昨年1月にコインチェック社の仮想通貨580億円流出事件が発覚して以来、仮想通貨は技術的に何か欠陥があるのではという漠然とした不安が強まっているように感じますが、そんな状況でも、仮想通貨によるICO(Initial Coin Offering)プロジェクトは目白押しです。

ただ、そもそも基盤となるブロックチェーン技術やICOの仕組みがわかりにくいので、そういうことには拒絶反応が出てしまうのも人情です。

今回は、普通のお金、仮想通貨、ICOトークン、それらの信用の拠り所とリスクについて根源的な部分から考え直してみたいと思います。

仮想通貨によるICOと昨年来の注意喚起

ICOは、クラウドセール、プレセール、トークンオークションなどとも言われたりしますが、株式投資におけるIPO(Initial Public Offering、新規上場)に類似した資金調達の新しい形態です。

トークンは、新規のブロックチェーンで発行される仮想通貨とは異なり、既存のブロックチェーンを利用して発行されるものです。発行元が倒産すれば、当然、トークンは紙くず同然になります。一般にトークンの価値は変動が激しいので、かなり高いパフォーマンスが期待できるとも言われますが、それ以上に高いリスクを伴います。

そのICOですが、昨年来、国内外で仮想通貨によるICOプロジェクトが目白押しです。たとえば、日本のCOINJINJAというサイトで検索すると2,500件以上もヒットします。

他方、詐欺事例も多発しているようで、昨年6月、一般社団法人仮想通貨サポートセンターのホームページでは、「仮想通貨ICOプレセール情報と注意点」が発表されました。

また、金融庁からも「ICOについて」という注意喚起が出ました(2018年10月)。ICOで発行されるトークン(証票)には、①価格下落の可能性、②詐欺の可能性があるので、自己責任で取引してくださいとのことです。

しかし、皆さんご存じのビットコインのように「上場通貨リスト」にある仮想通貨はともかくとしても、上場していないICOトークンは本当に理解できていないと判断が難しいでしょう。

仮想通貨と普通のお金との基本的な違いとは?

そもそも仮想通貨なるものは信用して良いものなのか。そこが今一つはっきりしないので、多くの人は仮想通貨を持つには至らないのでしょう。

昨年来、たとえば、イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁などが将来における仮想通貨の脅威を指摘していますが、現時点でグローバル市場における仮想通貨の規模は世界のGDPの1%にも満たないのです。

では、日本人が約半分を持っていて最も有名なビットコインを例にして、普通のお金と仮想通貨を比較してみましょう。

まず、基本中の基本ですが、近代国家ではお金とは電子データです。お金は信用創造という形で銀行が作り出していて、誰かが借金をするとお金(預金通貨)が生まれます。日本国内に流通している紙幣・貨幣は、お金全体の1割程度です。

ちなみに、一般に貨幣は物々交換の非効率を克服するための交換手段として導入され、紙幣価値の根拠は貴金属との兌換である(商品貨幣論)と考えられています。しかしそれは一種の誤解で、米ドルは1971年に金との交換が停止していますし(ブレトンウッズ体制の終結)、貨幣が物々交換から発生したという歴史的事実はありません。

一方、仮想通貨とは何でしょうか。お金は中央銀行が発行する法定通貨なので中央銀行・銀行のバックアップがありますが、仮想通貨にはそうしたバックアップはありません。仮想通貨の根拠はコミュニティにおける信用基盤ではなく、ブロックチェーンという新しい技術、「分散コンピューティング(分散型台帳技術/DLT)」です。

実はビットコインは金属貨幣(金貨、銀貨等)をモデルとしています。つまり、金属貨幣は鉱山での採掘により貴金属を入手しますが、普通は市場で入手します。それになぞらえ、ビットコインはマイニング(採掘:コンピュータ上の難解な数理処理)の報酬として入手しますが、普通は取引所を通じて入手します。

ただ、ビットコインの発行上限は2,100万BTCです。発行量が増えればマイニングが難しくなる仕組みで、需要が増えると稀少性が高まり、価値は上がります。

金や米ドルよりビットコインの方が価値は安定的?