2002年4月、旧富士銀行、旧第一勧業銀行、旧日本興業銀行の3行が合併し、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行が誕生しました。しかし、合併初日に大規模システム障害が発生し、苦難のスタートとなります。

口座振替の遅延が250万件、二重引き落としが3万件、そしてATMのエラー(預金から現金出金の手続きをすると、現金は出ずに残高は減る等)も多発しました。復旧作業は人海戦術を含む過酷なものとなり、担当したエンジニアの中には過労自殺者も出ました。

2011年3月には、2度目の大規模システム障害が発生しました。東日本大震災直後の義援金受付口座への大量の振り込みに起因して、ATMは利用停止、遅延した為替処理は220万件超。私はこの2度目のシステム障害時、他のメガバンクで営業をしていましたが、みずほ銀行と取引をする多くのお客様から、給与が入金されない、現金が引き出せない、振込での支払いができない等、不安の相談を受けた記憶があります。

企業では、入金遅延で手形が不渡りになれば存続の危機です。システム障害で金融の流れを止めてしまうことが、どんなに社会に大きな影響を与えるか改めて知らされた出来事でした。

また、復旧対応で3連休にATMを利用中止にしたため、代わりに「特例支払対応」として、通帳・キャッシュカード、本人確認書類の提示のみで、実際の残高を確認できないままに、上限10万円を支払う対応を実施しました。結果として残高を超える出金が多発し、後に詐欺容疑で逮捕者も出るなど、混乱を招きました。

この2度のシステム障害の折には、いずれも金融庁から業務改善命令を受けています。

なぜ、みずほでシステム障害が起こるのか?

ちなみに、他の銀行はどうだったのでしょうか?2002年1月、三和銀行と東海銀行が合併してUFJ銀行が誕生した際、やはりシステム障害が発生しましたが、規模はこれほど大きなものではありませんでした。

みずほ銀行が、このUFJ銀行の前例を教訓にできなかったことも、更なる非難に繋がりました。ちなみに、現メガバンクでは、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、いずれも誕生以来、これほど大きなシステム障害を起こすことはありませんでした。

なぜ、みずほ銀行はシステム障害を繰り返したのでしょうか?大きな原因の一つは、「3行対等合併」により、システムの一本化が遅れたことだと言われています。

銀行のシステムというのは甚大な維持コストがかかっています。合併によりシステムを一本化することで大きなコスト削減が見込めるため、システム統合は合併のメリットの1つです。銀行の力関係に合わせ、三菱UFJ銀行では旧東京三菱銀行のIBMに、三井住友銀行では旧住友銀行のNECに、それぞれシステムを一本化しました。三菱UFJ銀行では旧UFJの日立の方が評価は高かったにもかかわらず、銀行の力関係で旧東京三菱銀行のIBMに一本化されたことから、話題にもなりました。

なお、この採用されなかった旧UFJのシステムは、ゆうちょ銀行が買い取り、ゆうちょ銀行のシステムに利用されました。

このような他のメガバンクのケースとは異なり、みずほ銀行では、「3行対等合併」をうたっていたこともあり、3行の主導権争いの結果、旧富士銀行のIBM、旧第一勧業銀行の富士通、旧日本興業銀行の日立を併存させ、そのまま繋ぐという非効率な方法を長い間取ってきました。

今回の新システムの開発についても、旧3行のシステムベンダー等が開発を分け合う形となり、作業が複雑極まった一因になりました。

おわりに

現在、金融機関では、超低金利下で収益環境が悪化し、大規模なリストラが計画されるなど、厳しい現実が続いています。中でも、みずほ銀行は、様々な評価で3メガバンクの中で3位が定位置となっていますし、2度のシステム障害により信用は失墜しています。

しかしながら、今回の新システム移行によって、システム一本化によるコスト削減はもちろん、他行の先を行く最新鋭の次世代システムで、処理スピードの向上、新サービスへの柔軟な対応等も期待されています。引き続き厳しい環境は続きますが、この超巨大難解プロジェクトが完遂できたことは大きな前進です。関係者の皆さま、本当にお疲れ様でした。

広瀬 まき