2019年の半導体市況は、18年後半から始まった下降局面を引きずるかたちで、力強さに欠ける状況がしばらく続きそうだ。過去2年にわたって市場を牽引してきたメモリー分野は、最終需要の冷え込みと米中貿易摩擦に端を発する在庫圧縮の動きを受けて需給バランスが軟化、価格下落が進んでいる。ただ、一部では「過度な在庫圧縮」を指摘する声もあり、悲観論・楽観論の双方が渦巻く展開となっている。

10%のギャップ

 メモリーはスマートフォンの不調に加え、データセンター分野の需要減も重なり、需給ギャップが生まれている。特にNANDは2Dから3Dへの技術転換に伴い、一時は低歩留まりの影響から品不足の状況もあったが、18年に入って歩留まりが安定したこともあり、出荷が一気に伸びた。18年通年での出荷ベースでのビット成長は50%を超えたとみられ、需要ビット成長率と約10%の乖離があったものと推定される。

 このため、18年春先から価格下落の展開となり、10月以降はそれに拍車がかかっている。特にパソコンなどに用いられるコンシューマーSSDの価格下落が厳しく、China Flash Marketによれば、TLCベースの240GB品は年初に比べて42%下落。メモリー主要各社の利益率も徐々に低下傾向にある。DRAMも10月以降、価格下落が始まっており、メモリー各社は相次いで設備投資にブレーキをかけている状況だ。

「過度な在庫圧縮」が需要減の正体か

 今後の焦点となるのが、市況の回復タイミング。スマホなど主要セットの売れ行きが不調なことに加え、米中貿易摩擦の影響に伴う需要の下ぶれも危惧されており、不透明感が増している印象だ。一方で、「実需以上に在庫圧縮の動きが今回の需要減の正体」と指摘する声もあり、米中貿易摩擦によるマインドの冷え込みが予想以上に悪影響を及ぼしているという。

 この過度な在庫圧縮の動きが早晩解消されれば、メモリーメーカーに対する需要も戻り、需給ギャップが改善するという楽観論も出始めている。こうした楽観論が現実のものとなれば、19年下期からの設備投資再開も十分に期待できそうだ。

 ちなみに、日本半導体製造装置協会(SEAJ)は、半導体・FPD製造装置の最新需要予測を発表した。それによると、2019年度(19年4月~20年3月)の日本製半導体製造装置の販売高は前年度比0.5%増の2兆2810億円と、プラス成長となる見通し。

 予測の前提となる半導体設備投資については、18年度後半から19年度前半にかけ、メモリー投資の減速で一時的な調整局面となるが、19年度後半からメモリーの需給バランス改善を予想。特に20年1~3月からの大きな回復を見込んでいる。回復基調に入る20年1~3月期が19年度予測に含まれているため、他の業界団体や調査会社に比べて若干ポジティブな予想となっているほか、会員である国内半導体製造装置メーカーのシェア増も考慮しているという。

CISは複眼化、光デバイスは新市場台頭

 メモリーとは対照的に、CISやパワーデバイスなど、比較的日系勢が得意とする分野は総じて好調に推移している。CISは主用途のスマホでの複眼化がより一層加速しており、需要拡大が続く。19年は主要スマホ各社の旗艦機種の多くが3眼タイプとなり、仮にスマホの出荷台数が横ばい~微減で推移したとしても、年間ベースで数億個の需要増が期待できる環境にある。国内ではソニーが引き続き増産投資を積極的に進めるほか、サムスン電子もDRAMからCISへのライン転換を行い、生産能力を高めている。

 パワーデバイスも引き続き堅実な伸びが見込めそうだ。電動化に伴い、車載用途が中長期的に最も成長が見込めるエリアであるほか、白物家電も季節性による需要変動は大きいものの、インバーター化などが追い風となっている。今後は300mmウエハーを使った大口径化シフトも1つのテーマとなりそうで、具体的な投資判断を行う企業が19~20年にかけて出てくる機運が高まっている。

 ニッチながらも期待のアプリケーションが数多くあり、明るい事業環境といえそうなのが光デバイスだ。LED分野はUV用途やマイクロLEDなどの新市場が立ち上がっているほか、半導体レーザーもデータセンターや5G基地局などの通信インフラでの需要増が期待されている。また、3Dセンシング用途にはVCSEL(垂直共振器面発光レーザー)の用途拡大が、スマホに限らず車載分野でも広がりを見せている。

 報道では影響力の大きいメモリー市況の悪化がクローズアップされるため、半導体市況全般がトーンダウンしているように見られがちだ。しかし、分野ごとに着目していけば、CISやパワーデバイス、光デバイスのように活況を呈している分野もあり、19年はこうしたニッチ市場が業界を下支えしてくれることになりそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳