12月1日、トリノ冬季五輪スノーボードハーフパイプ代表で3児の母である今井メロさんが、自身のブログで9歳の長女を今後施設に預ける旨を明かしました。これまで長女は今井さんとの衝突や家出のほか、学校での問題行動も少なくなかったそう。今井さんもコミュニケーションやケアに努めてきたものの、悩みながらも施設入所を決めたといいます。

この告白が報じられると、ネット上には「虐待するよりも第三者に預けた方がいい」「母親にも心の休憩が必要」といった擁護の声がありました。

問題のある家庭環境で育ったから?

今井さんは五輪代表という輝かしい実績がある一方で、3度の結婚と離婚、引きこもり経験、自殺未遂、生活保護受給、AV出演といった過去があります。まだ33歳ながら波乱の人生を送っていることで、世間一般には“ワケありのアスリート”という見方が強いかもしれません。

今井さんが成田童夢さん・緑夢さんとともに、幼少期から父親のスパルタ教育で育ったことは有名です。後に両親は離婚し、父親は再婚。父親の辛い指導から逃れるために自ら児童保護施設に入所したことも明かしており、表舞台では12歳で史上最年少プロスノーボーダーに認定される一方で、悩みの多い家庭環境であったようです。

こうした過去があるため、今井さんが今回の告白をしたことについては擁護の声だけでなく、「子どもたちの父親が全員違うし、バツ3。今井メロ自身が親に愛されずに育ったと自認してるくらいだから、子育てに悩む前に自分が親に向いていないことを自覚すべき」といった厳しい意見も少なくありませんでした。

一方で、それでは果たして「親から愛されず、他人から見て問題のあるように見える家庭環境で育った人間は親になってはいけない」と決めつけていいものか」という疑問も残ります。それは暗に、誰が見ても問題のない家庭環境で育った人だけが親になるべき、と言っているように感じるのは穿ちすぎでしょうか。

貧困の連鎖や、親から受けたしつけや経験を自分の子どもに繰り返してしまうことが社会問題になっています。今井さんが今回、長女の施設入所に踏み切ったのは、そうした連鎖を断ち切る手段の一つとして決断したと見ることもできるのではないでしょうか。

施設に預ける=育児放棄ではない

また本来、児童相談所とは虐待を受けている子どもの保護をするためだけではなく、親のレスパイト(一時休息)をサポートする機能も持っています。子どもが健やかに育つために家族を援助し、問題解決をともに考えていく役割です。

ただ、児童相談所のような施設に子どもを預けたからと言って、子育ての手が離れて親が自由になることはありません。今井さんもそれは重々わかっていることでしょう。施設に預けたとしても、子どもを育てることは続いていきます。

しかし、精神的な余裕を失って悩んでいる人が一時的に子どもを第三者に預けることで、子育てや子ども自身、そして自分自身を見つめ直して人生を立て直すことは認められてしかるべき権利です。

子どもが成長するに従って子育てに向いていないと実感したり、1人目では悩まなかったのに2人目とのコミュニケーションに悩んだりと、一筋縄ではいかないのが子育て。さまざまなケースがある中で、「このままだと爆発しそうだから一時的に預けたい」と施設を頼ることを世間が否定してしまうのは、妥当なこととは思えませんでした。

そろそろ第三者や行政に頼ることは“恥”とする見方をなくすべき

話は少しそれますが、新型コロナウイルスの影響で生活苦になった人が増えている一方で、生活保護などの行政に頼れない人も少なくありません。

そうした状況から厚生労働省は現在、生活保護を申請したい人に向けて「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」というメッセージを掲載しています。

過剰な自己責任論がなくなり、「第三者や行政に頼ってもいいんだ」としていくべきなのは生活保護も子育ても同じ。誰かに頼ることを「恥ずかしい」「自分が悪いから自分だけで解決しなければいけない」とする呪縛から、そろそろすべての人が自由になるタイミングにきていると思います。

今井さんの今回の告白は、バッシング覚悟の非常に勇気のいることだったでしょう。長女の子育てに悩む状況を、他人が今井さんの自己責任と断罪するのはとても簡単なことです。しかし、そう断罪することが、今井さん親子だけでなくすべての親と子どもにとってどんなプラスになるのか、筆者には疑問でした。

なによりも最も大事なことは、これから今井さんが長女を含めた3人の子どもをどのように育てていくか。今後の今井さんの動向を見守りたいと思います。

【参考資料】
児童相談所とは」(東京都福祉保健局)
生活保護を申請したい方へ」(厚生労働省)

富士 みやこ