2019年の半導体設備投資は、17~18年の高水準から一転して踊り場を迎える可能性が高まってきた。データセンターなどクラウド分野の投資意欲減退により、メモリーの需給バランス悪化が表面化しつつある。主要メモリー各社はこうした状況を鑑み、設備投資にブレーキをかけ始めており、製造装置メーカー各社への影響も懸念されている。半導体需要の拡大に伴い、中長期的な市場に対する見方は変える必要はないが、20年以降のもう一段の成長に向けて19年は我慢を強いられる一年となりそうだ。

ついにDRAM価格も下落へ

 メモリー価格に関しては需給逼迫の影響により16年下期から上昇を続け、メモリー各社の好業績につながった。DRAMの契約価格は、直近でボトムだった16年4~6月期と比較して2.6倍に上昇。足元では下落局面に転じているNANDも、ピーク時には75%前後の価格上昇があった。こうした恩恵を受け、各社の利益は歴史的な高水準となり、サムスン電子に至ってはDRAMの営業利益率が70%程度の水準にまで高まってきた。

 しかし、足元ではスマートフォンの生産調整に端を発して、頼みの綱であったデータセンターなどのクラウド投資も減退。データセンターの建設が盛んな米中では相次いで投資計画の見直しがかかるなど、最終需要に大きな減速感が見て取れる。また、米中貿易摩擦による最終製品需要の減退なども投資環境に悪化に拍車をかけている。

 こうした状況から、NANDは年明けから価格が下落に転じており、年初から2割近い下落幅となっている。DRAMは18年年明け以降も価格上昇を続けたが、10~12月期からはいよいよ下落し始めるとの見方が強まっている。

サムスンが平澤のDRAM投資を再延期

 需給悪化の懸念から、メモリー各社は先手を打って投資計画を見直しており、利益の安定的確保に軸足を移しつつある。サムスンは春先に平澤工場上層部でのDRAM投資の一部延期を決めたが、今回メモリー市況を考慮して改めて精査。その結果、延期分の設備導入を再度見送ることを決めた。

 当初、この延期分の投資では1Ynm世代の導入が予定されていたが、再度延期となったことで現在導入済みの1Xnmライン(月産6万枚規模)の一部を1Ynm化するプランに変更した。

 サムスンの半導体設備投資に関しては、19年にNAND投資を再開するとの期待感もあった。しかし、肝心のクラウド需要が減速している現在、新設案件の西安工場第2棟および平澤工場第2棟の設備導入時期についても、後ろ倒しの方向で話が進んでいるようだ。

東芝メモリ・北上新工場にも暗雲

 四日市に加え、北上新工場の立ち上げを進める東芝メモリも投資計画の見直しに迫られている。装置導入を進めている四日市工場第6製造棟(Y6)は、96層品の開発遅れなどにより若干の後ろ倒しとなったが、スケジュールに大きな変化はない。一方で北上新工場(K1)は現在の市況から装置導入時期および導入規模を巡って、再度検討が進められているという。

 マイクロンテクノロジーもNAND投資の見直しを始めている。シンガポールの「Fab10X」への投資スケジュールを遅らせているほか、19年春からの設備導入を予定していた「Fab10A」も延期を決めたもようだ。一方で、DRAMは今のところ積極投資のスタンスに変わりはない。広島工場では新棟が18年秋に竣工予定であるほか、新たに用地の取得も進めているとみられる。また、台湾工場での増強も引き続き行っているほか、米マナサス工場でのクリーンルームの拡張も決めた。

気になるSKハイニックスの動向

 業界でその動向に注目が集まっているのがSKハイニックス。同社は17年から積極投資の姿勢を続けており、サムスンがメモリー投資の計画を見直したときでも、そのスタンスを崩さなかった。競合各社が投資計画の後ろ倒しを決めるなか、同社は無錫のDRAM新ライン(C2F)、清州のNAND新ライン(M15)の投資前倒しを決め、競合各社とは一線を画す戦略をとっていた。

 製造装置メーカーにとっても、後ろ倒しで空白となった生産ラインを埋めてくれる「救世主」的な存在といえた。メモリー市況が一段と不透明感を増すなか、SKハイニックスが今後も強気スタンスを崩さずに投資を実行するかどうかは意見が分かれるところだ。

 主要各社の投資計画が相次いで見直されるなか、19年の半導体設備投資金額は従来コンセンサスとなっていた前年比横ばい~微減から、2桁台のマイナスとなる公算が高まってきた。

 中長期的な視点に立てば、ビッグデータや5G、自動運転など半導体需要は今後も伸び続けることに異論はない。しかし、19年に向けた市場展望という意味では、悪材料が出始めているのは事実であり、半導体製造装置メーカーをはじめとして警戒感が強まっている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳