美しい島々が織りなす景観が楽しめる風光明媚な瀬戸内海。近年ではベネッセグループによりすばらしいアートスポットとなった直島を中心に、島々を巡る旅が人気です。そして、これらの島々を結ぶ移動手段について、ラグジュアリーな選択肢が一気に広がりそうな雰囲気です。

今秋、瀬戸内海に豪華クルーズ船が就航

「せとうちに浮かぶ、小さな宿」をコンセプトとした瀬戸内海豪華クルーズ船「guntû(ガンツウ)」が今秋デビューします。

仕掛けているのは常石(つねいし)グループ。同グループは広島県福山市に本拠を置き、豪華クルーズ船や水陸両用飛行機を瀬戸内海に本格展開しようとしている「せとうちホールディングス」を始め、「ベラビスタ」などの超高級リゾートホテルも傘下に収めています。

せとうちホールディングスという会社は聞き慣れない方が多いと思いますが、アメリカの飛行機メーカーをグループの傘下に収めているというすごい会社です。つまり、飛行機を販売しているだけではなく、製造しているのです。

この飛行機メーカーは、過酷な環境の中でも短距離での離着陸を可能とする水陸両用機の製造で知られています。この水陸両用機を瀬戸内海のラグジュアリートラベル向けに投入しようというのです。

そして今回の豪華クルーズ船の投入。超高級リゾートホテルという「点」と水陸両用機と豪華クルーズ船という「線」の構築で、常石グループが瀬戸内海で本物のラグジュアリーを提供したいと言う熱意が十分に伝わってきます。

豪華クルーズ船「guntû」の模型(写真提供」筆者、以下同)

JRが先鞭をつけた豪華な移動の楽しみ

この数年でJR各社は富裕層顧客のトラベルニーズに対応した超豪華列車の導入を進めています。JR東日本では、世界的な工業デザイナーである奥山清行氏デザインの「トランスイート四季島」を2017年5月1日より運行開始しました。

これに先駆けてクルーズビジネスをスタートしたJR九州の「ななつ星」が大きな話題を集めているのはご存知の通りです。また、JR西日本も2017年6月より「トワイライトエクスプレス瑞風」を投入します。このように鉄道での豪華クルーズは選択肢が充実してきました。

日本各地で本格的な滞在型高級リゾートホテルの建設が進んでおり、滞在先の選択肢が充実しつつあるのは誰もが認めるところです。あとは、豊かな導線の選択肢が広がれば、日本国内の旅はもっと素敵になるのでしょう。

日本でラグジュアリーな「移動型」リゾートの元祖として知られる飛鳥クルーズに加え、ここ最近のブームとなってるJR各社での超豪華列車の導入、さらにはせとうちホールディングスの内海クルーズ船や水陸両用飛行機の投入による近接地域間移動手段の拡充などを見ると、今後は国内のラグジュアリー導線がどう展開していくか注目を集めそうです。

「導線」の拡充で日本の観光はさらに魅力的に

たとえば、筆者が以前、アマンプロ(フィリピンの無人島を丸ごとリゾートにしてしまった場所)に行った際の導線はとてもワクワクするものでした。

マニラ空港に到着後、空港のターンテーブルまで運転手が出迎えてくださり、専用車でマニラ空港内のアマン専用ラウンジに移動、アマンプロ専用のプロペラ機に乗り換え、アマンプロの滑走路に着陸後の島内の移動はゴルフカート。マニラ空港空港を降りた時点で、非日常のリゾートが始まったというわけです。

海外の高級リゾートは、点としてのホテル設備だけではなく、リゾートまでの導線や周辺環境の整備も含め、線や面でリゾートでの非日常体験を提供することに長けているところが多い気がします。

確かに、「演出された」導線を移動するだけでは、その場所の他の姿を見る機会を失っている可能性も考えられます。ただ、それは選択肢の違いであって、どれが唯一の正しい見方ということではなく、異なる「舞台」が色々ある中の一つの選択肢ではないでしょうか。

常石グループの瀬戸内海での取り組みは、元から存在している美しい瀬戸内海を大きな舞台に、さらにラグジュアリーの要素を贅沢に取り込んだ、もう一つの新しい舞台を提供してくれるのでしょう。

日本には非常に美しい場所や親切な人々、歴史や風土、食事のクオリティなど、海外の人たちを魅了してやまないすばらしい特徴がたくさんあります。常石グループのような大規模な舞台装置を提供することは簡単なことではありませんが、点だけではなく線も意識した経験を提供できたら、日本の良さがもっともっと伝わるはずです。

東京・日比谷の帝国ホテル中二階に「ガンツウギャラリー」がある(詳細はこちらから

 

小田嶋 康博