中国最大のエレクトロニクスメーカー、華為(ファーウェイ)のNo.2である孟晩舟氏がカナダで逮捕されたとの波紋は大きく広がってきている。とりあえず(というには巨額だが)8億5000万円にも上る保釈金を払って拘留は解かれたが、起訴されれば数十年にわたる懲役刑の可能性があるとも言われている。

 それはともかく、華為の売り上げは約10兆円、世界の基地局におけるシェアは世界トップ、スマホにおいてはサムスン、アップルに次ぐ世界3位に君臨している。そしてトランプ米大統領は、華為の製品を使わないように関係国に呼びかけている。英国、オーストラリアはこれに従う方針であり、日本も追従することは間違いないだろう。

 中国からの輸入額の半分に25%の関税をかけてしまうという経済制裁の第4弾については、トランプ大統領は90日の執行保留で少しは譲歩してきたが、今度は華為の市場閉め出しにもつながる荒業に出た。日本のソフトバンクは華為との共同開発を行っているだけに状況が厳しい。また華為と取引のある日本の電子デバイスメーカーにも大きな負のインパクトがあると言われており、6000億~7000億円の商機損失も考えられる。

慌てて半導体開発を進める中国企業

 米国が本気になって中国のハイテク産業政策「中国製造2025」を叩き潰しに来たわけだから、中国企業もここは身構えざるを得ない。

 百度はAI向けの半導体開発を加速する考えであり、家電大手の格力はエアコン向け半導体の内製化を決定した。ZTEと華為はデータセンターやスマート端末用2種類のAIチップ開発に注力している。さらに長虹、TCLなども自前のICチップ開発をここに来て打ち出し始めている。

中国にとって内製化は高い壁

 しかしながら、こうした半導体内製化の進展はそう容易ではないだろうと見るのが、半導体製造装置関係者である。第一に中国企業は半導体の設計まではできても、自前で作れるほどの製造技術を持っていない。第二には、トランプ大統領が半導体製造装置の中国輸出を禁ずるという暴挙を考えていることだ。製造装置については米国が世界の40%、日本が35%のシェアを握っており、日米から輸入できなければ手も足も出ない。そして第三にはサプライチェーンが構築されておらず、結局はTSMCやUMCなどの台湾ファンドリーに頼むしかないのだが、すでにUMCなどは米国に従い中国チップを作らない方向に出ている。

 2017年の中国の半導体輸入額は前年比14.6%増の2601億ドルであり、輸出を差し引いた純輸入額についても1933億ドルに拡大している。日米欧の包囲網で半導体および製造装置を止められれば、中国という国家そのものに多大なる打撃が加えられることになるのだ。IoTの将来を担う「中国製造2025」を推進することもほとんど不可能になる。いやはや、トランプ大統領の一声でこんなことになるとは、一体誰が想像することができただろうか。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉