家を買うとしたら、「駅から遠いけど広めの家」と「駅から近いけど広くない家」では、どちらがいいのか?

 これは、住宅購入者がよく抱く疑問だろう。正直なところ、何に幸せを感じるのかは人によって違う。ずっと住み続けるのであれば、単純に個人の好みで選べばいいかもしれない。

 しかし、人口減少の時代に、「資産」という観点で不動産を見ると、また少し異なる側面も表れてくる。『年収1000万円の人が、5年で現金3000万円をつくる方法』の著者で、不動産の目利きとして数多くの取引を経験してきた横濱コーポレーション社長・菅沼勇基氏が解説する。

東京でも2025年には人口減少に

 私はこれまで株などさまざまな投資に手を出してきましたが、メインを不動産投資に据えることで資産を形成してきました。サラリーマン時代、25歳で初めて10戸の新築1棟、8000万円の物件を買って、給料とは別に収入を得るようになりました。

 以来、32歳の現在に至るまで、仕事上で300棟以上の取引経験を積んできました。自分で取引した物件も100棟以上あります。この年齢でこれだけ投資経験のある人は、あまりいないのではないかと思います。

 そもそも、不動産といえば「価値が変動するもの」というイメージを持つ方も多いはずです。いかに持ち家に魅力を感じていても、価値の変動が怖くて一歩踏み出せないという声はよく聞きます。しかも、日本全体で見れば、2011年から人口減少の時代に入っています。いまはまだ人口が増え続けている東京でも、2025年には人口が減るといわれています。

「駅近物件」なら価値は落ちにくい

 首都圏で、資産として住宅を考えたとき、「駅から遠いけど広い家」と「駅から近いけど広くない家」のうち、購入しても比較的、価値が下がりにくいのは、価格が同じであれば後者の物件だと考えられます。首都圏でも郊外になると事情が違いますが、一般的に大都市部は、交通手段として「電車がほぼすべて」と言っても過言ではないからです。

 購入した物件に自分で住んでいる方は、「資産価値」と言われてもなかなかピンとこないという人も多いでしょう。意識するのはせいぜい固定資産税を払うときぐらいかもしれませんが、その際の評価額も、実際の土地・建物の価値とイコールではありません。

 そうした状況で、資産価値の一端としてわかりやすいのは、「賃貸に出した場合の家賃」です。分譲マンションの場合などは、自宅のマンション名を検索すると、隣の部屋の持ち主が賃貸に出していたりして、「あ、うちを賃貸に出したらこのくらいの家賃なんだ」と気づいたという人もよくおられます。不動産投資の場合は、もちろんこの家賃が直接、収入につながります。

 上記のような理由で、ここからは資産価値のわかりやすい目安として「家賃相場」を軸に考察していきたいと思います。

「徒歩10分以内」が条件

 駅から物件までの時間と資産価値の話に戻りましょう。

 資産として住宅をとらえると、自宅を購入する場合でも、不動産投資をする場合でも、「駅に近い物件」であることが大切です。具体的には「徒歩10分以内」が条件です。

 図表1(別画像)に示すように、駅から同心円状にエリアを見ていくと、徒歩5分のエリアと徒歩10分のエリアは、駅からエリアの端までの直線距離では倍ですが、面積比では(重複する部分を除くと)1:3になります。つまり、徒歩5分圏内と徒歩10分圏内は、3倍の面積差があるということです。

※ この図では、考え方をわかりやすくするために、道路などは無視して単純に同心円にしています

価格競争が起こる場所は空室も多くなる

 駅5分以内のほうが面積は小さいため、当然ながら物件自体が少なくなります。実際には商業地域の割合も駅5分圏内のほうが多いのが普通ですので、住宅物件としてはさらに少なくなるのが一般的でしょう。そうすると、家賃相場については価格競争が少なくなります。実際に賃貸に出した場合にも、空室は少なくなるのです。

 これが徒歩15分圏内となると、同様に駅からエリアの端までの直線距離は徒歩5分圏内の3倍、面積比では1:8になります。そうなると、物件自体も多くなるため、価格競争が起こり、空室もさらに多くなります。

 大きな大学の近くなど、特殊な立地であれば話は違ってきますが、通常は上記のような理由で、最低でも「駅から徒歩10分以内の物件」を狙うべきなのです。

人口の面から考えてみると

 次に、人口動態の面からも考えてみましょう。日本の人口が減少するといっても、「すべての地域で一律に減るわけではない」というのがここでのポイントです。

 アパートやマンションの家賃は、ほぼ需給関係で価格が決まります。人口が減少してそのエリアの賃貸需要が少なくなると、当然ながら駅から近い便利な物件のほうが部屋が埋まりやすいため、駅から遠いところほど家賃が下落します。しかし、それに引っ張られて駅周辺部の家賃も大きく下がるかというと、極端に人口が減らない限り、下落はありえません。

 つまり、駅から遠いエリアは人口減少の影響をもろに受け、当然、家賃も下がりますが、駅から近いエリアは比較的人口が減りにくく、家賃も下がりにくいのです。よく考えれば当たり前の話です。

周辺地域の「雇用の需要」も重要

 私が不動産投資を手掛けている横浜市で言えば、いま人口は370万人余りいて、横浜市の推計では、2019年までは増えていき、その後は減少に転じて、2040年には352万人まで徐々に減っていくと試算されています。

 冒頭でもお話ししたように、これまで私は300棟以上を取引していますが、投資物件のほとんどが、横浜市でも東側に偏っています。このエリアはいわゆる「太平洋ベルト地域」の中でも最大の工業地帯である京浜工業地帯にあたりますから、雇用がまだまだたくさんあります。そこへ地方から労働者が流入してくるため、賃貸需要もまだまだあります。2025年を過ぎても、減少は他のエリアに比べると、相当なだらかになるはずです。同じことは、東京都心部にも言えるでしょう。

 雇用の需要については、単に地図を眺めているだけではなかなかわからないもので、実際に自分が住んでいてよく知っているような地域のほうが、感覚はつかみやすいと思います。

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まとめ

 あらためて、ここまでお話ししてきた内容をまとめてみます。

(1) 駅徒歩10分以内
(2) 雇用がそれほど大きく減少しない

 この2つの条件を満たすエリアであれば、賃貸需要はそれほど減少せず、家賃も下がりにくい。したがって、資産価値もあまり下がらないと考えられます。ただし、繰り返すように、これには「大都市圏」という大前提があります。

 大都市圏で(1)(2)の条件を満たすエリアは、横浜・川崎・東京のほかには、埼玉・千葉の東京近隣のエリア、大阪・名古屋・福岡くらいかもしれません。上記の2つの条件に合致しており、できるだけ自分のよく知っているエリアで物件を買うことが、「資産」としての不動産において失敗しない秘訣と言えるでしょう。

 もちろん、これはあくまで「資産として見たときに、一般的に価値が下がりにくいのはどんな場所か」という観点での話です。これらの地域以外でも、(大都市圏より範囲はだいぶ狭いですが)同様の効果が得られるエリアはありますし、そもそもこうした観点ではなく自ら住むのであれば、「自分が本当に気に入った場所」がいちばんいい場所のはずです。

 

■ 菅沼 勇基(すがぬま・ゆうき)
横濱コーポレーション株式会社 代表取締役。1985年、横浜市生まれ。横浜市立大学卒業後、住友不動産を経て横濱コーポレーション設立。投資用不動産としてこれまで300棟の取引実績があり、現在、計300億円の資産を稼働率95%以上で運用。また、自身でも不動産投資を積極的に行い、家賃収入だけで年間2億円を超えるほか、医療法人の理事も務める。

菅沼氏の著書:
年収1000万円の人が、5年で現金3000万円をつくる方法

菅沼 勇基