日本テレビ系で放送されている土曜ドラマ『俺の話は長い』は、夜10時からの1時間の放送枠の中で30分の短編が2本放送される、1話完結型の会話劇中心のホームコメディ。内容は重すぎず軽すぎず、その物語を彩る人間模様の味わい深さから、じわじわと視聴者の心をつかんでいるようです。

ドラマの主人公は、30歳を過ぎても職につかず、父親が残した喫茶店を営む母親に頼って実家に住み着く、6年間ニートのいわゆる「パラサイト・シングル」。そこへ、マイホーム建て替えのために主人公の姉とその娘、姉の再婚相手が転がり込んでくる、というところから物語が始まります。

毎話のタイトルは、「すき焼きと自転車」や「銀杏と爪切り」など、30分間のストーリーを象徴するアイテムと食べ物で構成されており、一つ屋根の下で家族が食卓を囲むシーンで巻き起こる会話中心のドラマならではの、ほのぼのとした雰囲気を醸し出しています。

屁理屈の天才

主人公は、物語の中で姉や姪、それに感化された母親からも幾度となく「仕事をしろ!」とプレッシャーをかけられますが、何かにつけて言い訳・ヘリクツを並べ、相手を言いくるめてしまうのです。

実は主人公自身が大学を中退後に、大好きなコーヒーを淹れ続けたいという想いから喫茶店を創業するも失敗。それ以来、道具を捨てられないまま、やりたい仕事も見つけられずに悶々としているのです。姉から、

「もう喫茶店をやらないなら道具を捨てろ」

と迫られた主人公は、

「姉ちゃんは甲子園で負けた高校球児に『甲子園の土を捨てろ』なんて言えるのか?」

と応戦します。

就職する気も起きず、かといって喫茶店に再挑戦するのはどこか恥ずかしい。自分でもわかっているけど、周りから常に働くように促されるうちに、自己を正当化するために口だけは達者になってしまった。そうして「屁理屈の天才」が生まれたのです。

主人公に共感? イライラ?

普段は働きもせず屁理屈をこねてばかりの主人公。しかし、そのどこか他人事で、どこか的を射た言動で、姪の恋愛の悩みや、姉の再婚相手の「実の娘ではない年頃の女の子にどう接したらいいか」という相談に乗ったりと、憎めない一面も持ち合わせています。

主人公の振る舞いを、視聴者はどのように捉えているのでしょうか。SNS上では、

「主人公のヘリクツがおもしろいし、たまに良い話をするのが好き」
「ああ言えばこう言う主人公がいい、家族との関わりっていいなって思わせてくれる」
「人間味があって見ていて絶妙におもしろい」

といった好意的な意見が上がる一方で、

「ニートのくせしてヘリクツばかりでイライラする(笑)」
「働かないくせに周りに難癖つけてばっかりの男は嫌い」
「働きたい気持ちはあるけどやりたいことがないというのは詭弁。だからといって仕事しない理由にはならない」

といった厳しい意見も見受けられました。また、中には、

「ニートからするとめちゃくちゃおもしろいけど、社会人からするとニートの主人公にイライラするのかな?」

といった両者の立場を踏まえた感想も寄せられていました。

主人公以外への意見としては、

「毎回姉が主人公に怒ってばかりで聞いていられない、うるさい」

といった、家族の会話の内容に言及する感想もあり、屁理屈を並べ立てて、大きな声で言い合いをする、という演出が気になる視聴者もいるようです。

どこか懐かしい家族関係

『俺の話は長い』は、「誰もが果たすべき責任とされている労働」に従事していない男性が主人公です。そしてこの主人公は、社会学者の山田昌弘氏の著書、『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999年)の中で述べられているパラサイト・シングルの定義「学卒後もなお、親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者」に漏れなく当てはまります。

主人公の生き方を「いろいろな思いを抱えて無職でいる」と捉えて、彼の屁理屈をおもしろおかしく楽しむか、「無職のくせに言葉だけは一人前」と捉えて、言動に責任が伴っていないと考えるかでは、このドラマの受け取り方が大きく変わってくるでしょう。

昨今では対面でのコミュニケーションの機会が相対的に減り、家族の間での会話も減っているという家庭も少なくありません。本音でぶつかり合ったり、ケンカをしても次の日には元どおりになれる主人公と家族の関係は、視聴者にとってどこか懐かしく、ついつい次の話を見てしまうのかもしれません。

まだドラマは中盤に差しかかったばかり。今後、主人公がどのように成長していくかも楽しみに、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。

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