目にするたびに辛くなる、子どもの虐待ニュース。「そんなことをするくらいだったら、子どもを施設に預ければいいのに」と思う人もいるでしょう。しかし虐待する親は、子どもを離さないといいます。子どもへの虐待を減らすためにも、虐待する親の心理と環境について知っておきましょう。

孤独ゆえ、子どもに依存するしかない親

児童精神科医である佐々木正美氏の著書『子どもへのまなざし』(福音館書店)では、自身の経験から虐待する親について「もう例外なくお母さんが孤独です」といいます(ここで「お母さん」と表現するのは、虐待する親は子どもに関わる時間の多い母親の方が多いためです)。

孤独だから虐待するというのは、矛盾するようにも思えるでしょう。「人間は本来、相互依存の傾向がある」(同著)と佐々木氏が指摘するように、そもそも人間は1人で生きられるものではなく、他のものに依存する傾向があるようです。

夫婦の場合、夫婦で依存し合えれば良いのですが、依存できなければ仕事、買い物、お酒、不倫といった他のものに依存するようになります。他の何にも依存できず、実家やママ友にも相談できない、近所付き合いもないという孤独な状態になると、人間は不安が大きくなります。

不安が大きくなると、「なにかにしがみつこうとするわけです、とうぜんですね。すがるものが、自分の幼い子どもしかないときには、子どもは非常に不幸なことになります(中略…)どういうことかというと、自分の思い通りの子どもにして、なぐさめられようとするのです。不安が大きい人ほど、子どもを操作しすぎると思います」(同著)。

子どもは決して思い通りにならない

子どもに依存し、子どもを思い通りにすることで自分の不安な心を満たそうとする親。しかし子どもは、決して親の言いなりにはなりません。赤ちゃんはよく泣きますし、幼児にはイヤイヤ期があり、しつけにはとても時間がかかり、何百回と言っても分からず、自我があるのが自然な子どもの姿なのです。

そういった自然な子どもの姿を見て、思い通りにできない親は腹が立ち、強い指示を与え、次第に強く叱ったり体罰を加えるようになります。

虐待する親について、「計画的に子供をいじめるようなことはあまりなくて、たいていは衝動的です(中略…)そのちょうど裏返しのように、子どもが自分の思い通りになったときには、大喜びをして、非常に子どもが好きになるのです。ですから、コインロッカーに赤ちゃんを捨てるとか、どこかに子どもを捨てる親と、子どもを虐待する親とは基本的に違うのです。めったに捨てたりはしないわけです」(同著)と佐々木氏は指摘します。

虐待について考えるとき、私たちはこういった親の心理と環境を考えるべき必要があるでしょう。

ワンオペ育児、産後クライシス…孤独な現代の育児環境

佐々木氏の指摘の一方で、現代の親の多くは孤独です。昔のような親戚付き合いや近所付き合いがあるわけでもありませんし、核家族、ワンオペ育児という人が大半でしょう。