先日、東京医科大学が女性受験者の点数を一律に減点し、女性の合格者数を減らしていたというニュースが大きな話題となりました。

普通の感覚ではちょっと信じられないような減点騒動の背景には「女性は男性に比べて体力や筋力がなく、働ける科が男性に比べて限られる」などの考えがあったとのことですが、ほかにも大きな動機だったといわれるのが「妊娠・出産による休職や退職」でした。

このニュースは大々的にテレビやネットなどでも取り上げられましたが、実は「妊娠・出産」した女性に対する強い風当たりは、ほかにもさまざまな場面で見られます。

「お腹が小さいから」席を譲らなくてもいい?

最も身近な事例が、優先席に座れない妊婦さんではないでしょうか。「おなかに赤ちゃんがいます」と書かれた「マタニティマーク」を付けていて、明らかにお腹が出ている場合でさえも、席を譲ってもらえないことも多々あるそうです。

席を譲らない理由として「マタニティマークは付いているけどお腹がまだ小さかったから」と言う人もいますが、実はこれは大きな認識違い。妊娠初期はお腹こそ小さいものの安定期に入る前なので、つわりなどの症状に悩まされる人が特に多くいます。またマタニティマーク自体にも、外見からはわかりにくい「妊娠初期の人」であることがわかるようにするという意味もあります。

お腹の大きい・小さいにかかわらず、妊婦さんを見つけたら、やはり快く席を譲ってあげるのが一番です。

付けたくても付けられない? マタニティマーク

ただ、中には「マタニティマークをあえて付けない」という選択をする人もいるようです。

上記のような現状から「付けたところで、誰も席を代わってくれない」と言う人もいますが、他の理由で付けない人もいるというのです。その理由というのが「妊婦だと気づかれると、罵声を浴びせられたり、お腹を蹴られたりするかもしれない」というものです。

株式会社エコンテが実施したインターネット調査によると、妊娠中、または3歳未満の子供がいる母親400名への「マタニティマークを身につけていることで不快な思いや身の危険を感じたことがあるか」という質問に対して、「ある」と答えた人は9.7%いたといいます。

大事な時期を過ごす妊婦さんに対する暴言や暴力は、絶対に許してはいけない行為でしょう。しかし、こうした心ない仕打ちにおびえて、じっと耐えている人も少なからずいるのです。

流産したのに……上司の指示で仕事優先

また、にわかには信じられない話ですが、読売新聞のサイト「大手小町」では、7月下旬に「流産で亡くなった子をお腹に残したまま夜勤をした」という話が掲載され、ネットで大きな反響を呼びました。

ある妊娠中の看護師の方が、仕事の合間を縫って産婦人科に行くと、お腹の中の子が亡くなっているとわかりました。亡くなった子どもを取り出す処置をするために上司にシフトの変更を申し出たところ、急にシフトを変えることはできないから次の休みに処置してくれと言われたそうです。

その後も数日間、勤務を続けたその方は「心が壊れそうだった」と言っていたとのこと。忙しい職場だというのはわかりますが、それにしても、あんまりな対応ではないでしょうか。

男性だけでなく同性の理解も……

育休や産休の導入や女性の社会復帰支援など、妊娠・出産に関する明るいニュースがある一方で、辛い思いをしている妊婦さんも数多くいます。特に小さな会社で、「制度としてはあるけど、産休・育休を取った人はまだいない」という場合には、上司や同僚の理解が得られないことも多いようです。

(それがいいか悪いかは別にして)男性の上司などの理解がないのはなんとなく予想できるのですが、妊婦さんが意外と口にするのが「同性の理解がない」ということです。

体調不良が多くて休みがちだったり、自宅勤務などを会社として特例で認めてあげたりすると、女性社員から「なんであの人だけ優遇されるの?」「わたしだって体調が悪い中で出社して仕事してるのに、不公平じゃない」といった不満が出たりするというのです。

「個人差が大きいこと」も理解の壁に

妊娠したときの体調の変化は、かなり個人差がありますし、同じ人でも1人目と2人目を産むときで違うという場合さえあります。そのため、妊娠経験のある人でも、「わたしはそんなに大変じゃなかった」という個人的な体験をもとに、「あの子、大げさすぎなのよ」と決めつけてしまったりということもあるようです。

たとえばフランスでは、「妊婦に気を遣うのは当然」という風潮があり、スーパーのレジなど、さまざまな場面で順番を譲るのが習慣として根付いているとのこと。もちろんすべてのフランス人がそうだというわけではないでしょうし、日本人も多くの人は気づいたら席を譲ったり気遣ったりするのですが、もう少し「社会全体で子育てする」という意識も必要ではないでしょうか。

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