仕事中のストレスは多々ありますが、近年、「感情労働」が大きな割合を占める職種におけるストレスが問題となっています。では、感情労働とはどのようなもので、どんな問題と対策が考えられるのでしょうか。

そもそも感情労働とは

従来、労働作業は主に身体を動かして作業をすることを中心とした肉体労働と、何らかの判断や思考、アイデアを創出することが作業の中心となる頭脳労働に大別されてきました。

これに加え、近年新たに登場した概念が感情労働です。これは米国の社会学者であるA・R・ホックシールドが著書『管理される心―感情が商品になるとき』の中で、「肉体労働や頭脳労働とは異なる別の形態の労働」と述べ、次のように定義したことで注目されるようになりました。

感情労働の定義とは、感情が仕事をするうえで必要不可欠な存在であり、かつその感情が、適切か不適切かがルール化・明文化されて決められており、企業の指示や管理のもとで常にコントロールされていることが求められている労働

 

肉体労働が身体を使った作業を賃金に、頭脳労働が頭を使った作業を賃金へと変えるように、感情労働では感情をコントロールすることが賃金に変わると言い換えるとわかりやすいかもしれません。

たとえば、多くのサービス業において、顧客は日常とは異なる精神状態に導かれることによって、満足感を得られるという仕組みになっています。そのため、サービスを提供する企業は、顧客に最大限の満足感を与えるための感情を分析・ルール化・明文化し、それを労働者に対して要求することから、労働者は感情労働を行うことになるというわけです。

感情労働が引き起こす問題とは

感情というものは自然発生的なものです。相手から不快なことを言われたり、されたりしたならば、不快だ・嫌だという気持ちが沸き、表情にも表れてしまうことが自然です。しかし感情労働では、顧客に対してはこうした個人的感情を抑え、その場に応じた的確な対応と処理をしなくてはいけません。

たとえそれが顧客側の一方的な誤解や失念、無知や悪意によるもの、八つ当たり、理不尽な要求であっても、労働者は自分の感情をコントロールして企業の示したルールに従わなければならないのです。

これは、状況にもよりますが、顧客に対して自身の尊厳を犠牲にすることを強制されている状態ともいえ、精神的な苦痛を伴うこともあります。そのため、感情労働を伴う仕事を行っている労働者の中には、精神的な負荷が過大となり、燃えつき症候群や様々な依存症などの問題症状に悩まされるようになる場合があります。

しかも、感情労働は客室乗務員、飲食店のサービス担当者やショップ店員、コールセンターの職員や看護師・介護士など、直接利用者を相手とする業種だけで行うこととは限りません。

たとえば、感情的な上司や同僚がいる職場では、労働者は、相手の機嫌を損ねたり自分の感情を表に出すことを避けようとする傾向があります。つまり、無意識のうちに自身の感情を抑えて相手に接するという感情労働を行うことになるのです。

感情労働にどう対処するか

感情を無理にコントロールすることで労働者には大きな精神的な負担がかかりますし、抑圧された状態が長く続くと心身に様々な問題が起こることがあります。そして、その労働者個々の問題が、企業・会社に不利益をもたらすこともないとはいえません。

このため、感情労働によって引き起こされる問題が大きくなる前に、労働者自身だけでなく企業・社会が、それぞれに対策を講じることが大切です。

たとえば、燃えつき症候群や何らかの依存症、うつ病などの症状を労働者本人が自覚した場合は、速やかに医療機関を受診するとともに、仕事内容を配慮してもらえないか職場に相談してみましょう。

企業側の対策としては、「悪質なクレーマーなどにどう対応するべきか、対処法をあらかじめ考えておく」といったこともあげられます。また、パワハラやモラハラなどの状況が生まれないように労働環境を改善するなどの対策を講じる必要もあります。

では、労働者が無理をしていると感じるときには、どのような身を守る対策をとればいいのでしょうか。最後にいくつかのヒントをあげておきます。

自分の感情を隠蔽しない

感情労働では仕事で不快な感情を表に出すことはできませんが、心のうちで不快であると感じていること自体を否定する必要はありません。嫌だなという感情を持つこと自体を否定し、「今は楽しい」と思い込もうとするのは精神的な負荷になりがちです。

常に完璧を目指さない

どんな仕事でも失敗はするものです。完璧にできないことに深く落ち込むと、感情労働にさらされたときに、より精神的な負荷が強くかかり精神が安定しない状態となります。

オンとオフを切り替える

職業によっては、仕事の固定されたイメージから、プライベートでも同じ対応を求められることがありますが、仕事とプライベートはしっかり分けて、オンとオフを切り替えるようにしましょう。

感情労働をする時間と場所を決める

その場を離れれば、感情労働からは引き離されるという状況をつくりましょう。

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LIMO編集部