日本では、歴史的に社会主義的なシステムがうまく機能してきましたが、その代表例は官僚が管理する財政投融資という巨大システムです。先述のように、ウズベキスタンにおける復興開発基金に似ています。そんな日本の財政投融資の中核にあった郵便貯金が民営化され、日本郵政は2007年の郵政民営化以来8年をかけて2015年に上場を果たしました。

しかし、その民営化は中途半端なものだったようです。端的に言えば、そもそもユニバーサルサービス(地域によって格差のない公平なサービス提供)という公共的義務を維持しながら(現時点で株式の政府保有比率は57%)、民間上場企業として利益最大化を目指す、という二律背反の目標設定に無理があったのではないでしょうか。

本当に公共性が重視される分野であるならば、それは政府部門の役割ですので、株式上場などさせずに国営企業として政策的使命を全うさせるべきだったのかもしれません。

現実に、中途半端に民営化された官業組織のガバナンスやコンプライアンスはどうあるべきか、とても難しい問題です。

ガバナンスについては、上場企業であっても市場からの監視に制約があるので監督官庁の監視体制のあり方がポイントになるでしょう。

また、コンプライアンス面では、単に関連規程を整備して形式的に「法令遵守」を求めるのではなく、顧客が「お役所」と誤解している、役職員に「親方日の丸」感が残っている、といった特殊実情の中で適正な販売を確保するには、契約・社内決裁手続きを慎重に再検討する必要がありそうです。

日本郵政の民営化が成功だったか失敗だったかは長い歴史が証明するでしょうが、2007年の郵政民営化から約12年が経過したのに、また今回のような不祥事が発生したので、そう楽観はできそうにありません。

日本郵政が示唆する教訓

さて、ウズベキスタンのような経済移行国では国営企業の民営化は中心的な政策課題ですが、当面、株式上場、政府持株比率の低減、ガバナンス・コンプライアンス関連規定の整備等、形式的な措置だけでなく、経営陣、収益モデル、ガバナンス・コンプライアンス等に関して事前に議論を尽くす必要がありそうです。

日本郵政のように、いちいち政権交代や与党内の議論に大きく左右されるような官業組織では「経営」は容易ではありませんから。

今回の日本郵政の事例で教訓があるとすれば、たとえ株式上場を果たしても官業組織において二律背反で達成困難な目標設定をすれば、「親方日の丸」感を引きずった役職員に愚かな行動を促してしまうリスクが高まるということかもしれません。

今後、ウズベキスタン国営企業の民営化について考える際は、基本に立ち返り、公共性が重視されるべき分野ではないか、あるいは民営化後の収益モデルが持続可能かどうかの見極めが大切になろうかと思います。

大場 由幸