家電量販店のテレビ売り場にずらりと並ぶ薄型テレビは、これまで主流だったフルハイビジョン(1920×1080画素=約207万画素)から4倍の解像度を持つ4K(3840×2160画素=約830万画素)にシフトし、4Kテレビが各社の主力商品になっている。テレビ市場では世界的にも4Kテレビ商戦が過熱し始めているが、ディスプレー業界では4Kの次世代品の開発が活発化している。

LGが88インチ8K有機ELを開発

 韓国のLGエレクトロニクスは、8月31日~9月5日に独ベルリンで開催された家電見本市「IFA」に、世界初の88インチ8K(7680×4320画素=約3300万画素)の有機ELテレビを出展した。発売日や価格は未定。LGエレは、18年の有機ELテレビの販売は17年比で倍増し、22年には市場規模が900万台に達すると予測している。8Kテレビ市場はまだ黎明期だが、22年に500万台以上に成長すると期待しており、この市場を先行して開拓する考え。

 現在、テレビ用の有機ELディスプレーは、LGエレのグループ会社である韓国LGディスプレー(LGD)が世界で唯一量産している。LGDは、有機ELテレビ用の旺盛なディスプレー需要に応えるため、韓国の生産拠点の増強に加えて、中国・広州に8.5世代(8.5G)ガラス基板を用いる新工場を整備中。この広州8.5G工場が稼働すれば、ガラス基板の月間投入能力は13万枚(現状は月間7万枚)にまで高まる予定で、21年には1000万台分の供給能力を備える考えだ。

イノラックスは100インチで16K実現

 台湾の液晶ディスプレーメーカー、イノラックスは、8月29~31日に台湾・台北市で開催されたディスプレーやタッチパネルの総合展示会「Touch Taiwan 2018」に、世界最高解像度となる16K8K(15360×8640画素)の100インチ液晶ディスプレーを展示した。画素数は8Kからさらに4倍の1億3000万画素になる。商品化の時期は未定だが、色再現性はNTSC比103%、コントラスト比は6000対1を実現した。

イノラックスの100インチ16K液晶ディスプレー

 イノラックスの親会社は、アップルのiPhoneをはじめとする先端エレクトロニクス製品を数多く組み立てている世界最大のEMS企業、台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)だ。フォックスコンは現在、中国・広州に10.5Gガラス基板を用いた液晶ディスプレー工場を建設中で、2019年半ばにも本格稼働を開始する予定。この広州10.5G工場が稼働すれば、今回開発した16K 100インチを量産品目の1つに加えるかもしれない。

シャープは70インチ8Kテレビを発売

 8Kテレビは、フォックスコンの子会社であるシャープが2017年12月に70インチの「LC-70X500」を発売した。LC-70X500は、現行デジタル放送(地上・BS・110度CS)のフルハイビジョン映像や4K映像を8Kにアップコンバートして表示できるほか、今年12月から開始される8K実用放送に合わせて発売予定の「8Kチューナー」を接続すれば8K実用放送も視聴できるため、8Kの高画質をそのまま楽しむことが可能だ。

有機ELの8K化にはいまだ壁が存在

 このように、8Kテレビ市場は2019年から徐々に立ち上がり、テレビ各社がラインアップを増やしてくるとみられる。まだ8Kコンテンツ自体が少ないため普及は緩やかに進み、商品化で先行する液晶テレビを有機ELテレビが追いかける流れになる。

 今後の焦点になるのが、有機ELがどこまで8K化で液晶に追随できるかだ。有機ELの8K化は技術的に難しい。テレビ用有機ELディスプレーはボトムエミッション構造を採用しているため、8K化に伴い駆動回路が開口率を小さくしてしまう(結果的に画面が暗くなる)ためだ。LGは今回88インチで8K化に成功したが、70インチ以下で8Kを実現するには新構造や新材料の採用が必要になるかもしれず、70インチ以下で8Kを実現できるのかがまだ不透明だ。

 こうした液晶と有機ELの差は、かつて液晶との競争に敗れて姿を消したプラズマテレビに重なる。プラズマテレビに搭載されたプラズマディスプレーパネル(PDP)は、セル内に発光ガスを封入するという構造だったため、高画素化でセル1つあたりの容積が小さくなると発光効率が低下し、フルハイビジョン化競争のなかで液晶に追随できなかった。

 8Kテレビが普及するまでにはまだ時間がかかるだろうが、その間に有機ELが技術課題を克服していけるかどうかを今しばらく見極めてから、8Kテレビの購入を考えてみるのも面白いだろう。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏