HSBCアセットマネジメントの最新レポートによると、インド株式市場は2021年5月以降、新型コロナウイルスの新規感染者数の減少と景気回復期待の高まりを背景に上昇基調をたどっている。

一方、国債市場は、米国債利回りの上昇や原油高などを受けて軟調な展開(利回りは上昇)となっている(11月12日現在)。

次の「アジアの奇跡」?

「インドは次の中国?」 最近、こうした見出しを見る機会が増えた。

中国は、飛躍的成長を遂げて「アジアの虎」と称された4ヶ国・地域(韓国、シンガポール、香港、台湾)と、それよりずっと以前に高度成長を達成した日本に次いで、目覚ましい経済発展を実現した。

実際、中国は近年、アジアの成長ストーリーを象徴する実績を上げてきた。

そして中国の1人当たり国内総生産(GDP)が1万米ドルを突破し、高所得国に近づく中、多くの人々は次に「アジアの奇跡」が起こるのはインドと見るようになっている。

インドと中国には巨大な人口、地理的近接性など多くの共通点がある。また両国は産業革命前には世界経済の中心であった。

インドに再び脚光が当たる番がついに巡ってきたのだろうか。それとも、インドは過去の栄光を取り戻すとしても、一部の人々が期待するほどの輝きは望めないのだろうか。

次のアジア高成長ストーリー

新興アジアは過去20年間、すばらしいペースで経済成長を続けてきた。メディアの関心はほとんど中国に集中したが、インドも2010年代の同域内において最速で成長を遂げた国の1つとなっている(図表1)。

インドの場合、高い成長率そのものも目を引くが、特筆すべき点は、中国同様にその巨大な人口である。一部の人々は、インドが中国経済の足跡をたどり、次の経済大国になると見ている。

HSBCアセットマネジメントは最近の「China Insights(中国市場を見る眼~現地からの報告)」レポートで紹介した経済成長分析と同じ手法を使い、インド経済の先行きを推測した。

現代経済理論では労働力の拡大、資本の蓄積、生産性の向上が成長の3要因とされる。これら要因がいかに展開するかを分析し、今後のインド経済を展望してみたい。

インドは次の「アジアの奇跡」となるか?

図表2は、インドの経済成長率への資本蓄積、労働力拡大、生産性向上の寄与度の推移を1980年に遡って示している。図表を見ると、過去40年間の成長を支えてきた要因が、インドと中国では異なることがわかる。

「China Insights」最新号では、鄧小平が主導した「改革開放」政策以来の中国の「奇跡」を下支えしてきた要因は、積極的かつ継続的な資本蓄積(例えば、インフラ・工場・生産設備への巨額な投資など)であったとする分析結果を紹介した。

一方、インドでは、過去20年間、生産性向上と資本蓄積がほぼ同等に成長に寄与してきた。労働力拡大の成長への寄与度は、インドの方が中国より高いように見えるが、その効果は1990年代から減少に転じ、2010年代にはほとんど消滅している。

インドと中国という巨大な国が異なる経済発展過程を経てきたことは驚くに当たらない。

まず、両国の経済発展は異なる段階にある。世界銀行によると、中国の1人当たりGDPはインドのほぼ5倍になる。さらに、いずれの国もそれぞれに特有の国情を抱えており、それが自国の経済的運命を左右する。

例えば、中国が資本蓄積を積極的に進めることができる背景には、国民の貯蓄率の高さがある。中国の貯蓄率は2010年に過去最高の51%に達した後、下降傾向にあるものの、現在でも44%と高い。

一方、インドの貯蓄率は世界平均の25%をやや上回る28%程度にとどまっている。生産性向上に関しては、インドの識字率は依然として中国よりずっと低い分だけ、将来の伸び代が大きいと言える。

実現可能...

アジアの次の「成長の奇跡」を目指すのであれば、インドが中国や「アジアの虎」から学べることはたくさんある。

インドの開発の現状からすると、経済成長に欠かせない積極的な資本蓄積で実績を上げてきた東アジアの経験が役に立つだろう。インド政府は、貯蓄率の引き上げを奨励すると同時に、対内投資促進のためにビジネスフレンドリーな環境を作り上げる政策を打ち出すべきだろう。

生産性向上は、人口全体の教育水準を引き上げる余地が大きいインドの場合、比較的容易に実現しよう。

図表3は、インドの中等学校就学率が過去20年間に大幅に上昇したにもかかわらず、他の新興アジア諸国はもとより、世界平均さえもやや下回る水準にとどまっていることを示している。

インドがさらに発展するためにやるべきことは明白である。それを実現できるかは、政府の政治的意志力と行政の実行力にかかっている。

マーケットサマリー

株式市場

上昇基調続く

インド株式市場は、2021年5月以降、新規感染者数が減少に転じ、ワクチン接種が加速、経済活動の規制緩和を背景に景気回復期待が高まる中で上昇基調をたどり、最高値を更新し続けている(11月12日現在)。

HSBCアセットマネジメントの株式運用戦略

インド株式市場は、当面はなお世界および国内の新型コロナウイルスの感染状況、ワクチンの普及状況の影響を受ける可能性がある。

HSBCアセットマネジメントは中長期的にインド株式市場に対する強気の見方を維持している。

インド経済の成長ポテンシャルは高く、構造改革の進展から、長期的に成長率は高まると見られている。与党インド人民党(BJP)が安定した政治基盤のもとで高成長・構造改革路線を継続すると見込まれることも、株式市場にとり強力なサポート要因となる。

インド株式の運用では、持続的な収益成長性を有しながらバリュエーションに割安感のある銘柄を選別する。

業種別には金融と不動産を選好し、生活必需品には慎重なスタンスをとっている。またインフラ関連銘柄は、モディ政権が推進するインフラ投資計画の恩恵を受けると見込まれる。

債券市場

5月下旬から売り優勢の展開

インド国債市場は、2021年5月下旬から軟調な展開(利回りは上昇)が続いている。

インド準備銀行(中央銀行)が公開市場操作を通じた国債買入れを続けていることは市場のサポート要因となっているものの、米国債利回りの上昇や原油価格の上昇などが債券市場の重しとなっている(11月12日現在)。

HSBCアセットマネジメントの債券運用戦略

インド債券市場は、グローバル投資家にとり良好な投資機会を提供している。新型コロナウイルスの感染が収束し経済活動が正常化すれば、インド経済の優位性が再び注目されよう。インド国債の相対的に高い利回り水準にも妙味がある。

インド債券の運用においては、引き続きインドルピー建国債に重点を置いて投資を行っている。また、中期ゾーンのインドルピー建社債を選好している。一方、米ドル建インド債券は、米国長期金利の動向を注視しつつ、慎重な姿勢を維持する。

為替市場

インドルピーは対円で上昇、対米ドルで下落

インドルピーは2021年9月以降、米ドル高・円安が進行する中で、対米ドルでは下落、対円では上昇している(11月12日現在)。

インドルピー相場は、中長期的には、相対的に良好な経済ファンダメンタルズや高い金利水準、潤沢な外貨準備高などが支援材料となり、堅調な展開が予想される。