父「オレのメガネがないんだけど、どこかで見なかった?」
母「……あなた、頭の上にあるじゃありませんか?」
父「あ……、そうだった。最近、物忘れがひどくて……」

 高齢になった親のこんな会話を聞いて、不安に思うことはありませんか? 「うちの親がもし認知症になったらどうしよう?」と思うのは当然です。2015年に発表された厚生労働省の統計によれば、2025年には65歳以上の高齢者の実に5人に1人が認知症患者になると推計されています。

 こうした状況に関連して「認知症になった高齢者の財産管理でトラブルになるケースが増えている」と警鐘を鳴らすのは、新宿総合会計事務所グループの代表を務める瀬野弘一郎氏です。同氏の著書『もしもの時の「終活・相続」バイブル』から、親が認知症になったときの財産管理の方法についてご紹介します。

認知症になった親の預金が引き出せない!

 以前、こんなケースが新聞で報道されました。認知症で老人ホームに入居している父親の入院治療費を払うため、息子さんが父親名義の信用金庫の口座から約60万円を引き出そうとしたところ、こう言われたというのです。

「ご本人の意思確認ができない状況では支払いに応じられません」

 金融機関としては、家族による横領を防ぐための対応だったらしいのですが、本人のために使うお金でも、預金が凍結状態になってしまう可能性があるのです。

 親が認知症になった場合はもちろん、認知症に至らない場合でも、判断力や理解力が鈍ってきたときのために、事前に対策を考えておくと安心です。そこで役に立つのが、「成年後見制度」と「家族信託」(※)という2つの制度です。なかでも「家族信託」は、その利用のしやすさから近年、急速に広まっていますので、この記事では「家族信託」についてより重点的にご紹介します。

※「家族信託」は、一般社団法人 家族信託普及協会の登録商標となっている

後見人に財産管理を任せる「成年後見制度」