電力制御などに使われるパワー半導体の増産機運が高まっている。背景にあるのが、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)といった環境対応車の増加と電装化比率の向上だ。米中貿易摩擦や世界経済の不透明感によって自動車生産台数の増加にはブレーキが掛かり気味だが、半導体製造装置の業界団体SEMIの調べによると、電装化比率の向上によりパワー半導体の月産能力は2022年に650万枚以上に拡大する見通しで、18年から100万枚以上増えることになるという。メモリーを中心に半導体市況には停滞感が強まっているが、パワー半導体は19年以降も着実に増産対応が進みそうだ。

独インフィニオンが300mmで増産加速

 すでに積極的な増産投資を進めているのが、パワー半導体で世界最大手の独インフィニオンだ。同社は現在のところ世界で唯一、ドレスデン工場にて300mmウエハーでパワー半導体を量産。19年度(19年9月期)は16億~17億ユーロの設備投資を計画しており、オーストリア・フィラッハ工場300mmウエハー新棟の立ち上げなどに取り組む予定だ。

 フィラッハ新棟は18年11月に着工した。19年度は投資額のうち約2億ユーロを充てる予定だが、6カ年で総額16億ユーロを投じる計画であり、20年中ごろから装置を導入し、21年初頭から車載向けを含むMOSFETとIGBTの生産を開始する予定だ。

デンソーは提携関係をさらに拡充

 このインフィニオンに対し、18年11月に出資を表明したのがデンソーだ。出資比率は約0.2%だが、車載半導体の調達関係を強化・安定化するのが狙い。自動運転関連システムなどの共同開発も行うという。

 デンソーは、18年3月にルネサス エレクトロニクスへの出資比率を0.5%から5%に引き上げたほか、同年1月にはFLOSFIA(京都市)とも資本提携して、次世代材料として大きな可能性を秘める酸化ガリウムのパワー半導体への応用に向けた共同開発を進めることに合意した。6月にはトヨタ自動車から電子部品の生産事業を移管する方向で検討に入っており、電装化のコア部品であるパワー半導体の確保へ着々と手を打っている。

富士電機は総額1000億円投資を検討

 富士電機は、18年7~9月期の決算会見で、策定中の次期5カ年中期経営計画(19~23年度)の半導体設備投資が4桁(1000億円以上)になる可能性があると言及した。同社は、自動車の電動化によってパワー半導体需要が今後も拡大すると判断し、17年に半導体への投資拡大を決断。増産へ総額500億円を投じることを表明し、18~19年度に200億円分の投資計画を固め、松本工場や山梨工場で8インチの増強投資を推進中だが、投資をさらに上積みすることになる。

 同社は17年10~12月期の決算会見で、今後の半導体投資について「パートナーを募ることも選択肢の1つ」と述べている。昨今のデンソーの相次ぐ提携を見ると、富士電機もデンソーから強い供給要請を受けていることは想像に難くない。仮に4桁投資を実行するなら、生産拠点を今後新設する可能性が高い。

米クリーがSiCウエハーで攻勢

 海外では、次世代パワー半導体材料として期待が高いSiC(炭化ケイ素)ウエハーの最大手である米クリーが、子会社ウルフスピードの事業拡大に積極的だ。インフィニオンへのウルフスピード売却が17年に破談になって以降、クリーはSiCウエハーの外販およびSiC-RF&パワーデバイスの拡大に注力。今後24カ月でRF&パワーデバイスの生産能力をさらに2倍に高める予定で、19年度(19年6月期)は2.2億ドルの設備投資を実施する。

 クリーは先ごろ、欧州の半導体大手STマイクロエレクトロニクスに対して、ウルフスピードのSiCウエハーを複数年にわたって製造・供給する契約を結んだと発表した。これに基づき、2.5億ドル相当の6インチSiCベア&エピウエハーを供給していく。クリーがSiCウエハーの複数年供給契約を結んだのは、過去1年間でこれが3件目。ウルフスピードの売上高は四半期ベースでようやく1億ドルを超えたばかりだが、22年度にウルフスピードだけで売上高8.5億ドルの達成を目標に掲げている。

ロームや三菱電機も増産へ着々

 SiCパワー半導体に関しては、SiCウエハーメーカーのサイクリスタルを傘下に持つロームが、すでにローム・アポロ筑後工場に200億円強を投じてSiCパワー半導体の新棟を建設中。SiCパワー半導体の月産能力を21年に現有の約3倍に相当する1.2万枚に引き上げ、世界シェア30%の獲得を狙う。

 一方、IGBTで世界トップクラスのシェアを持つ三菱電機は「大型投資による規模の追求はしない」考えで、すでに活用している外部ファンドリーによって能力を拡大していくとみられる。18年春から2社目となる海外ファンドリーへの委託を始めている。

日本企業は「300mm化」が課題に

 今後の注目点は、日本メーカーがパワー半導体の300mmウエハーによる生産にどう着手するかだ。6インチ(150mm)や8インチ(200mm)に比べて投資額が桁違いに大きくなるため容易に踏み切れないだろうが、放置すればインフィニオンとのコスト競争力が開く一方になる。パワーモジュール中心のビジネス戦略をとるにしても、300mm化は必ず向き合わなければならないテーマになるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏