現状で、2019年10月には消費税が「10%」に引き上げられる予定になっています。消費税は今から30年ほど前の1989年4月に税率3%で導入されましたが、現在に至るまで、さまざまな問題点を抱え続けたままです。現在の日本の税金をめぐるさまざまな矛盾に切り込んだ書籍『税金格差』の著者であるジャーナリストの梶原一義氏が、消費税の「3つの問題点」を解説します。

世界でも稀な「ずさんな仕組み」

 日本の消費税に相当する「付加価値税」は世界各国で導入されているが、それらの制度には「インボイス(税額票)」と呼ばれる書類は不可欠である。しかし、日本では導入時に、「事務負担が増える上に、インボイスによって取引が透明化され、税務署に所得を捕捉される」ということに商工業者らが激しく抵抗したため、インボイスの採用は見送られた。

 それだけでなく、売上高が一定額以下なら、顧客から預かった消費税の納税を免れる「事業者免税点制度」や、実際の仕入率より高い「みなし仕入率」の適用で、いわゆる「益税」が生まれる簡易課税制度など、中小企業に有利な制度も創設された。「益税」とは、消費者が支払った消費税が国や自治体に納められることなく、事業者たちの手元に合法的に残ること。消費税が抱える問題点を知るためのキーワードの一つである。

 免税事業者や簡易課税制度適用事業者などによる益税は、年間約5000億円にものぼると推計される。冒頭に述べたように、付加価値税は多くの国で導入されているが、ここまで仕組みがずさんなのは日本の消費税だけだ。

 ここでは、

・問題1 インボイス導入の見送りによる問題
・問題2 事業者免税点制度の問題
・問題3 簡易課税制度の問題

の3つに絞って「消費税の病巣」を探っていく。

[問題1]本来は不可欠な書類がない――インボイス導入の見送り

 消費税は、税の負担者と納税義務者が異なる「間接税」であり、事業者の納付税額を計算する式は「課税売上高×消費税率(現在8%)-仕入税額」となる。

 たとえば、ある小売事業者が製造事業者から5400円(うち400円は消費税)で商品を仕入れ、消費者に1万800円(うち800円は消費税)で販売した場合、消費者が負担した消費税は800円。製造事業者は小売事業者から預かった消費税400円を納税し、小売事業者は消費者から預かった消費税800円から製造事業者に支払った消費税400円を差し引いた400円を納税する。消費者が負担した消費税800円と、製造事業者および小売事業者が納税した計800円の消費税は額が一致する。

 このように、消費税は製造・流通に関わる各事業者間で伝達され、最終的に消費者が負担する仕組みになっている。小売事業者は、商品の販売時(サービス提供時)に顧客から預かった消費税から、仕入時に支払った消費税を控除(仕入税額控除)した額を納税する。この「仕入税額控除」は、消費税の納付に関して最も大切な手続きだと言えるが、これを正確に行うため、本来なら欠かせないのが「インボイス」なのである。

 たとえば欧州などの付加価値税で採用されているインボイスでは、(1)インボイス作成者の氏名・名称、(2)課税事業者としての登録番号、(3)取引先の氏名・名称、(4)取引年月日、(5)取引内容(商品の種類・数量)、(6)取引金額、(7)税率、(8)税額が記載される。商品を売った側・買った側の両者間で取り交わされるため、仮に片方の事業者が金額や数量を虚偽記載していればすぐわかる。(完璧とまでは言えないまでも)事業者間での税額伝達は正確で、ごまかしようがないのだ。

▼OECD加盟国で、インボイス不採用は日本だけ

 ところが日本では、欧州型インボイス方式の導入は断念され、代わりに「帳簿等保存方式」と呼ばれる方法が導入された。この帳簿への記載項目は、(1)仕入先の氏名・名称、(2)取引年月日、(3)仕入の内容(商品の種類・数量)、(4)仕入で支払った額などだ。これらによって仕入にかかる消費税額を把握し、納付税額を算出する仕組みになっているが、記入漏れや計算違い、虚偽記載もあり得る上に第三者のチェックがないから信憑性が乏しい。

 この方式への批判が高まったため、1997年度から「請求書等保存方式」に改められた。これは帳簿等保存方式に加え、取引の相手方が発行した請求書等(納品書や領収書なども)の保存を仕入税額控除の要件とするものだ。しかしこの方式は、売り手に請求書等の交付・保存義務がなく、不正交付や虚偽記載への罰則さえないなど極めてゆるい仕組みのため、帳簿等保存方式と同様に信憑性が著しく低い。この場合、たとえば買い手が仕入先に圧力をかけて、仕入金額や数量・仕入日などで虚偽の記入を強要することもそれほどリスクなく可能だ。

 つまり消費税は、仕入税額控除の事務処理がずさんで、税制として不完全ということなのである。ちなみにOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国のうち、付加価値税を導入しているのは33カ国だが、インボイス方式を導入していないのは日本だけだ。

 続いて2つ目の問題を見てみよう。