本記事の3つのポイント

  • 次世代蓄電池としてナトリウムイオン電池が注目。安い材料コストが魅力の1つとなっている
  • 電解液の改良などによって、耐久性も向上している
  • 乗り物や定置用電源として応用が進む。すでに中国企業では同電池を採用した電動バイクなどを発売している

 リチウムイオン電池(LiB)に続く次世代蓄電池として、数々の有力技術が開発されている。最も期待がかかるのは全固体電池だ。2019年にも携帯機器や電動車(xEV)などに搭載される計画で、次世代蓄電池の本命とも言われる。

 一方、海外を中心に密かに注目されている、ダークホース的な存在がナトリウムイオン電池(NaiB)だ。エネルギー密度はLiBと同等、または若干低いものの、資源量が極めて豊富なナトリウムを採用することから、材料コストを格段に下げることができる。すでにNaiBを搭載したEV、電動バイク、定置用電源なども製品化されており、将来的にブレークする可能性がある。

 次世代蓄電池としてはリチウム空気電池、リチウム硫黄電池、マグネシウムイオン電池などが有望視されているが、いずれも実用化にはまだ時間を要するとみられている。最大のネックがサイクル回数だ。容量が落ちることなく、LiBと同程度(2000~4000回)を確保する必要があるが、現状ではいずれも程遠い。

 これまでに報告されている国内の研究成果は、リチウム空気電池もリチウム硫黄電池も最大50回程度。マグネシウムイオン電池は20回以下にとどまる。これに対し、NaiBは3000回程度が報告されており、LiBとほぼ同等の水準に達している。

 また、NaiBのエネルギー密度はLiBと同等または8~9割。加えて、ナトリウムイオンは動きやすいことから高出力化に向いている。

安い材料コストが最大のメリット

 NaiBは、正極材にナトリウム酸化物、負極材に炭素材料、電解質に有機溶媒を採用する。充放電メカニズムはLiBと同様で、ナトリウムイオンが正極と負極を行き来するインターカレーション反応によって電子を運ぶ。製造プロセスもLiBと大きく変わらないため、LiBの設備をそのまま転用できる可能性が高い。

 NaiBの最大のメリットが安い材料コストだ。LiBはリチウム、コバルト、ニッケルなどを電極材料などに採用するが、いずれもレアメタルだ。例えば、リチウムは南米のチリやボリビアなどに偏在し、政情悪化の可能性から安定的に調達できる保証はない。これに対し、NaiBは海水にも存在する、資源量が極めて豊富なナトリウムを採用し、その材料コストはLiBの1/10程度に抑えられる。そのため、製造コストを大幅に低減できる可能性がある。

 ただし、LiBの製造コストは最も低いレベルで10~20円/Wh程度にまで下がっており、このレベルにまで下げるのは容易ではない。それでも、将来的にLiBに対して2割程度削減できるという声もある。

 一方、電解質に有機溶媒の代わりに固体電解質を採用する、全固体電池化の研究開発も進められている。材料としては無機系(硫化物系や酸化物系など)や高分子系などが検討されており、さらなる低コスト化、それに高い安全性が期待されている。

電解液を改良

 NaiBのサイクル回数が増えたのは最近のことで、以前は劣化によって数百回程度にとどまっていた。大学・研究機関、企業などの精力的な研究開発により課題を払拭できた。

 ポイントは電解液の改良だ。劣化とは、負極内に電解液の分子などが入り込んで分解が進み、サイクル回数が多くなると寿命と容量が落ちるというものだ。

 これに対し、例えば三菱ケミカル㈱は、負極表面に保護膜を形成する物質を電解液に加えることで克服し、充放電を3500回繰り返しても容量を6割維持した。仏CNRS(フランス国立科学研究センター)発ベンチャーのTiamat Energyも同様の手法で劣化防止に成功した。

乗り物・定置用電源に採用

 NaiBの用途としては、EV、電動バイク、電動自転車といった乗り物、それに定置用電源などが想定されている。EVや電動バイクに搭載されれば、高出力化に向いていることから優れた加速性能が期待できる。その反面、エネルギー密度が低く、かつ重量が重いことから航続距離は伸びにくい。従って、長距離EVには向いていないが、短距離EVには搭載可能だ。

 一方、定置用電源では家庭用電源、それに再生可能エネルギーによる電力の貯蔵や周波数調整を行う産業用電源にも期待されている。先述のようにNaiBは材料コストが低く、大容量化すればするほどコストメリットが効いてくるため、LiBよりも優位だ。

 また、こうした用途ではナトリウム硫黄電池(NAS電池)やレドックスフロー電池も使われている。ただし、前者はサイクル回数が多い(2500~5000回)ものの、動作温度が300~350℃と高く、かつエネルギー密度もNaiBより少し低い。後者はサイクル回数が圧倒的に多い(1万回以上)が、エネルギー密度がNaiBより格段に低い。

 現状、複数の企業がNaiBの実用化を進めている。その1つ、HiNa Battery Technology(中国江蘇省溧陽市)は、NaiBを搭載したEV、電動バイク、電動自転車、定置用電源などを製品化している。なお、同社はNaiBの材料、製造プロセスなどに関する数多くの特許を保有しているもようだ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

まとめにかえて

 主流のリチウムイオン電池に代わる次世代電池の開発が活発化しています。最近では固体電解質を用いた全固体電池の開発が大きな注目を集めています。全固体電池以外にも本記事にナトリウムイオン電池をはじめ、次世代候補は枚挙に暇がありません。日本に数多く存在する電池材料メーカー各社にとっても、今後どれが本命となるのか、今後の開発戦略にも影響を及ぼすため注視している状況です。

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