「定率引き出し」の残高を安定させるチカラ

以下の表は今までも何度か紹介していますが、これを使って改めて「定率引き出し」の持っている意味を説明します。

定額引き出しと定率引き出しの比較 (単位;%、万円)

(注)手数料、税金は考慮していません。将来を保証するものではありません。(出所)フィデリティ退職・投資教育研究所

60歳から75歳までの15年間における「使いながら運用する時代」の資産残高の推移を2つの収益率の並び方で比較しています。左側は前半に高い収益率が、右側は前半にマイナスの収益率が並ぶように、15年間の毎年の収益率の並び方を右側と左側で逆転させています。

すなわち、ポートフォリオAでは上からの収益率の並び方を、ポートフォリオBでは下から並べているだけです。そのため、15年間のリスクとリターンの大きさはどちらも同じになります。

計算しやすいように期初の資産額はともに1,000万円、引き出しはともに定額で年間40万円、定率で4%としています。毎年、期初にその引き出しを行って残りの資産をこの収益率で運用したと仮定します。

定額引き出しの場合、ポートフォリオAでは残高は670.4万円となりますが、ポートフォリオBでは240.5万円となり、大きな開きができてしまいました。

これが、定額引き出しの持つ「収益率配列のリスク」と呼ぶべきもので、価格変動がストレートに残高に出てしまったパターンです。これでは75歳以降の「使うだけの時代」には非常に心もとない結果をもたらすことになりかねません。

そこでそれぞれの欄の右側に、引き出し額を毎年の残高の4%に設定する方法を紹介しています。この方法だと、15年後の残高はポートフォリオAでも、ポートフォリオBでも全く同じ621.7万円になります。

これによってポートフォリオの構築がしっかりできていれば、毎年の収益率の変動がどんな形になろうと、最終年の残高を計画通りの水準で確保することができるようになります。

もちろん、価格変動リスクによる残高への影響を軽減したことから、その分、引き出し額が変動することになります。しかし、60-75歳の時期はまだ十分に環境変化に生活を合わせることができる時期だと思います。

想定される35年の長きにわたる退職後の生活を、計画的に過ごすための俯瞰的なアプロ―チが求められます。

合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史