっとも、そこからは足踏みが続く。4月末2,500円台、5月末2,500円台、6月末は2,400円台と、むしろ小幅に押している。

動きが変わるのは夏だ。7月末に2,800円台へ、8月末には3,300円台へ。2026年9月時点の終値は3,400円台にある。

昨秋の水準から見れば6割近い上昇である。最も低かった2025年11月末と2026年8月末を比べても、同じくらいの上げ幅になる。

夏場の動きが急だった理由を一つに決めることはできない。ただ、この時期に会社が通期の経常利益計画を引き上げている。業績計画の変化が意識された可能性は考えておきたい。

興味深いのは、上向いたのが営業利益の計画ではなかったことだ。市場が見ていたのは連結の本業ではなく、その外側にある利益だった可能性がある。

だとすれば、この銘柄の株価は「船の商売がどうか」よりも「持分法の向こう側がどうか」で動いていることになる。海運株という呼び名から受ける印象とは、少しずれた話ではないだろうか。

4. 筆者コメント

見逃せないのは、この会社の利益の出方が二層になっている点だ。

一階には、自分で船を持ち、自分で運んで得る利益がある。ここは市況に振られるとはいえ、中長期契約が下支えする。ある程度は読める世界だ。

二階には、持分比率に応じて取り込む利益がある。こちらは自分でコントロールできない。相手先の業績がそのまま比率分だけ流れ込んでくる。

厄介なのは、二階の振れ幅が一階より大きいことだ。読める部分が土台にあり、読めない部分が屋根に乗っている。しかも屋根のほうが重い年がある。

こういう会社を、四半期ごとの営業利益だけで追うのは無理がある。経常利益と営業利益の差がどれだけ開いたか。そこを毎回見ておくと、この銘柄の景色は一段はっきりしてくるはずだ。

5. 2027年3月期1Qと、引き上げられた通期の経常利益計画

直近の決算を確認しておこう。2027年3月期1Qの売上高は2,868億円、営業利益は195億円、経常利益は240億円、純利益は233億円だった。

ここでも営業利益と経常利益の差が45億円ある。四半期単位でも、同じ構造が働いている。

通期計画の動きが目を引く。2026年3月期の決算発表時点では、2027年3月期の売上高1兆200億円、営業利益830億円、経常利益1,000億円、純利益950億円という計画だった。

これが1Q決算の時点で書き換えられた。売上高1兆700億円で前期比+5.1%、営業利益850億円で+1.0%、経常利益1,350億円で+23.7%、純利益1,350億円で+1.5%である。

営業利益は830億円から850億円への小幅な変更にとどまる一方、経常利益は1,000億円から1,350億円へ350億円の引き上げとなった。

本業の見通しはほぼ据え置き、営業外の見通しだけを大きく上げた形だ。この会社の業績計画がどこで動くのかを、端的に示した修正といえる。

前の期の着地も見ておく。2026年3月期は売上高が前期比▲2.8%、営業利益が▲18.2%、経常利益が▲64.6%、純利益が▲56.5%だった。

減益率が経常段階で一気に膨らむのも、前期の営業外収益が2,143億円と大きかった反動である。振れる場所が決まっている会社なのだ。

なお2026年3月期は、純利益1,329億円が経常利益1,091億円を上回った。特別利益を256億円計上し、法人税等がマイナス計上となったことが効いている。年間配当は120円だった。

6. 自己資本比率76.9%。海運の中央値を30ポイント上回る財務の作り

財務の姿も、海運のイメージとはかなり違う。

2026年3月期末の自己資本比率は76.9%。海運業の中央値47.5%を30ポイント近く上回る。借入で船を買い続ける業種という一般的な見方からは、離れた水準だ。

収益性も業種の中では上に位置する。営業利益率は8.3%で中央値7.0%より高く、純利益率は13.1%で中央値8.7%を上回る。

一方でROE(自己資本利益率)は7.7%と、中央値7.5%とほぼ並ぶ水準にとどまる。利益率が業種平均より高いのに資本効率が平均並みというのは、分母である自己資本が厚すぎることの裏返しだろう。

2026年3月期の営業キャッシュフローは2,647億円で、設備投資906億円を大きく上回った。財務キャッシュフローは▲1,247億円である。

稼いだ現金で借入を返し、株主に返し、それでも自己資本が積み上がっていく。財務の安全度という点では申し分ない。

ただし、負債をほとんど使わない構えが資本効率の観点で最適かどうかは、別の論点として残る。使われていないデットキャパシティは、それ自体が機会損失にもなりうるからだ。

7. 筆者コメント

過去5期を並べると、この会社の株主が経験してきたものの正体が見えてくる。

営業段階の利益は、良くも悪くも一定の幅に収まっていた。一方で最終的な利益は、桁が変わるほど上下した。振れをもたらしたのは、自分で運ぶ事業ではなく、出資して持つ事業のほうだ。

これは分散のようでいて、分散ではない。海運という同じ市況のなかに、連結と持分法という二つの入口があるだけだからだ。市況が沈めば両方沈む。ただし沈み方の深さが違う。

面白いのは、その構造が財務の厚みを生んだ点だろう。連結の外で大きく稼いだ時期の利益が、配当と自社株買いを経てなお自己資本に残った。いまの高い自己資本比率は、そのなごりでもある。

豊かになった財務をこれからどう使うのか。船に戻すのか、出資を厚くするのか、株主に返すのか。この三択の答えが、次の5期の利益の形を決める。決算では利益の額より、資本の行き先を追いかけてみてほしい。

参考資料

9. 免責事項

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石津 大希