富裕層の課税拡大の概要

2025年からの適用が検討されている富裕層の課税拡大政策とは、いったいどのような方針なのでしょうか。

制度の概要について解説します。

1億円の壁を是正する

「1億円の壁」とは、所得税の負担率が1億円を境にして低下する現象のことです。

内閣府によると、申告納税者(個人)の所得税負担率は、下記の図のように1億円をピークに低下しています。

出所:内閣府「第19回税制調査会 財務省説明資料(個人所得課税)」

給与所得や事業所得は、所得が高いほど税負担率が高くなる累進課税がとられています。

一方で、株式や投資信託などの金融資産によって得られる所得は、どれだけ高くても一律の税率(20.315%)となります。

1億円を境に税負担率が減少している要因としては、富裕層は株式や投資信託などの金融資産によって得られる所得の割合が高いからと考えられます。

給与所得や事業所得よりも低い税率である金融所得(20.315%)が増えるほど、税負担は軽くなります。

超富裕層に対するの課税強化

今回の改正で対象となるのは、年間の総所得が30億円を超える、超富裕層と呼ばれる人々です。

日本国内では約200〜300人が該当します。

課税強化の内容は、給与所得や事業所得に加えて、株式や投資信託・土地建物の譲渡所得などの所得も対象になります。

総所得から3.3億円を差し引いた分から22.5%の税率をかけ、その額が所得税額を上回った場合に差額を納税するという仕組みです。

総所得が50億円の人では、税負担が2〜3%程度増える見込みとなっています。

2021年9月に自民党総裁選で当選した岸田総理は、就任前からこの1億円の壁の打破を訴えており、2023年度の税制改正に盛り込み2025年からの適用を目指しています。

富裕層の株式市場離れが危惧される

富裕層の金融所得に対する課税の引き上げにより、「税金が増えるからこれ以上は投資しない」といった、富裕層の株式市場離れを引き起こす可能性があります。

株式市場への投資額が減少すると、株価の下落や経済成長の鈍化を引き起こす問題が懸念されます。

また、課税強化によって富裕層の税率の低い国への転出も危惧され、結果として税収の減少を招く可能性もあります。

動向には注目が集まります。