みずほ投信投資顧問株式会社 株式運用部 チーフファンドマネージャー 兼 企業調査部 シニアアナリスト 岩本誠一郎
みずほ投信投資顧問株式会社 株式運用部 チーフファンドマネージャー 兼 企業調査部 シニアアナリスト 岩本誠一郎氏に、MHAM新興成長株オープンの調査手法とその体制、運用における工夫についてお伺いしました。
投資家に伝えたい3つのポイント
2015年トータルリターン第1位(注)のファンドのパフォーマンスは、400の投資テーマを継続的に調査し、関連銘柄の業績成長が顕在化するのに先駆けてポートフォリオに組み込むことで実現してきた。
企業との対話を最重視し、時には事業に対する厳しい指摘なども行い、企業の業績を共に向上させていく。
日本の新しい産業を育てていくファンドであり、同じ視点から日本の未来を応援したい投資家に保有してほしい。
(注)純資産総額10億円以上、DC(確定拠出年金)およびSMA(ラップ専用ファンド)を除く全ての追加型公募株式投信におけるモーニングスター社のランキング
“2015年のパフォーマンスNo.1ファンド”を支える背景
――「MHAM新興成長株オープン(愛称:J-フロンティア)」 (以下、J-フロンティア)[リスク] と [費用] は2012年頃から好調なパフォーマンスを記録し、2015年についにトータルリターン第1位となりました。良好なパフォーマンスの背景について教えてください。
みずほ投信投資顧問株式会社 株式運用部 チーフファンドマネージャー 兼 企業調査部 シニアアナリスト 岩本誠一郎(以下、岩本):毎日そして20年間にわたり、社内のファンドマネージャーとアナリストが一体となって投資アイデアを検討し続けてきました。その結果、400もの「投資テーマ」が蓄積されました。有望な投資テーマとその関連銘柄を調査し続けることで、成長が期待できる銘柄を発掘し、業績成長が顕在化するのに先駆けタイミングよくポートフォリオに組み込むことで好調なパフォーマンスを実現できたと考えています。
みずほ投信投資顧問株式会社 株式運用部 チーフファンドマネージャー 兼 企業調査部 シニアアナリスト 岩本誠一郎
――投資テーマを取り扱っている市販の書籍でも取り上げられているトピック数は50程度ですので、投資テーマ数として400をカバーしているとは驚きです。具体的にはどのようなテーマが含まれているのでしょうか。
岩本:あまり手の内を見せたくないところではありますが(笑)、以前から検討していたテーマのうち、最近頻繁に報道で取り上げられるようになったテーマが次のような内容です。たとえば、人工知能の使い方の一つとして知られてきている「自然言語処理」、ドローンで一躍認知度が上がった「産業用無人飛行機」、スマートフォンの普及やインターネット上での情報が多くなったことで必要とされてきている「キュレーションメディア」などがあります。それ以外にも、ロボットやIoT(モノのインターネット化)といった大きなトレンドに関係する「製造現場内運搬機器」や「ヘルスモニタリング機器」も投資テーマとして具体的に検討しています。
投資テーマを「うなぎのタレ」のように熟成させていく
――ファンドマネージャーとアナリストが検討を繰り返した400もの投資テーマをどのように管理しているのでしょうか。
岩本:投資するに値すると判断した投資アイデアのことを我々は「投資テーマ」と呼び、チームでデータベース化しています。我々のチームの英知の結集であり、ビッグデータであり、パフォーマンスの源泉です。メンバーの情報、経験、知恵を持ち寄って蓄積し、余計なものは排除し、時間をかけて味わいを出していく…門外不出で継ぎ足されていく秘伝の「うなぎのタレ」とも呼ぶことができます。一朝一夕には決して作ることができないと自負しています。中小型株の大きな成長を享受しようと思うなら、投資のタイミングが来てから準備するのでは遅いです。秘伝のタレが準備してあるからこそ、最高のタイミングでうなぎを焼けるのと同じです。2015年にトータルリターン1位を獲得できたのも、この「うなぎのタレ」があったから。今この瞬間にも「タレ」にメンバーの知恵がどんどん溶け込んで、美味しく熟成しているわけです。
――過去に地道に調査していたことで運用に成功した事例などがあれば教えてください。
岩本:たとえば、いま流行の「フィンテック(FinTech)」には2009年から注目し、「金融トランザクションサービス」と呼んで調査をしていました。当時はフィンテックという言葉自体が存在していませんでした。調査の結果、これはいける、と判断して2011年から投資したのが「GMOペイメントゲートウェイ」(3769)です。この銘柄は2015年のパフォーマンスにも大きく貢献してくれました。
――400の投資テーマの中には、チームで注目していても芽の出なかったテーマもあるのでしょうか。過去に事前の想定通りにいかなかったケースなどがあれば教えてください。
岩本:失敗経験を思い起こすと、その多くは「早すぎた投資」です。例えば、「電気自動車」という投資テーマに昔から注目していまして、2011年に電気自動車用の電池を作るメーカーに投資をしたことがあります。今でこそハイブリッド車用の充電プラグを街中でよく見かけますが、当時はそんな設備もなく…一言で言えば、電気自動車自体がマニアックすぎましたね。そのメーカーの電池は全然売れず、ほどなく投資するのを止めました。しかしそんな経験もまた「タレ」の深みとして蓄積されています。あの経験を経て、「電気自動車」という投資テーマにおける「勝てるビジネスモデル」のパターンがはっきり見えました。そこで、5年経った現在では同じ投資テーマの下、その「勝てるビジネスモデル」を持った別の銘柄に投資しています。
400もの投資テーマを継続的にフォローできる調査・運用体制とは
――400もの投資テーマやその関連銘柄を丁寧に調査するというのは相当手間暇がかかりそうですが、どのような調査手法や体制なのでしょうか。
岩本:調査については、とにかく企業に取材に行って対話を重ねることを重視しています。地道に足で稼ぐ調査です。チーム全体では年間約3,000社の企業を取材しており、私自身も年間300件ほど足を運びます。また、業績の上がっている競合他社と事業戦略の比較をし、厳しい意見を申し上げることもあります。これは広く業界を研究し、多くの企業を見ているアナリストだからこそ言えることだと考え、あえてお話ししています。また私自身も、本音で前向きな話ができ、未来の飛躍に確信を持てる企業に長期投資したいので、このような積極的な面談スタイルに落ち着いています。
――調査体制についてはいかがでしょうか。
岩本:私を含め7名の中小型株専任アナリストでチームを組んでおりまして、これは他社対比で多いと思います。中小型株市場の銘柄数は莫大ゆえにアナリストの人数は限られてくるのが一般的なのですが、我々のチームは人数に恵まれているため、これを活かして豊富な調査を展開しています。日々の取材の中でアナリストが見出した新しい投資アイデアをチームで共有し、「これはおもしろそうだ!」と感じたらすぐに調査を開始します。ですから、そのアイデアが世間を賑わせる前に我々のチームの調査は一通り終わっています。
――企業と積極的に対話する点、世間が注目する前に先取りして調査を行う点がポイントですね。目新しいアイデアが見つかり次第すぐに投資するのでしょうか。
岩本:我々は、突然出てきたアイデアにいきなり投資するようなことはしていません。新しい投資アイデアが「利益をもたらすビジネスになるか」「400の投資テーマ群に新たに加える価値があるか」をしっかりと見定めます。業界全体や個別企業はもちろんのこと、競合他社や仕入れ先などについても徹底的に調べ上げたうえで、投資に値するアイデアかどうかを判断しています。一方で、どんなに突飛に見えるアイデアに対しても、最初から足切りすることなく、まずは体当たりで調べます。
――投資アイデアを検討する際、運用チームにおけるコミュニケーションはどのように行われているのでしょうか。
岩本:これまでお話ししてきた調査は、風通しの良いチームだからこそできると思っています。良好なパフォーマンスは、年齢に関係なく発言しやすいチームの雰囲気の賜物かもしれません。みんなで毎日取材に飛び回って、会社に帰ってきたら集まって、じっくり議論して情報を共有し、投資に値をするか検討しています。そして、また外の世界に飛び出していきます。こうした調査の質を維持しさらに深めていけているのは、運用チーム全員で調査に関して額に汗することをいとわず、没頭できているからだと思います。日々、日本の未来とその恩恵を受けるであろう企業をイメージしてはワクワクしながら取材に出掛けています。
――1点心配な点として、J-フロンティアの運用はチームリーダーである岩本さんの「経験頼り」になってはいないのでしょうか。
岩本:老舗のうなぎのタレは次の世代に受け継がれていくものです。我々のチームもそうありたいと考えています。チームメンバーの年齢幅は広く、一番の若手は20代です。しかしチーム内では、経験の差こそあれ、情報の偏りはありません。投資判断のうち、定量化できる部分は自前のスコアリングシステムを開発しましたし、あらゆるノウハウを全員で共有し、中小型株投資の哲学の徹底を図っています。IPO銘柄の良し悪しの見抜き方に始まって、怪しい経営者の見分け方、こういう企業にはだまされるな、というような内容までレクチャーしています。若い力でさらに美味しい「タレ」を作っていってくれることを期待しています。
なぜ日本の成長株投資が投資対象として魅力的なのか
――成長株投資においての楽しみや難しさについて教えて下さい。
岩本:なんといっても、投資先企業の利益が驚くほど増加する瞬間が大きな楽しみですね。目安として、「3年間で利益が倍増する企業」を合言葉にしています。しかし、そのような企業は非常に少ないのが現実です。300社調べて、5~6社くらいでしょうか。難しいですが、それを探り当てることこそアクティブファンドの醍醐味であると感じます。
――どのような日本の成長株に注目していますか。
岩本:成長株の中でも、日本ならではの強みを持つ企業に注目しています。日本人は普遍的なビジネスモデルを構築するのは上手ではないかもしれませんが、日本には、個々の良いパーツを持っている企業が非常に多いと感じます。そこを活かして成長できる企業、創意工夫できる企業を発見したいものです。そういった視点で日本の新しい産業を育てていきたいと思いますので、同じ視点を共有していただける個人投資家の方々にJ-フロンティアを長期保有していただければ嬉しいですね。
――本日は長時間ありがとうございました。
岩本:こちらこそありがとうございました。
※本インタビューは、楽天証券株式会社との共同インタビューとなります。