有給休暇を取得しない理由をみると、第1位は「人手不足」、第2位は「緊急時のために取っておく」、第3位は「仕事をする気がないと思われたくない」。これらの理由からは、自分が休むことで仕事が回らなくなったり、他人に仕事の負担が行ったりすることを恐れているという日本人の仕事観がわかります。

さらに、休み不足を感じているかどうかについて調査すると、18~34歳、34歳~49歳の層ではそう感じている人が6割である一方で、50歳以上では4割にとどまっています。そして「上司が有給休暇の取得に協力的である」と回答した日本人は43%と、これも世界で最も少ない割合になりました。休み不足を感じにくい上司世代の考え方が、会社全体の有給休暇取得に影響を及ぼしている現状があるようです。

「自分にしかできない仕事」をいかに減らすか

この日本人特有の罪悪感についてワーク・ライフバランスの堀江氏は、「属人的な仕事が問題」と指摘します。属人的な仕事とは、業務が特定の人のスキルに依存している状態をいいます。つまり、自分にしかできない仕事があるために代わりがおらず、休みたくても休めない状況に陥ってしまうのです。しかし一方で、属人的な仕事は組織において自分の存在価値にもなってしまっています。

フリーアナウンサーの神田さんは、NHKに勤務していた会社員時代について「有休はほとんど取れなった」と振り返ります。休んでいる間に他の人へ自分の仕事が回ることに焦りを感じていたそうです。神田さんも一生懸命に働いて、属人的な仕事をこなすことにやりがいや価値を見出していました。バリバリ仕事をしたい人の中には、神田さんの気持ちが理解できる人は決して少なくないでしょう。

そのため、日本人の有給休暇の取得率を上げるためには、いかに属人的な仕事を手放せるかが大きなカギ。上司には、属人的な仕事以外における部下への正当な評価を行う、仕事の見える化や情報共有によって誰もが誰かの仕事のフォローができるようにする、若手とは一緒に休みのスケジュールを立てる、といったことが必要になってきます。

上司が休むことは意外にもメリットが多い

自ら率先して長期休暇を取っているというエクスペディア・ジャパンの石井さんは、「休まなくてはいけないという義務を作るのではなく、休んでもいい雰囲気を作っていくことが大事」と断言。「休んでいいよ」と言葉で言われたところで、属人的な仕事を担っていれば、自分だけ休む罪悪感はなかなか消えません。そのため、仕事のサポートや情報共有によって、気兼ねなく休んでもいい雰囲気作りをすることが重要です。

また、上司が休むことのメリットは、ただ休みやすい雰囲気を作ることだけではありません。上司が不在の際、その仕事を部下が担うため、部下はひとつ上のランクの仕事にチャレンジができます。上司が会社に来ないことが、部下の育成につながるというわけです。

労働人口が減り、人手不足が深刻になる一方で、依然として過労死や長時間労働が問題になっている現代の日本。そんな中、日本人の有給休暇の取得率を上げるには、属人的な仕事を減らして休む罪悪感をなくすこと、属人的な仕事による存在価値に依存しないこと、そして休むことが組織に与える本当のメリットを上司世代が理解をすることが大事になってくるでしょう。

秋山 悠紀