そして部活動の過程で、他校との練習試合や合宿の場面も登場します。日向は、学年や学校の垣根を越えて、他人のスーパープレーに驚き、相手の凄さを認めて、自分もできるようになりたいと憧れを持ちます。

日向の向上心で素晴らしいのは、わからないことはできる人にちゃんと質問をする、という点です。相手のプレーを盗み見て真似をし、吸収することも重要な上達方法のひとつかもしれませんが、ライバル校の先輩や他校の先生、同級生にいたるまで、自分にないものを持っている人に相談や質問ができるというのは見習いたいポイントです。

日向のように、人から教えてもらったことを素直に聞き入れ、できるようにと取り込んでいくことも素晴らしい姿勢だといえます。日向は「できる」人と常にコミュニケーションを取っていたことで、自分の現状や、現在地を見失わずにいることができ、自分よりうまい人がいる、上があるということを意識して向上し続けられたのでしょう。

「雑巾がけ」にもあらわれる向上心

ここまでの物語で、日向の「向上心」がもっとも表れたのは、インターハイ予選に敗退した直後です。

影山がユース世代の日本代表に選ばれ、さらに同学年で日向と同じポジション、MBを担う月島蛍(つきしま けい)が1年生だけを集めた強化合宿に選出された際、日向はどちらにも選ばれませんでした。しかし、なんと日向は月島のいる強化合宿に無断で参加してしまいます。

メンバーには選ばれていないので、当然のように練習には参加できませんでしたが、その時日向に任されたのが、ボールの跡を拭うための雑巾がけや、選手たちのドリンク作り、ユニフォームの洗濯など、いわゆる「雑用」でした。

こなすだけでも許されるはずの雑用を、日向はコート外でのバレーボールの練習だと捉え、多角的に他人のプレーを見ることで自身のレシーブ力を強化し、相手が次に繰り出すプレーを予測できるようにと工夫を欠かしません。

普段の生活で、ただの雑務、雑用に思えることは作業として消化してしまいがちですが、日向のように考え方、捉え方ひとつで自分の力にすることができるんだと見せつけられた場面でした。目的を理解して考えることをやめなければ、そこに工夫が生まれ、向上心にもつながっていくということでしょう。

実際、この強化合宿を境に、日向は個人として見違えるほど力を付けるようになったのです。

【注意】本誌ネタバレあり! 終章スタートも日向は成長し続ける!

日向の高校1年生が終わると、物語はあっという間に5年後へ。10月28日発売の『週刊少年ジャンプ』(48号)のストーリーでは、烏野高校は、日向の高校2年、3年とインターハイや春高に出る機会はあったものの、優勝には至らなかったということでした。

そしてなんと日向はブラジル、リオデジャネイロで2年間、ビーチバレーの修行を積んでいる最中でした。2対2で行うビーチバレーにも挑戦することで、さらにバレーボールの技術向上や巧さにつながると考えたようです。

自分に足りない部分を見つけて、さらに向上しようとしていました。

向上心を持ち続けることで日向が得たものは、日向と同じように強く、熱くありたいと考える良き指導者、安心感のあるどっしりとした先輩、良き理解者、同じ方向に走り続ける仲間、そして永遠のライバルでしょう。

われわれの日々の生活には当然のように波があり、良い日があればそうでない日があるように、現実世界において向上心を持ち続け、その心を失わずに走り続けることは難しいのかもしれません。でも、日向のような向上心を持つ人には、同じ志を持つ仲間があつまり、手を差し伸べてくれる人がいて、自分が理想とするような良い環境に近づけるということを教えてくれます。

本誌にてはじまった「終章」、「最終章」ではないのなら、もう少し先まで楽しめるかなというささやかな期待を持ちつつ、日向のたゆまぬ努力と前を見据える向上心を最後まで堪能したいと思います。

藤枝 あおい