民放750条では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と規定しています。これに対し15年、事実婚の夫婦らが「結婚時にどちらかの姓を名乗ることを強制され、精神的苦痛を受けた」として国を訴えています。しかし最高裁は、「国会で論じられるべきだ」として「合憲」との判決を下しています。

一方、上述した青野社長の判決報道をよく見てみますと「民法上同姓となっても、戸籍上の姓が選べないのは平等権に反する」との訴えのようです。

15年の訴えでは、「現状、女性側に姓の変更を強制することになっており、これは男女平等に反するのではないか」という訴えが強調されたようです。しかし民放750条そのものは男性側が姓を変えてもOKというものなので、「合憲」との判決でした。そして今回の青野社長の訴えですが、「では民法上では夫婦同姓になるとしても、戸籍上では姓の選択がなされるべきだ」というものでした。しかしこれも退けられるかたちとなりました。

現在まで内閣府は、旧姓の通称としての使用拡大を勧めています。17年に公表された「旧姓使用の状況に関する調査」によると、調査票に回答した企業のうち49%は旧姓使用を認めているということです。

しかしこれは、15年に訴えられた「精神的苦痛」を何ら解決しません。選択的夫婦別姓を実現するためには、やはり民法の改正が必要なのでしょう。1996年に民法改正案に盛り込まれ国会で議論されましたが、現在に至っても実現していません。

姓に影響される日本人のアイデンティティーと子ども

内閣府の世論調査によると、「選択的夫婦別氏制度」について賛成が43%、反対が29%と賛成が上回っています。

筆者はその後、再婚しました。同時にまた夫の姓を名乗っています。これで3回姓を変更したことになりますが、「私」は未婚の時から今に至るまで連続した存在です。もちろん名前は変わっていませんが、年齢を重ねるとともに名前で呼ばれることも減ってきます。姓がアイデンティティーの一部であると断言できるほど、日本社会での姓は重要な役割を果たしています。

そして我が子も、姓を2回変更しています。私自身のことは自分で決めたので、何とでも飲み込むことができます。しかし子どもにとっては、たまったものではないでしょう。これについては本当に申し訳なく思っていますし、また説明も難しいものでした。

「夫婦別姓」、実現するのはとても難しそうです。しかし令和では世論においてもたくさん議論され、国会を動かす波になったら…そう思っています。

参考資料:

「世論調査報告書平成29年12月調査」(内閣府)

尾藤 ちよ子