2019年ディスプレイ市場のカギ握る「ライン転換」

サムスンとLGが液晶生産能力削減へ

収益悪化を避けたいLGDは有機EL増産へシフトする(写真はLGの有機ELテレビ)

 調査会社の英IHS Markitが2018年7月に発表した試算では、液晶パネルメーカーが現在の計画のまま工場の新増設を続けると、液晶ディスプレイの需給ギャップは18年の12%から21年には23%に拡大してしまい、大幅な供給過剰に陥るとみられている。すでに量産稼働し、段階的に生産を増やしている中国BOEに続き、19年初頭には中国CSOTも10.5世代(2940×3370mm)マザーガラスを用いた液晶パネル新工場を稼働させると見込まれ、需要の伸びを大きく上回る供給能力が上積みされるためだ。

続きを読む

 IHS Markitシニアディレクターの謝勤益(デビッド・シェー)氏によると、液晶テレビの大画面化などによって、19年のディスプレイ需要面積の増加率は前年比で6.4%成長が見込まれるものの、供給能力の増加率は先述の中国新工場の影響によって9%増になると予測しており、やはり供給が需要を大きく上回る見込みとなっている。これに伴い、「19年1~3月期末にテレビ用32インチ液晶の価格は35~36ドルまで下落する可能性がある。これは18年に記録した史上最低価格の45ドルをも大きく下回る」という。こうなれば、19年上期は大半の液晶メーカーが赤字に転落することが確実だ。

稼働調整で乗り切る可能性は低い

 こうした供給過剰を回避する方法は、液晶パネルメーカーが工場稼働率を大きく落として生産調整を実施するか、あるいは、古くなった液晶工場を閉鎖して生産能力を削減するかのどちらかしか選択肢はない。だが、前者の可能性は低い。シェア拡大を目指す中国メーカーが稼働率を下げるとは思えず、AUOをはじめとする台湾パネルメーカーもいまだ90%以上の高い稼働率を維持したままだ。

 こうしたなか、注目を集めているのが、中国に次ぐテレビ用液晶パネルの生産能力を保有している韓国メーカー、具体的にはサムスンディスプレイ(SDC)とLGディスプレイ(LGD)の動向だ。スマートフォン用有機ELディスプレイというキャッシュカウを持っているSDCはともかく、有機EL比率が低く液晶が売り上げの80%以上を占めるLGDは液晶価格の下落が一気に収益を悪化させる。18年についても、1~6月は液晶パネル価格の下落によって競合他社よりも早く営業赤字に陥った。

 中国の10.5G工場にパネルの生産コストで確実に劣るSDCとLGDが、19年のいつの段階で古い液晶工場を閉鎖し、需給調整のバランス化を図り、価格下落の調整役となるかが、19年ディスプレイ市場の大きなカギを握ることになる。

LGは19年半ばまでに方針決定

 LGDはすでに、テレビ用液晶工場をテレビ用有機ELの生産に衣替えする計画を本格的に検討中だ。18年半ばに従来の設備投資計画を転換し、韓国・坡州工場に新設する予定だった10.5G液晶新ラインの建設計画を中止。これに加え、18年4~6月期の決算会見では「現在テレビ用液晶を生産している7Gの坡州P7ラインと8.5GのP8ラインをテレビ用有機ELに転換することを検討している」と表明した。この転換には、期間として1年弱、費用として約1兆ウォンを要するとみており、19年半ばまでに方針を決定するとみられている。

 LGDにとって、テレビ用有機ELの増産はかえって好都合でもある。現在のところ、テレビ用有機ELパネルを供給できるのは世界でLGDただ1社であり、テレビブランド各社が有機ELテレビをハイエンド商品に位置づけて相次いで商品化しているため、パネルの供給が追い付いていないからだ。LGDは17年に170万枚だったテレビ用有機ELパネルの販売枚数を19年に400万枚、20年に700万枚、21年には1000万枚まで拡大する方針を打ち出している。

サムスンは8.5G 20万枚分を削減か

 一方、SDCも既存のテレビ用液晶工場を次世代テレビ用ディスプレイ「QD-OLED」に転換する計画を温めている。QD-OLEDとは、青色に発光する有機ELディスプレイに量子ドット(QD)技術を組み合わせた次世代の自発光パネルで、18年4~6月期の決算会見でテレビ用にQD-OLEDの開発を進めていることを初めて公式に明らかにし、「中国の10.5G投資を考えると、大型セグメントでは生産能力競争から距離を置き、規模よりも品質を重視したい」と述べている。

 液晶生産能力の削減に向けた動きも聞こえ始めた。調査会社DSCCの田村喜男氏によると、SDCの19年のテレビ用液晶パネル生産枚数は18年を大きく下回る見通しだという。SDCは、18年にテレビ用液晶パネルとして3800万枚を出荷する見込みだが、19年の見通しはわずか2900万枚にとどまっている。これは液晶からQD-OLEDへの生産ラインの転換によるもので、転換を実施すれば、テレビ用液晶パネルの年産能力は19年から徐々に減少し始め、17年の4100万㎡から22年には3200万㎡へ20%以上減少することが見込まれるという。

 また、IHS Markitの謝勤益氏は「SDCは、まず19年6~7月に月産10万枚分の転換に着手し、うまくいけば19年末にも同規模をQD-OLEDへシフトする。仮に8.5Gで20万枚分を転換すれば、テレビ用液晶パネルの供給能力が4%減少することになるため、供給過剰の解消に大きく寄与する」と述べている。

漁夫の利を得るのは台湾メーカー?

 このように、現状のままであれば19年の赤字転落が確実なディスプレイ業界は、韓国メーカーのライン転換の可否および実施時期によって収益環境が大きく左右されることになりそうだ。これまで世界首位のディスプレイ生産能力を擁してきた韓国が中国に抜かれ、その圧力に屈しつつあるといえる一方、新技術による高付加価値化を進めることで引き続き中国をリードしようとする動きだともいえる。

 韓国2社が本格的に生産能力の削減に取り組めば、そこに空いた穴を中国メーカーと台湾メーカーが埋めることになるとみられ、結果的に台湾メーカーは生産調整や新規投資をしなくても収益環境の改善という恩恵にあずかることになるのかもしれない。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏

参考記事

ニュースレター

津村 明宏

1995年3月 関西大学 経済学部卒。1999年3月 ㈱産業タイムズ社に入社。
電子デバイス業界の専門紙である電子デバイス産業新聞(旧・半導体産業新聞)の記者として、2007年より副編集長、2009年12月より編集長