2019年8月6日にソフトバンクグループが2019年3月期Q1決算を発表した。その決算内容を好感し8月7日の株式市場では同社の株価は対全営業日終値比で大きく上昇し、1万円を超えて取引されている。その背景を同社の決算短信説明会決算資料をもとに見ていこう。

ソフトバンク決算資料はテクノロジー動向の把握に欠かせない

いきなり話がそれるが、ソフトバンクグループの決算資料はグローバルのテクノロジー産業の動向を把握する上で欠かせない材料となっている。

その最大の理由は、同社は日本の通信事業者であるだけではなく、例えば英アームといったグローバルのテクノロジー企業の買収はよく知られているが、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を通じてGPU大手のNVIDIA、グループウェアのSlackなどへの投資でグローバルのテクノロジー企業との接点を持っているからだ。

通信事業も以前はTMT(Technology, Media, Telecommunications)セクターとしてくくられハイテク産業の一部であったが、ソフトバンクグループはテクノロジーセクターの深堀を自社のバランスシート及びファンドを活用して展開している状況だ。

2019年3月期Q1決算の振り返り

Q1決算を簡単に振り返ると、売上高は対前年同期比+4%増、営業利益は同+49%増、税引前利益は同+634%増、親会社の所有者に帰属する四半期純利益は57倍となっている。こうした実績値を背景に株式市場は好感し、株価が大きく上昇しているといえる。

売上高の内容を見ていくと、決算の基準がIFRSへと変更になっている前提はあるが、「ソフトバンク」、「ヤフー」が増収する一方、「スプリント」が減収する結果となっている。

また、調整後EBITDA(Earnings before Interest, Taxes, deprecistion and Amortization)では、売上高と同様に今回の決算はIFRSベースとなているが、対前年同期比+3%増の7218億円となっている。当EBITDAでは、「スプリント」がコスト削減が進んだことによりEBITDAを大きく改善させている。一方で、「ソフトバンク」は横ばい、「ヤフー」は減少している。

営業利益が大きく成長しているのは主に「SVF事業」によるものだ。その背景にFlipkartやWeWorkなどの評価益が含まれていると会社はコメントしている。また「その他」にも主にArm China JV化で一時益があることも開示されている。先ほど見た「スプリント」も営業利益は改善しているが、増益幅でいえば、「SVF事業」や「その他」の増益幅には及ばない。

また、営業利益では「ソフトバンク」は横ばい、「ヤフー」は減益となっている。こうしてみると、「スプリント」はさておいても、ソフトバンクグループを見る上ではSVFの動向を外しては語ることはできない。そして会計上の営業利益で大きく成長したようには見えるが、平面的な変化よりも同グループの構造の変化に注目すべきといえるであろう。

スプリントはどうか

ソフトバンクグループは2018年4月30日に「当社子会社スプリントとTモバイルとの合併(非子会社化)に関するお知らせ」を発表している。その中で同社は以下のようにコメントをしている。

本取引はスプリントとTモバイルの株主及び規制当局の承認、その他の一般的なクロージング要件の充足を必要とします。本取引のクロージングは遅くとも2019年半ばまでに行われることを見込んでいます。本取引完了後、統合後の会社は当社の持分法適用関連会社となり、スプリントは当社の子会社ではなくなります。


したがって、先ほどまで見てきた調整EBITDAではスプリントが大きく貢献してきたが、スプリントとTモバイルが合併した後にソフトバンクグループがどのようにP/L(損益計算書)を見せてくるのかには注目をしておいてよいであろう。タイミングとしては先のプレスリリースによれば2019年の半ばということだ。

もっとも、当のスプリントであるが、2018年度の見通しとしては決算説明会資料で調整EBITDAで120から125億ドル、またキャッシュCAPEXで50から60億ドルということで、キャッシュフローとしては十分に「回っている」というレベルだ。

スプリントのTモバイル合併後のソフトバンク

将来の株式市場は同社のどの領域に注目をしていくのであろうか。同社は通信事業がコア事業であることを考慮すれば引き続きEBITDAに注目が集まるであろうが、今後はやはり営業利益がこれまで以上に注目がされるであろう。

また、その際にここまで見てきたようにSVF事業の動向が大きく影響する構造は現時点では変わらないという前提でいえば、同社の業績の変化(デルタ)を見る上ではファンド事業がどうか、その中で何に投資をし、何で評価益等があるのかには注目をせざるを得ない。

泉田 良輔