2023年6月3日にログミーFinance主催で行われた、第56回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナーの第1部・株式会社ヴィスの講演の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:株式会社ヴィス 代表取締役社長 金谷智浩 氏
元・ファンドマネージャー/元・ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏
経済アナリスト/経営コンサルタント 増井麻里子 氏
目次
金谷智浩氏(以下、金谷):本日はまず、会社の概要から当社の強みについてお伝えし、その後、先月発表した2023年3月期の決算と、今期の業績予想、中長期のビジョンと成長戦略についてお話ししたいと思います。よろしくお願いします。
会社概要
金谷:当社は、会長の中村と社長の私の2人代表制になっています。創業は1998年4月で、19年前にデザイナーズオフィス事業を始めたところから私も参加し、そこから二人三脚で会社を作ってきました。
役員紹介
金谷:役員構成です。会長と私以外に、クリエイティブ関連の責任者である専務の大滝、そしてコーポレート関連の責任者である常務の矢原がいます。
ここで簡単に自己紹介します。昨年度、当時常務だった私が社長に就任しました。これはヴィスのリブランディングの一環で、時代の変化とともに会社を変革していこうという人事だったためです。
もともと新卒で入社したのが、広告代理業をしながら新卒採用のメディアを持つ会社でした。そちらで6年ほど勤め、2社目として東京のオフィスを立ち上げるタイミングでヴィスにジョインしました。
当時は雑居ビルの小さな部屋からスタートしています。もともとのキャリアで広告や採用を行っていたため、ヴィスの中で採用のコンテンツや、Web関連、営業ツールなどを作りながら、事業の拡大に寄与してきました。
事業の始まり
金谷:事業開始のストーリーをお話しします。スライド左側の「BEFORE」にあるとおり、一見、町工場のような会社をきれいにしたいというご依頼をいただいたところから、このデザイナーズオフィスという考え方がスタートしました。
当社はもともと商業空間のデザインをしていた会社ですので、モノを作る、また、きれいにすることは、仕事としては難なくできます。しかし、お店ではなく会社をきれいにすることによって、そこではたらいている方々の表情や行動が変わり、その結果、会社の成長につながることを発見し、19年前に事業をスタートしています。
フィロソフィー
金谷:「はたらく人々を幸せに。」というパーパスを掲げていますが、社員はみな、この言葉に共感して入社してくれています。
具体的には、「ワークデザイン」という言葉を掲げながら、はたらく空間だけではなく、人々がはたらく上での必要なコミュニケーションや、どのようなはたらきやすさがあるかなどの仕組みをいろいろと提案します。それによって会社のブランドだけではなく、一人ひとりがはたらく中で自己実現を達成できるようなビジネスを展開することを目指しています。
ビジネスモデル
金谷:コロナ禍の影響もあり、オフィスはかなり多様化しています。1ヶ所に集まって仕事をする時代から、はたらく人たち一人ひとりの価値観、ライフイベントなど、状況によってはたらき方を選択できる時代へ進んでいると思います。当社としても、時代に合わせた「ワークデザイン」という考え方を提案しています。
ビジネスモデル
金谷:スライドに記載したのは、「ワークデザイン」のフローです。まず大きくブランディング事業、データソリューション事業、プレイスソリューション事業があり、この大きな柱を支えるのが、「ワークデザイン」になっています。
当初は、スライド左下あたりに「デザイン」と書いてある部分、いわゆるオフィスデザインを設計・施工し、ワンストップでオフィス構築をソリューションする事業がメインでした。そこに「プログラミング」の要素を加え、調査やサーベイによってしっかりとお客さまのリサーチをすることで、コンサルティングの上流の部分から携わるようになりました。
そして、実際にデザインしたものを「クリエイト」し、工事が終われば終了としていたのが今までのオフィスデザイン事業でした。ただし、オフィスデザインにはコストがかかり、かなり大きな投資になりますので、「アップデート」アップデートという機能も設けました。作っておしまいではなく、作ってからがスタートということで、変わりゆく社員の行動やマインドに伴走できるような会社を目指して、この事業を拡大しています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):質問を挟み込みながら進めていきたいと思います。先ほど、御社の中心事業である「ワークデザイン」についてお話しいただきました。このビジネスモデルについて、オフィスデザインと異なる点をもう少し教えてください。
金谷:お客さまが「オフィスを移転したい」と思った時、まずは不動産のビルを探します。テナントを探す際に、従来であれば不動産仲介業者が現状のはたらき方や、はたらいているスペース、家賃などを見ながら、「次は倍にしますか? 3倍にしますか?」などと質問しつつ、成長の戦略に基づいて選んでいきます。その段階から当社が入るということです。
坂本:最初から「こんな感じにしたい」というイメージを巻き取って、スペースや形など、たくさんのビルがある中で、そのあたりの使い勝手なども含めて相談するかたちですよね。
金谷:そうですね。そのため、従来は「不動産仲介業者が決めたテナント価格に合わせて、デザインを提案してくれ」というオーダーが多かったのですが、上流の部分から携わることによって、よりお客さまに最適なオフィスのご提案ができます。
例えば、「オフィスを倍にしたい」という計画があるとします。はたらき方が多様化している中で、テレワークも普及していますし、実際のオフィスの稼働率はどれくらいなのかといったことも調査します。
Wi-Fiのアクセスデータを取ってみると、7割くらい稼働していると認識していたものが、実際は4割だとわかることもあり、「それなら倍ではなく1.5倍くらいでよいのでは」と提案することができます。そして、「1.5倍に抑えた分の残りは違うものに投資しましょう」という話までします。
坂本:それは深いというか、お客さまのためになっているし、御社の実力が発揮できる基本になっているところなのですね。
また、御社はオフィス設計や施工なども行っている会社で、今はどちらかと言うと従来のオフィス選びの流れを汲んでいるというお話でした。同業他社との違いや、独自性、強みがあれば教えてください。
金谷:まずデザイン性が高いことが挙げられます。当社はもともと商業デザインを行っていたため、商業デザイン出身のデザイナーを中心に集めています。
また、会社を作るということは、デザインだけではなく、いわゆるカルチャーを作ることです。過去の歴史や、その会社が目指している方向性、「らしさ」などを総合的に組み込みながら、ディレクターがきちんとしたシナリオ作り、ストーリー作りをしていきます。そのため、出しているプランに対しての納得性が高く、お客さまに寄り添った視点の置き方もご評価いただいています。
さらに、「プログラミング」「アップデート」の部分で、「WORK DESIGN PLATFORM」という自社独自のツールを開発しました。こちらは、社員のワークデザインスコアを数値化して、定点的に見ていけるツールです。デザインとモノ作りだけではなく、「はたらく」ということそのものを総合的にソリューションしている部分が当社の特徴かと思います。
ビジネスモデル
金谷:大きく3つの事業セグメントがあります。従来行っているブランディング事業では、オフィスの設計・施工をワンストップで行っており、上流のデザインから引っ越しのコーディネートまで請け負っています。加えて、いろいろなロゴ、グラフィック、Webデザインなどの総合的な企業ブランディングが主軸となっています。
データソリューション事業は、今年リリースした「WORK DESIGN PLATFORM」を軸に事業を作っていっているところで、「はたらく」の最適な状態を可視化するものです。
「ココエル」は組織改善サーベイです。はたらく人々のメンタル、フィジカル、エンゲージメントの3本柱を数値化するもので、非常に喜んで受け入れていただいています。はたらく上でストレスを感じたり、うつ病になってしまったりした方々にアプローチするために持っているツールであり、こちらはサブスクリプション型のサービスとなっています。
プレイスソリューション事業は、不動産のバリューアップ事業です。いわゆるリーシングをするのに、「特徴を持ちたい」というオーナーさまがいらっしゃいますので、デザインでのバリューアップ、貸方のコンバージョンなどのご提案をしています。
実は当社も「THE PLACE」という、コワーキングシェアオフィス併設のフレキシブルオフィスを運営しています。自社でもいろいろとトライアル&エラーを行いながら、一般的なディベロッパーにも提供できるような事業として位置づけています。
特徴と強み
金谷:特徴と強みについてです。当社は、クレド、つまり企業理念や行動指針によって、理念経営を協力に推進しています。その基盤となる人材育成が特徴です。こちらは、お客さまへのクライアントワークという強みにもつながる部分です。
また、クライアント層には成長力の高い企業がいるため、そのような会社への営業活動も特徴的です。デザイン力に対する評価は先ほどお伝えしたとおりです。
01 経営の基盤となる人材育成
特に人材育成の部分で特徴的な部分としては、日本でこんなことをしている会社はないのではないかと思いますが、新卒1年目の社員に対して、会長、私、専務が日替わりで、毎日30分の「壁打ち」を行っています。
同じようなミーティングを、キャリア採用で入社した方に対しても入社後3ヶ月間行っています。さらに、新卒2年目の社員に対しても、週1回の「壁打ち」を私が担当しています。若手社員にこれだけ時間を使っている経営者はいないのではないかと自負しています。
坂本:そう思います。本当にかなりの回数の対話を行っていると思いますが、「壁打ち」ではどんな話をしているのでしょうか? 結論の出る話やテーマをもとに、新入社員と一緒に考えるのか、それとも社長を含めて役員の知見や、クレドなどの経営の方向性も含めて伝えているのでしょうか? 伝えるだけではなかなか苦痛だと思いますが、どのようなことを重視して話しているのかを、もう少し深く教えていただきたいです。
金谷:具体的には、経営層に聞きたいことを毎日聞いています。
坂本:どちらかというと、「聞いてくれ」という話なのですね。
金谷:「質問してきなさい」ということです。もちろん会社のこともありますが、新卒1年目の社員は、社会人になったばかりでペースが乱れるし、自信がなくなり、いっぱいいっぱいになってしまいます。そのようなことへの対処の仕方、タスク管理の方法など、実務的な部分も含めて、彼ら・彼女たちがその時に知りたいことを、経営者レベルでフィードバックしています。それによって、若手の時からかなり高いビジネスのマインドやリテラシーが身につくと思います。
坂本:確かに、この仕事は営業に出れば若いうちに経営者と接することがけっこうありますよね。そのような事情も含めて行っているのですか?
金谷:そのとおりです。
坂本:役員との対話以外に、課長・部長との定期的なミーティングもあるのですか?
金谷:定期的な取り組みとしてはありませんが、1 on 1という仕組み自体は社内にあり、新人と課長、当社ではマネージャーと呼ばれるメンバーが月に1回、1 on 1をするというものです。
坂本:時間として決められているものとしては、役員とのミーティングが圧倒的に長いということですね。役員1人に対して、新卒社員は何人でミーティングしているのですか?
金谷:今年は新卒が16名入社したため、1対16で行っています。ただし、人数が多いとどうしても時間が足りなくなってきますので、運用としては、半数には質問してきてもらい、半数には昨日あったことをビジネス上のきれいな言葉でプレゼンする「私ドラマ」というコンテンツを課して、半々の割合で行っています。
坂本:確かに、新卒の時はプレゼンに困りますから、意外と練習になりそうですね。
金谷:とにかく数をこなすことによって熟練していくと考えています。
01 経営の基盤となる人材育成
金谷:人材育成を下支えするさまざまな研修があります。当社はデザイン会社のため、「クリエイティブアカデミー」など、マインドの部分以外にも、技術的に「コンセプトはどう立てるの?」「お客さまの知識収集はどうするの?」といった課題解決に伴う研修も用意しています。また、研修は幹部だけになりがちですが、当社ではすべての階層ごとに用意しています。
01 経営の基盤となる人材育成
金谷:当社はデザインして、モノ作りをする会社ですので、人員と売上高が比例していく業態となっています。
2021年3月期はコロナ禍の真っ只中で、年間売上高が前年から落ち込み、約80億円と苦しい時期でした。ただし、新型コロナウイルスは一時的なものであり、中長期的な成長には人員の増加が必要だったため、スライドの折れ線グラフのように人員投資を継続して行ってきました。
1人あたりの売上高は、およそ4,800万円から5,000万円の間を推移しています。2023年3月期の売上高は約132億円で、239名の社員で割ると、1人あたりの売上高は約5,500万円となりました。大型の受注があり、一時的に売上が上がったこともありましたが、人員と売上高の計画は比例しているとご理解ください。
02 拡大する顧客基盤
金谷:先ほど、クライアントには成長企業が多いとお伝えしましたが、2019年から2022年の4年間で、IPO企業384社のうち94社が当社のクライアントです。実に4分の1が当社でオフィスをデザインしていることになり、デザイン会社が数多くある中で、こちらのシェアは相当高いものだと考えています。
坂本:なぜ、新規IPOした企業がクライアントに多いのか教えてください。よくIR企業や有志によるIPO企業の経営層の集まりをFacebookなどで目にすることがあります。そこで社長自身がトップセールスを行うこともあるのでしょうか?
新規IPO企業は新しいマインドを持っているため、ファイナルで資本調達を行うことによってまとまったお金が入ってきます。それを広告に投資して最終的に成長する会社もあると思います。
あるいは、これまでは成長に向けた投資しかできなかった会社が、社内の環境整備を進める段階になって、「ワークデザイン」の需要が出てくるといった流れがあるのでしょうか?
金谷:トップ営業だとすれば、私は非常にすばらしい営業マンだと思います。
坂本:おっしゃるとおりですね。
金谷:もちろんそのような活動も行っていますが、全体的には、このビジネスモデルと成長を望む企業のニーズが非常にマッチしていると感じています。成長志向の企業は、自社の価値観に合致する人材を採用していかなければなりません。当社はカルチャーを落とし込んだデザインやストーリーに非常に関心が高いため、このような提案を行っている当社が受注する確率も高いと考えています。
そのニーズをどのように獲得しているかと言いますと、ABM(Account-Based Marketing)という手法があります。当社のクライアントになり得る企業には、「平均成長率120パーセント」「採用数が昨年対比で150パーセント」といった、成長企業のキーワードが存在します。これらのキーワードの中から、AIがクライアントを選別し、効果的にアプローチするなど、さまざまなパターンがあります。
また、成長企業にとって関心の高いキーワードを抜き出した「ホワイトペーパー」というノウハウ資料を作成しています。資料をダウンロードしたくなる導線を設け、インサイドセールスでフォローすることで、案件化につなげています。実際に、数億円規模の大手企業のプロジェクトがホームページからの問い合わせで生まれるケースが年々増えています。
坂本:すごいですね。
金谷:これまでトップ営業も行ってきましたが、今はマーケティングの力を伸ばしているところです。
02 拡大する顧客基盤
金谷:その結果、上場していく企業が多い中で、プライムでしっかりと業績を伸ばして拡大している企業も増えています。もともとは「ベンチャー企業に強いヴィス」というイメージでしたが、最近では、売上構成比率がエンタープライズとベンチャーで半々になってきているように感じます。
03 デザイン力の評価
金谷:デザイン力に関しては、年1回、日本経済新聞が開催する「日経ニューオフィス賞」というアワードに毎年何社かの事例をエントリーして、受賞している状況です。そのため、外部からの評価も高いと考えています。
増井:御社はデザイン力が高く、商業デザイン出身者が活躍しているとのことですが、実際に自社で設計を行っているのでしょうか? また、設計に関わる人員数についても教えてください。
金谷:現在当社では、デザイナーを自社で抱えて設計業務を行っています。やはり「メイド・バイ・ヴィス」というブランドだと考えているため、基本的にはパースなども含めて外注はしていません。
集客は当社が担当し、設計作業は外部のデザイナーが担当するというアプローチも考えられますが、私たちはお客さまにしっかりと寄り添い、クライアントワークができるよう、デザイナーにも理念の教育を含めた教育を行っています。そのため、設計業務は内製化しており、デザイナーは全国に60名ほどいます。
増井:案件ごとに、何名ずつ担当しているのですか?
金谷:案件の規模によりますが、基本的には1名のデザイナーがアサインされます。中規模の案件では2名、大規模な案件では4名など、状況に応じてアサインしています。
2023年3月期 連結業績 サマリー
金谷:2023年3月期の連結業績です。過去最高の売上高と営業利益を記録しました。売上高は、前年同期比123.2パーセントの132億1,900万円となりました。それを大きく下支えしたのは大規模案件の増加です。18件で42億3,500万円と、非常に支えられたと感じています。
2023年3月期 連結業績
金谷:各パラメーターにおいて、前年同期比120パーセントを超える決算を迎えることができました。当社としても、社員一同がんばってくれたと感じています。
売上高推移(通期)
金谷:スライドのオレンジ色のグラフをご覧ください。当初予想は約117億5,000万円でしたが、過去最高を上回ったため、132億1,900万円に上方修正しました。まず、みなさまには当初予想のラインを記憶に留めてもらいたいと思います。
営業利益推移(通期)
金谷:営業利益も同様に推移し、上方修正しています。
受注高推移(受注規模別)
金谷:受注高は、スライドのグラフのように推移しています。濃いオレンジ色の部分が大規模案件で、先ほどお伝えしたとおり42億3,500万円と非常に伸びています。
一方で、グレーの部分は一定予算以下の案件です。こちらの案件数を増やさないことが人員のリソース確保につながるため、案件のコントロールも慎重に行っています。
2024年3月期 連結業績予想
金谷:今期の業績予想です。売上高は前年同期比101.8パーセントの134億5,300万円、売上総利益は前年同期比108パーセントを見込んでいます。付加価値を高めながらお客さまにサービスを提供していく方針で、伸ばしていきたいと考えています。また、営業利益率10パーセントを確保すべく取り組んでいる状況です。
2024年3月期 連結業績予想
金谷:「102パーセントの成長か」と言う方もいますが、先ほどお伝えした前期の大型案件による特需が、当社の中で非常にインパクトがありました。具体的には、1案件で10億円を超える売上がありました。
こちらの案件は、もちろんうれしいものです。しかし前年同期比で考えた時に、10億円以上の案件が毎年1件以上確実に受注できるのか、またはそのような案件自体が発生するのかというと、そうではありません。
こちらは異常値ですので特需ボーナスと考えて、該当案件の売上を132億1,900万円から差し引いたものを、実質の成長売上として把握しました。そこに約110パーセントを掛け合わせた金額が134億5,300万円だとご理解ください。
坂本:それが成長が鈍化しているように見える理由なのですね。逆に、10億円ほどの案件とはどのようなものですか? フロアの広さなど、イメージを聞けば「このような案件はなかなかないな」「またありそうだな」と視聴者もイメージが湧くと思います。
金谷:具体的には話せませんが、よろしいでしょうか?
坂本:もちろん、話せる範囲でけっこうです。
金谷:規模はおよそ3,500坪です。
坂本:相当大きいですね。
金谷:大きいと思います。とある大型のビルの4フロアに該当します。この案件には、約15名のメンバーが携わりました。スケジュールも非常にタイトでしたが、なんとか収まったと思います。このような大型案件の実績を1件でも多く積み上げることで、次の大型案件が舞い込んでくる流れが生まれていますので、取り組んでよかったと思います。
102パーセントの成長率についてです。我々のビジネスモデルはショット型ですが、リピートのお客さまからの売上構成比率が5割ほどで、この比率を過去10年にわたりキープしています。これはストックではありませんが、今期も同様の数字を予定していますので、投資家のみなさまにはこちらを前提に考えていただければと思います。
坂本:ショット型ビジネスのリピートで考えられることとしては、例えば「本社の案件を担当したから、支店も同じようにやりましょう」「一部を担当した案件で、その他の部分もやりましょう」「移転するからやりましょう」などですよね。このようなイメージで合っていますか?
金谷:いくつかの要素があり、もちろん成長に伴って支店を設立するケースもあります。しかし、住宅とは異なり、成長企業は2年から4年ごとにオフィスを移転するのが一般的です。これまでの件数から見て、まとまった買い替え需要があると、毎年5割ほどになるということです。
外部環境
金谷:中期の成長戦略についてです。まず市場の背景として、労働人口が減少しているため、採用を強化したい企業が増えています。
スライド右側のグラフは来年度の新卒採用の需要です。コロナ禍で一時的に採用を控えた分、コロナ禍前と比較して、「採用を増加する」と答えた企業が増えています。労働人口は減っているため、一社一社が企業のブランド価値を向上させ、より選ばれる会社を構築することが課題となっています。
外部環境
金谷:そのような中で、当社のお客さまにアンケートを実施しました。その結果、オフィスでの働き方やデザインを見直した一番の理由が、「社員の満足度を上げたい」ということでした。こちらは最近謳われている「人的資本経営」にもつながりますが、一人ひとりの「働きがい」や「働きやすさ」、エンゲージメントを向上させていく社会背景があります。
当社のお客さまも、コスト投資して、「オフィス面積を拡大した」「面積は変わらないがレイアウトを変更してアップデートした」というケースが8割を超えています。これは約3年前の状況と比較すると、市場がかなり回復していることを示しています。
外部環境
金谷:また、2023年から向こう3年間で、大型ビルの供給量は平均22万坪となる予定です。過去2年間の供給量は平均12.8万坪ですから、かなり多く供給されることになります。
新築ビルが供給されると、そこに大手企業がどんどん入居します。それによって空室となった既存のビルに大手企業に準ずる会社が入るため、玉突きの流動化が起こり、我々のビジネスチャンスが増えるという仕組みになっています。
長期ビジョン
金谷:その結果、7ヶ年の計画として、2030年には売上高を250億円、営業利益を25億円に引き上げるため、平均成長率9パーセント強で進めていき、この数字を達成していきたいと思っています。
成長戦略 重点項目
金谷:それを支えるための事業戦略が大きく分けて3つあります。ブランディング事業の強化、プレイスソリューション事業の拡大、データソリューション事業の拡大です。そのほか、人的資本の考え方についてもご説明します。
ブランディング事業の強化 01
金谷:先ほども少しお話ししましたが、プロジェクトの件数を増やすのではなく単価を上げていきます。お客さまの成長に伴う単価向上と、より大型の案件を獲得することで単価を上げる戦略です。加えて、「WORK DESIGN PLATFORM」やSFA(Sales Force Automation)ツールなどを使いながら受注率を向上させていきます。
現在はコンペになる場合が多いのですが、その勝率が、昨年はおよそ50パーセント強でした。当社を指名してくださるお客さまもいますから、全案件の受注率は70パーセントを超えており、10件中7件は当社で案件を獲得しています。
受注率はわりと高いとは思っていますが、個人的には80パーセントを目標にして、今、会社作りをしています。それによって受注高が上がり、そこに携わる人員数を最適化することで、より利益率の向上につなげたいと考えています。
プレイスソリューション事業の拡大 04 The Placeの展開
金谷:これらを支えるため、「The Place」を活用しながら営業展開していきたいと思っています。スライドの写真は、5月にオープンした「The Place Shibuya」の事例です。当社としては3拠点目となります。フレキシブルオフィスとして、お客さまにもショールーム的に使っていただきながら、営業にも活用できるのではないかと感じています。
坂本:シェアオフィスとして貸し出しつつ、例えば営業の方が「ちょっと見てみたい」と言ったら、この場所を「うちが作ったので見てください」と連れて来ることができるという話ですね。非常におしゃれですね。
金谷:当社がご提案した会社でも、はたらき方が多様化していますから、「The Place」を一時的にでも使っていただくなどの展開にもつながるかと思います。
坂本:オフィスを工事しているときや、フロアが使えないときなどがわかりやすいですが、そのような使い方もあるということですね。
プレイスソリューション事業の拡大 05 バリューアップ
金谷:そのほか、デベロッパーのバリューアップとして、不動産屋とタイアップしながら、今までのビルとは異なる、貸方のコンバージョンを行っている事例もあります。
坂本:内装も手掛けているのですね。
データソリューション事業の拡大 06
金谷:「WORK DESIGN PLATFORM」を展開することで、数値に基づくデータを把握・活用し、お客さまに価値を提供していきます。ツールを使いながら定点で伴走することで、「次のオフィスもまたヴィスで」と指名していただける、コンペがない世界を実現したいと考えています。
データソリューション事業の拡大 06
金谷:「WORK DESIGN PLATFORM」では、ワークプレイスの稼働率や空間分析などの定量データを取っています。お客さまによって、例えばエンジニアが多い会社は集中型、プロジェクト横断型の会社はコミュニケーション型というようにはたらき方が異なります。それぞれのはたらき方によって、面積の割合などをシミュレーションできるため、最適なオフィスの提案ができます。
坂本:非常におもしろいですね。
金谷:先日、展示会で発表しましたが、かなり多くの会社から引き合いをいただいています。
坂本:そうなりますよね。結局、担当者が「オフィスをこのように活用します」と言うと、費用対効果についての話は絶対求められますよね。これがあれば、「こんな感じですよ」「すばらしい」となると思いますが、こちらはオプションなのでしょうか? もしくは施工後何年無料、あるいはサブスクリプション形式なのか、収益の上げ方を教えてください。
金谷:収益の上げ方には2つあります。1つは「FOR NEW OFFICE」というショット型で、新しくプロジェクトが入る時におよそ3ヶ月間の定点観測を行い、データを把握します。
そこから継続したいという場合は、年契約のサブスクリプションに切り替えることができます。こちらでは、新しいオフィスの一時的なデータを当社が伴走しながら活用していきます。
成長戦略 人的資本経営の推進
金谷:データソリューション事業・プレイスソリューション事業を拡大していくため、採用の戦略も少し変えていこうと考えています。とはいえ、ブランディング事業を強化していく意味では、デザイナーの採用に力を入れていきたいと思っています。
バックオフィス、いわゆるコーポレート部門に関しては、さまざまなDXツールを使うため、それほど人員強化はしない方針です。まずはデザイナーを確保し、売り上げの伸び率によって調整しながらデータソリューション事業の人員も強化できるよう、採用していきたいと考えています。
成長戦略 人的資本経営の推進
金谷:人的資本に対する当社の特徴として育休の取得が挙げられます。女性はもちろん100パーセントですが、男性の取得率も増加しており、昨年度は25パーセントと、日本の平均を超えています。また、離職率を下げていく戦略もあります。
財務目標(2024年3月期〜2026年3月期)
中期の最終的な目標としては、売上高約162億円、営業利益16億円弱と、営業利益率10パーセントを担保しながら、従業員は330名という規模で成長させていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。
増井:それでは、事前のご質問と会場のご質問を見ていきたいと思います。
質疑応答:営業方法について
坂本:「ワークプレイスのデザインを検討している企業は、ベンチャーや外資系などが多いという印象です。営業方法として、ホームページから直接問い合わせが来るという話もありましたし、展示会などを行っていると思いますが、市場の開拓方法をもう少し教えてください」という質問です。
金谷:先ほどお伝えしたとおり、年々マーケティングを強化しています。具体的には、Webマーケティングによって検索順位を上位に上げたり、広告を出したりしています。そのほか、「ホワイトペーパー」が集客の大きなツールになっていますが、これらからの流入がおよそ3割から4割あります。
それ以外に、例えば展示会などでお会いした方々をインサイドセールスチームで温めるような営業活動も地道に行っています。当社のビジネスはタイミングビジネスのため、会社ごとにどのような営業をかけていくかのシナリオを立てています。
また、オフィスデザインだけではなく、「WORK DESIGN PLATFORM」や「ココエル」など、お客さまのさまざまな課題に合わせたサービスを用意しており、その時々で営業方法を変えていけるのも当社の強みです。このように営業にもしっかり力を入れています。
加えて、アカウントセールスも行っています。なかなかマーケティングにのってこないエンタープライズの会社などをリストから抽出し、紹介営業を行ったり、交流会を開催して集客したりと、いろいろな方法で案件化しています。
質疑応答:営業人員の割合について
坂本:「デザイナーの採用は当然重要だとは思いますが、営業の人員はどのくらいの割合いるのでしょうか?」というご質問です。
金谷:現在、東名阪で120名ほど在籍しており、そのうち純粋な営業人員は30名ほどです。残りはプロジェクトマネージャーで、お客さまの窓口になり、パートナーとして寄り添って、オフィス移転にガッツリ関わる仕事がメインの人員です。
坂本:営業が全部担当するのかと思いましたが、純粋な営業とは別の人員がいるのですね。オフィス移転にはかなり時間がかかると思うのですが、お客さまの要望を巻き取って、形にするつなぎ役のような方が多数を占めるのですね。
金谷:そこの仕事の質が次の仕事を生みます。当社の高いリピート率は、そのようなメンバーががんばっている結果だと思います。
坂本:案件の大小はあると思うのですが、プロジェクトマネージャー1人あたり1社を担当するのですか? それとも、複数社を担当されるのでしょうか?
金谷:同時に4件から5件ほど担当しています。売れっ子だと7件から8件ほど抱えていますが、そこはきちんとサポートメンバーをつけたり、会社でサポートしたりしながら進めています。
質疑応答:長期的な市場展望について
坂本:「オフィスデザインの需要について、御社の売上を見れば伸びているのは当然わかりますが、長期で安定して期待できるものはあるのでしょうか?」というご質問です。市場の展望も含めて教えてください。
金谷:今、はたらき方がパラダイムシフトしているというのはお伝えしたとおりです。向こう5年から10年くらいは、いろいろな会社で新しいはたらき方の模索が続くと思います。先ほどの質問に「ワークデザインのニーズがベンチャーや外資系に多い」というお話がありましたが、実は今、そうではありません。
いわゆるエンタープライズといわれる会社が、コロナ禍をテレワークでなんとかしのいできた結果、今、固定費としてかかっているオフィス面積をどうするのかという課題を抱えています。あるいは、コロナ禍が落ち着いたことによって未来思考になって、今後どう改善していこうかと思案する会社が多い状況です。
また、新しい次の時代を作るための大手企業の成長戦略の中で、オフィスの存在が非常に注目されています。そのような意味では、向こう10年くらいはニーズとしては高まってくると感じています。
質疑応答:役員との対話について
坂本:「役員との対話について、社員からは好評なのでしょうか?」というご質問です。
金谷:好評だと思いたいのですが。
坂本:2年目以降の方からの「役立ったよ」というエピソードなどでもけっこうですよ。
金谷:ちょうど昨日、対話した新入社員から「正直、毎日質問を考えるのは重たいのですがどうしたらよいですか?」という等身大の意見がありました。
質問するためには、さまざまな情報やアイデアを自分で入れなくてはいけないので、「自分の持っている目線から広げなくてはいけないよ」「気付きのアンテナ力を高めないといけないよ」といったフィードバックをしています。それによって気付きを得て、「1日15分でも質問のためのネタを探す時間にしよう」と考えることで成長すると思います。
自宅に帰ってから、対話した内容を親御さんに話している社員もいるそうです。「毎日社長と対話しているんだ」と話すと、親御さんは「すごい会社だね、そんな会社はないよ」と言ってくれるようで、子どものほうも「そうなんだ」と理解し、そこで人としても成長していくのではないかと思います。
坂本:それはあると思います。気軽に「風通し」とよく言いますが、ほぼ毎日顔を合わせるとなると、そのレベルではない対応だと思います。今日のIRセミナーを見て、「社長どうでした?」と聞いてくれる社員さんがいたらおもしろいですね。
金谷:きちんと見てくれている子がいたらよいですよね。
質疑応答:サブスクリプションビジネスについて
坂本:先ほど『WORK DESIGN PLATFORM』のサブスクリプションビジネスに注力するというお話がありましたが、成長に関わるイメージをもう少し教えてください。
金谷:中期の目標の中に、実は先ほどのデータソリューション事業をほとんど盛り込みませんでした。これは今年リリースしたということと、営業活動が始まったばかりというのが理由です。今はクロージングの期間ではありますが、サービスをリリースしたところなので、いきなりマネタイズするのは難しいと考えました。
お客さまにご意見をいただきながら製品を作っていきたいと考えているため、今期は多くのデータを収集する期間だと思っています。来期以降は、実際の手応えに基づいた数字の計画を立て、この成長率でいけるかどうかを見直していきたいと思っています。
そのため、中期目標で出した数字には盛り込んでいません。投資家のみなさまには、未知数のボーナスだとお考えいただけたらうれしいです。
質疑応答:「The Place」の展開について
坂本:中期経営計画で「The Place」の展開についてお話がありましたが、どのくらいの規模をイメージしていますか? もちろん、件数や案件の大小にもよって売上が変わってくると思いますが、どういう広げ方を考えているのでしょうか?
金谷:最低でも年間1拠点は増やしていきたいと思っています。「The Place」へ投資するためには、売上と利益をきちんと上げる必要があるため、本業の成長に伴って、年間1拠点くらい出店する計画です。
質疑応答:M&Aについて
坂本:M&Aのイメージがありましたら、教えてください。
金谷:今はまだ情報を収集している段階です。新しいことをするより、本業をもっともっと拡大していく必要があると感じています。そのためには人員の増加や、事業を回していくチームが必要になるため、同じようなデザイン会社や、設計・施工関係の会社を中心に情報を取得しています。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答していただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:オフィス市況と業績への影響について教えてください。
回答:新築オフィスビルの供給は首都圏のほか、大阪市内等でも堅調を見込み、延床面積増加が予測されています。(資料P31参照)
延床面積の増加は、新築オフィスビルへの企業の移転ならびに、それらの企業が退去した既存ビルへの他の企業の移転や開設などにつながり、市場全体の活性化が見込まれます。このような堅調な市況のなか、当社グループは付加価値のある提案に重点を置いたセールスおよびマーケティング活動を展開し、売上高に寄与していきます。
<質問2>
質問:人材教育について、力を入れているようですが、新卒が一人前になるまでどれくらいかかるのでしょうか?
回答:職種によりますが、最低3年から5年程度と考えています。総合職は入社時に、建築や内装等の知識、学歴を求めていないため、提案から契約までの流れ、建設業法等関連法案や社内業務フローの理解など一連の知識習得には上記の経験年数が目安となります。
<質問3>
質問:対応できない案件、あるいは難易度が高い施設はありますか?
回答:ビル一棟を建築するような案件は難易度が高くなりますが、その際は、外部の設計会社とタイアップして進行した実績があり、内装は当社が担当という風にして対応しています。今後、このような案件に対応ができる人材の確保と組織体制の強化を目指していきます。
<質問4>
質問:施工後のアフターフォローのサポートなども対応していますか?
回答:オフィスの移転・リニューアル等のプロジェクト完了後も、インサイドセールス部門にて、カスタマーサポート機能がありますので、定期的に連絡をする仕組みがあります。また、工事完了引渡し時より1年間の瑕疵の保証があります。
また「ワークデザインプラットフォーム」や「ココエル」のサービスを用い、移転後のワークプレイスや、そこではたらく人々のエンゲージメント等を定量的に計測することで、プロジェクトの効果を検証することも可能です。