「今は洗濯は洗濯機がやるし掃除は掃除機がやるじゃないか? 何がそんなに大変なんだね、最近の女性は」

生まれたばかりの赤ちゃんの抱っこと家事で手首を痛めた主人公の女性に対し、整形外科の医師がこう言い放つ場面があるのは、韓国で大ベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』です。

同著は子育て中のキム・ジヨンの言動に異常が起こり始めたシーンから始まり、彼女の幼少期から現在までの人生を淡々と振り返る構成となっています。SNSでは、「他人ごとじゃない」「私のことだ」といった反響を集め、日本でも売り切れる書店が出るヒット作となっています。

「今の女性はラク」の言葉の裏にある「昔は大変だった」

子育て中の女性の中には、家族や見知らぬ誰かから「今の女性はラクになった」と言われたことがある方もいらっしゃるかもしれません。その言葉の後には「自分たちの頃は……」と各々の回想シーンが続くわけですが、そう言うのはたいてい家事を誰かに任せてきた人や、子育ての記憶が時とともに変わってしまった人ではないでしょうか。

便利な育児グッズが増加し、スマートな家電が食器洗いや洗濯を担うようになっても、家事が人の手を必要とすることに変わりはなく、昔も今も変わらずに子どもを育てることや完ぺきな家事を続けるのは、多大なエネルギーを要します。

そもそも、誰かが「女性は昔と比べてラク」と言った場合の「昔」は、せいぜい30年~50年前くらいのことだと思われます。いったい、昔と何が変わったのでしょうか?

「昔の大変」と「今の大変」は何が違う?

現在30代の筆者は、炭焼き小屋で作った炭でこたつを温め、自家製の薪で風呂を沸かす大家族の家庭で育ちました。学校の社会の授業で習う「昔の人の暮らし」がリアルタイムの自分の暮らしとあまり変わらない……という環境だったので、昔の生活の不便さや大変さは少しは分かるつもりでいますが、おそらくシニア世代の人たちが言う「昔は大変だった」と、今の子育て世代が感じている「家事と育児が大変」の内容は異なり、なかなか分かり合うことができないと推測できます。

3度の出産経験がある筆者は、初産時の里帰りや盆暮れの帰省の際に、シニア世代から数多くの育児のアドバイスを受けました。「自分たちは大変だった」と回想するその内容を聞いてみると、たいてい以下のような話題につながります。

  • 家族の中で「嫁」という立場が弱く、大変だった
  • 「布おしめ」や「産着」を洗うのが大変だった
  • 今のように便利な育児グッズがないので、間に合わせで用意するのが大変だった
  • 外で働きたくてもなかなか許されなかった
  • 夫や舅が右から左にモノを動かすことすらしなくて大変だった

また、夫がサラリーマンだった場合、高度成長期に「企業戦士」の名のもと、育児に関わらない状態を大変だったと言う声もよく聞かれました。

一方で、今の母親が大変だと感じることの一部をあげてみると……