2021年5月29日にログミーFinance主催で行われた、第20回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナー 第1部・エブレン株式会社の講演の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:エブレン株式会社 代表取締役社長 上村正人 氏
元ファンドマネージャー/元ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏

会社概要(2021年3月末現在)

上村正人氏(以下、上村):エブレン株式会社の概要を、ご説明したいと思います。エブレン株式会社は、1973年の設立で、東京都八王子市に本社とメイン工場を置いています。八王子市の他に、東京都荒川区、埼玉県入間市、大阪市東淀川区、また海外では、中国江蘇省蘇州市に「蘇州エブレン」という100パーセント子会社が1社あり、国内で4拠点と中国に1拠点を持つ会社です。

資本金は1億4,300万円で、売上は直近のもので32億円ほど、経常利益が約3億円です。従業員は、準社員等を含めて120名から130名くらいです。事業内容としては、産業用の電子機器、産業用のコンピュータの設計製造を行っています。

事業内容:産業用コンピュータの設計・製造

上村:当社の業務内容を、詳しく説明したいと思います。現在のメインの仕事内容としては、通信や電力、鉄道、医療といった「社会インフラ系設備」および、半導体製造装置や生産自動化機械などの「産業インフラ系設備」にコントローラーとして使用される産業用コンピュータの受託設計と受託生産が中心で、売上の80パーセント以上を占めるという特徴があります。

鉄道や電力、通信などの公共性の高い事業会社向けの設備の開発や調達は、みなさまご存知の日本を代表する超大手装置メーカーが主契約者となっており、私どものビジネスポジションは、その下に位置しているかたちです。

最初に、主契約者の装置メーカーは、設備やシステムの開発構想に基づいて、私どもに委託するコンピュータ製品の「要求仕様書」を作ります。私どもは、「このような機能で、このような仕様で設計してほしい」という内容の「要求仕様書」に基づいて、製品を設計し、試作品を作って装置メーカーへ送ります。

その試作品は、メーカーでシステム全体の評価と設計検証を受けて「これでよい」と確定すると、量産に移ります。設計終了後、量産に入るまでは、半年から1年以上の期間を要することがありますが、量産開始以降は中長期的に安定した製品の供給を要求されることが特徴です。

製品区分(1) ボードコンピュータ

上村:次に、当社の製品イメージをご説明したいと思います。電子機器は、プリント基板の上に各種電子部品を結合して実装し、回路を作ります。このプリント基板の上に作られる電子回路には、電子回路の規模によってさまざまな面積のものがあるのですが、メンテナンスしやすく取り扱いが簡単なため、官製はがきくらいの大きさからB5判やA4判くらいの大きさで作られるのが一般的です。

スライド左側に掲載した写真が、「バックプレーンシステム用のボードコンピュータ」です。何枚かをつなぎ合わせて使う比較的規模の大きい電子回路を作る場合には、このようなかたちをとります。基板に、バックプレーンへの接続のための「コネクター」と呼ばれる部品が付いていることが特徴です。

一方で、スライド右側に掲載したのは「ワンボードコンピュータ」で、バックプレーンに取り付けて使うのではなく、1枚の基板の上に、CPUやメモリ、入出力回路等、一通りのコンピュータの機能を持ち、小型コンピュータのかたちをとります。情報処理の規模、または処理内容が比較的単純な、例えば、EdgeコンピューティングやIoT端末は、大規模なコンピュータを1つずつ付ける事はしないため、このように1つのボード上でコンピュータを実現することが特徴です。

製品区分(2) バックプレーン

上村:「バックプレーン」は、複数の回路ボードを総合的につなぎ合わせて1つの大きなコンピュータシステムにするためのもので、さまざまな大きさがあります。プリント基板の上に、ボードコンピュータを接続するためのコネクターがずらっと並んでいることが、特徴の1つです。

人間で言いますと脊髄に相当し、すべての情報が集まっている点や、最終的には大脳、つまりコンピュータで言うところのCPUにつなげる役割も似ています。人間の手足に当たるところは周辺装置で、センサーなどの入出力をする部分は目や耳や鼻などに相当します。

そしてスライド右側の図のように、バックプレーンにボードコンピュータを必要枚数「プラグイン」または「スロットイン」、つまり差し込むことで、総合的な大きな回路を実現して、1つのコンピュータになります。最終的には、「ラック」または「シャーシ」と呼ばれる金属の筐体で作られたボックスに入れて使います。

製品区分(3) コンピューターシャーシ

上村:スライド左側の写真を見ると、バックプレーンが箱の奥のほうに取り付いています。このようなかたちで金属の筐体の中に取り付けて、前面からプリント基板やボードコンピュータを差し込んで使います。これが、一般的には「バスラック」や「シャーシ」と言う種類のものです。

たくさんつないで大きなシステムを作るのではなく、1枚のボードでよい場合もあるとお話ししましたが、EdgeコンピューティングやIoTの端末などでは、スライド右側の写真のような「ワンボード型シャーシ」が用いられ、手の平に乗るような小さなものから、大きくても弁当箱くらいのものが一般的です。

製品区分(4) 制御用コンピュータ

上村:「制御用コンピュータ」ですが、これは実際の半導体製造装置の例です。筐体の中に必要な枚数のボードが差し込まれて、最終的には、このような半導体製造装置の一部となり、コントローラーとして使われます。

バックプレーン方式が産業用に多用される理由

上村:続いて、バックプレーン方式が産業用に多用される理由を、掘り下げてお話ししたいと思います。1つ目は、保守性です。実は、「必要に応じていつでもボードを切り離せる」ことが、大変重要な部分となります。メンテナンスが必要ない機械は存在せず、私どもは常に「運用後のメンテナンスをどうするか」と考えながら設計します。

一般にプリント基板は、CPUボード、メモリボード、通信ボード、画像処理ボードのように、ボードを機能別に分けて作ります。そして、支障があれば、その部分だけをワンタッチで「プラグアウト」して、とりあえずはスペアを入れて動かしたりします。そのようなことに対応する意味でも、回路基板を機能的に分割してバックプレーンに差し込み、システムを作っています。着脱自在なことが保守にとっては大変重要であり、そのために産業用のコンピュータでは、このような形式がとられます。

2つ目は、拡張性です。ボードの構成や組み合わせによって、機能の異なる製品を作ることが可能であり、追加して増強もできます。例えば、あとでメモリを増強したり、さらに通信回線を増やしたりと、必要であればいつでも追加が可能です。

3つ目は、汎用性です。実は、このような製品は、ただ単に機械的に「プラグイン」「プラグアウト」できればよいのではなく、国際的に通用する規格に基づいて設計されます。例えば、日常的に使っているUSBメモリは、パソコンのメーカーが違っていてもだいたいアクセス可能ですが、これは国際規格に則って作られているためです。

コンピュータにも、国際的に通用する「BUS規格」というものが定められており、その規格に基づいて設計されていれば、他社のボードコンピュータを採用して使用することが可能であり、汎用性が増します。これにより、お客さまが何もかも自分で行わなくても、世の中によいものがあれば採用して、自分のシステムに活用できる世界が作られています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):御社は、そのようなボードを作ってきていて、メーカーからも信頼を集めており、事業を継続しています。

先ほど、拡張性のところで拡張や増設のお話がありましたが、その際も、御社に再度注文があるのでしょうか? それとも、メーカー側が行うのでしょうか?

上村:両方あります。はじめから近い将来に増設する予定であれば、私どもは「その分のスロットを空けておくように」と指定していただくだけであり、増設する場合はユーザー側がご自身でボードの増設などを行います。規模が大きい場合は、本体そのものに関わることがあるため、「増設したいので付加装置を追加してほしい」と、依頼いただくことになります。

エブレン製品の用途(応用分野)

上村:私どもの製品が、どのような分野でどのように使われているのか、ご説明します。「産業インフラ」や「社会インフラ」関連で、それぞれ代表的な製品を括っています。

はじめに、スライド右側の円グラフから説明したほうがわかりやすいかと思います。この円グラフの一番下に緑の部分があり、「計測・制御」と記載していますが、これが売上の56.7パーセントを占めています。つまり、半分を上回るくらいになります。代表的には、スライド左側の図に緑色の文字で記載した「FA」や半導体製造装置があります。

「FA」というのは、チップマウンターやロボット、工作機械などの、オートメーションの機械です。このようなものを制御するためのコンピュータとして、私どもの製品が使われています。

また、量的にも規模的にも大きな仕事になっているのは、半導体製造装置のコントローラーや、制御装置としての産業用コンピュータです。半導体製造装置は、成膜装置、レジストアッシング装置、エッチング装置、洗浄装置など多岐にわたり、種類の多い世界ですが、私どもの製品がいろいろな機械に組み込まれて使われている状態です。

そして、円グラフの青い部分の交通関連は17.6パーセントと、2番目のシェアを占めます。スライド左側の図では青色の文字で記載していますが、「交通・ITS」の写真は、ご承知の「ETC」つまり自動料金収受システムです。加えて、安全運転支援サービスの「AHS」など、道路関連の装置があります。

もう1つ、交通関連で大きなところとなるのは鉄道車両です。新幹線から山手線のようなローカルな電車まで、すべてが自動列車停止装置の「ATS」や「ATC」などにより、万が一にも事故が起きないように、追突などを自動的に回避する仕組みがなされており、そこにも産業用コンピュータが使われています。

信号関係については、電車は地上の信号局と交信しながら、追突や不都合がないように走っています。日本の新幹線などは、かなり高度な通信を行っています。また、日本では線路を常時監視する「軌道監視装置」についても、大変高い技術を持っていると言われています。高速鉄道における日本の技術は、世界的に大変高く評価されています。最近では、リニア新幹線が話題になっており、基本的には同じようなかたちをとります。

通信・放送は円グラフに赤色で示している部分で、12.3パーセントを占めます。これは、有線、無線、モバイル、ブロードバンド、放送映像など多岐にわたり、衛星通信から海底ケーブルに至るまで、大変広い括りになります。スライド左側の図のアンテナのようなものと、その下の電力・プラントも、通信・放送の括りに入れています。

電子応用についてです。スライド左側の図では黄色の文字で記載しており、「スーパーコンピュータ」や「医療関係」がそれにあたります。スーパーコンピュータは、ご存知のとおりです。医療関係として、私どもが関わっているのは医療用映像装置が中心で、具体的には「MRI」「CT」「超音波診断装置」などです。

また映像系以外の医療装置としては「血液分析装置」などがあります。分析装置は血液だけでなく、例えば、尿や唾液の分析といった種類のものもあり、試薬を使って分析します。その他としては、内視鏡などがあります。

最後に、防衛・その他です。陸海空それぞれにいろいろな装備がありますが、そのような特殊仕様の防衛機器に使用されるコンピュータの設計製造を行っています。その他には、セキュリティ関係が一部入っています。

以上が内訳で、2021年3月期の連結売上高は、約32億円です。

主要納入先 (直接納入,間接納入を含む)

上村:主要納入先です。ご存知の会社が多いと思いますが、社会インフラや産業インフラに関わっている代表的な会社です。

生産拠点の分散

上村:生産拠点は、先ほどお話ししたとおり、国内4拠点、海外1拠点ですが、当社製品製造の主要設備であるプレスフィットマシンや電気試験機といった、製品を作るために不可欠なものについては、各工場にすべて同じ設備を配備しています。これは、万が一の際には別の工場に切り替えて生産を続行することによって、絶対にお客さまに迷惑をかけないという、BCPの観点からです。 ※上野事業所は設計メインで生産拠点ではないので、生産拠点は国内3拠点海外1拠点となります。

2021年3月期 (第48期) 決算実績

上村:2021年3月期決算の内容について、ご説明したいと思います。2021年3月期の売上は32億円ほどでした。前年と比べてコンマ何パーセントですが、上がっています。営業利益は2億9,900万円、経常利益が3億100万円、当期純利益が2億円くらいで、並べて見るとわずかにプラスだったりマイナスだったりで、売上および利益は概ね前期並という結果でした。

2021年3月期 (第48期) 応用分野別概況-1

上村:2021年3月期の応用分野別の概況です。応用分野別売上の半分が、絶好調の半導体製造装置にもかかわらず、なぜ「エブレンが全体的にかなり大きく伸びた」と言わないのかについてお話しします。

まず、計測・制御という括りでは、民生機器や車載向け半導体が、新型コロナウイルスの影響を受けた期でした。ただし、影響というのはマイナス面だけではなく、見方によってはプラスになっている部分があります。

例えば、リモートワークやオンライン学習など、いわゆる「巣ごもり需要」と言われるものによって、パソコンの生産が予想以上に伸びていたり、スマホやゲームマシンが大変な活況です。当然ですが、そのようなものはすべてデータ生成しますので、データセンターは間に合わないくらいに需要が大きくなっているなど、業界や業種よっては、明らかにプラス要因と受け止められるものがあります。最近の車需要も、巣ごもり需要の反動だと言われており、プラスの方向に向かっているとも言えます。

これは、すべて半導体に絡んでいるところで、半導体を作る機械を作っている立場としては、当然、間接的に影響を受けることになりました。

次に、年間を通してデータセンターや5G関連が堅調でしたが、期後半には車載をはじめとした各種半導体不足が表面化し、大変な問題になりました。まったく間に合っていないと言われています。期中に生産調整もありましたが、このジャンルの当期の売上は、前期比16パーセントほど伸びています。

坂本:期中の生産調整について伺いたいのですが、これは半導体不足によるものでしょうか? それとも、製造のほうで車載などが一旦新型コロナウイルスの影響で止まってしまったからでしょうか?

上村:この生産調整というのは、当期の前半にありました。

坂本:すべて新型コロナウイルスの影響だったのですね。

上村:やはり、新型コロナウイルスが影響したと思います。ただし、その影響は極めて短く、そこから本当に間に合わない状況になり様相が変わったのですが、当期の前半においては、生産調整があったということになります。

最終的には半導体製造装置関連は上乗せになりました。当社にとって全体の56パーセントを占めている分野が16パーセント伸びたというのは大きなことですが、その分、他の分野に前期比マイナスがあったことになります。ジャンル別にはもう1つ、交通関係が若干のプラス要因となりました。

坂本:前回も「けっこう好調だ」とお話ししていましたよね。

上村:交通関係は、思ったとおりにいった部類に入ると思うのですが、緊急事態宣言により、ITS(ETC)関連で入札や設置工事の延期がありました。現地調整する人員を派遣できなかったり、人の活動が止まったため、納入が延びてしまう部分がありました。逆に、一部の交通・信号関連メーカーでは、翌期分の前倒しの生産が発生したものもありますが、結局、売上としては前期比1.2パーセント増で、若干上向いた程度ということです。

2021年3月期 (第48期) 応用分野別概況-2

上村:問題はここからです。1つ目は放送・通信分野で、いわゆるオリンピック需要が終わったことがあります。放送設備などの準備はすでに終わっていますが、電力関係は、例年どおりの水準でした。通信関連は、新型コロナウイルスの影響で、設置工事や入札の延期があったため、結果としては、売上が前期比20パーセントくらい減っています。

2つ目の電子応用も20パーセント近く減っています。電子応用は、高額な医療機器への設備投資が先送りになっています。コロナ禍で医療関係の設備投資がへこむことは想定していなかったのですが、実際は相当な減額になりました。

ICUをもっと作らなくてはならないなど、新型コロナウイルス対応のために優先するものがあり、映像装置のような高額な医療装置は後回しにするということがあったと聞いています。

坂本:受診控えで、売上があまりよくなかった病院もあるようですね。

上村:そうなのです。経営自体もあまりよくないようです。

坂本:それでは翌期以降ということですね。

上村:そういうことです。いずれは出てくると思いますが、そのような動きがありました。ということで、電子応用も18.9パーセント落ちています。防衛・その他については、理由ははっきりとわからないのですが、34.6パーセントほどマイナスです。

今お話しした分野はすべてマイナスですので、半導体関係の好調で充分カバーできず、前期とあまり変わらなかったという結果でした。

2021年3月期 (第48期) 応用分野別売上

上村:3期分の応用分野別売上を、グラフにしたものです。今、説明したのは、スライド右側の合計32億200万円のグラフについてです。グレーのところが、半導体装置を中心とした計測・制御セグメントです。左隣の前期の図よりも、それ以外のものが同じか減っているという状況でした。

2021年3月期 (第48期) 業績 – 財政状態

上村:財政状況です。流動資産は33億円ほど、固定資産は12億7,500万円、流動負債が7億6,900万円、固定負債が3億6,400万円、純資産が34億4,800万円、自己資本比率が75.2パーセントほどで、利益が出ている分財政状況はよくなっています。

坂本:非常によい財務状況だと思います。ほかのメーカーは、もう少し低いところが多い印象です。

2022年3月期 (第49期) 通期予想

上村:当該期の見通しをお話しします。売上は、7パーセント、8パーセントくらい伸びるという見方で、34億4,900万円を想定しています。営業利益と経常利益ですが、売上がこれだけ伸びれば、こちらも伸びるだろうということで、経常利益は3億6,000万円ほどで、約20パーセント増になると予想しています。当期純利益は、やはり2割くらい伸びそうだというところで、2億3,900万円としています。

2022年3月期 (第49期) 見通し①

上村:具体的に、どうしてそのように見通しているのかをお話ししたいと思います。当該期は、分野によって好不調がかなり分かれそうだという考え方を持っています。

計測・制御関係ですが、半導体製造装置・半導体検査装置は、引き続き好調を継続すると考えています。これはマスコミなどでたくさん出ていますので、説明はいらないと思います。中長期的な半導体の需要は、かえって深刻なほど盛り上がっている状態ですが、米中貿易摩擦の影響を受けるかどうかは、少し予測しにくいと言われています。

また、スマホや自動車に使用する基板向けの自動化設備ですが、チップマウンタや外観検査装置等も、引き続き好調と見ています。

各種IoT関連設備投資も、継続的によいだろうということです。

坂本:半導体不足のニュースがありますが、今のところ、御社の調達の部分では影響を受けていないのでしょうか? 価格、値段の高騰は当然あるかもしれないですが、数量部分で足りないというところまでではないイメージですか?

上村:おっしゃるとおり、半導体部品を筆頭に、電子部品全般の調達がタイトになっています。半導体だけでなく、例えば村田製作所のコンデンサなども含めて、大変タイトになっています。

私どものパートナー企業やユーザー企業などは、いろいろな種類の電子部品を大量に使用しており、私どもの作ったコンピュータ本体に電子部品を搭載したボードを入れて使うためもっと深刻で、それらの調達に大変苦労していると聞いています。むしろ、それに比べれば、私どもの作っているものは、それほど膨大な種類ではないため、そのような点ではお客さまのほうが大変苦労しています。

坂本:御社は今のところ大丈夫ですが、業界全体ではタイトだということですね。売上の部分の伸びは半導体が大きいのですが、利益もやはりそのようなイメージですか?

上村:おっしゃるとおりで、半導体製造装置に使われるコンピュータは、他のものと台数が1桁違い、はるかに多いです。ご存じだと思うのですが、生産量が多いということは製造業にとっては「量産効果」が期待できます。

坂本:言い方は悪いですが、もともとあるものを流用して、活かして安く作ることができるということですね。

上村:そうです。利益面での貢献は、半導体製造装置をはじめとした量産製品が圧倒的に大きいですね。

防衛などで、非常に技術コストがかかったり、難しいものがあったりして、そこにたくさんの時間をかけて設計して作ったとしても、5台で生産が終わる製品もあるわけです。このような産業機器は多種作りますので、プライスを十分いただいているつもりでも、集計してみるとコスト的に「あれ?」ということはありますね。

ですので、そのような点においても、製造業で量産できるものは、量産効果を発揮しやすいところになります。

坂本:次に、交通関係はいかがですか?

上村:交通関係ですが、現在、鉄道関係はよくない状態です。人が動かず、旅行もしないため、航空もよくないです。ですから、そのようなことを言われたわけではないのですが、鉄道も航空も、業績悪化による設備投資計画の変更を懸念しています。

ただし、鉄道や航空は景気がよいからどんどん投資するとか、景気が悪いからやめておくということができない部分があります。と言いますのも、我々の製品のような安全に関わるものについては、一定の期間が来ると置き換えるものなのです。ですので、なんとも言えない部分はありますが、業績が悪ければ設備投資が鈍ってくることは考えられます。

2つ目に、リニア新幹線がトンネルを掘る、掘らないで問題になっており、開業延期の可能性があります。

坂本:静岡の問題ですね。

上村:「大井川の水が減るのではないか」と反対されている問題です。私どもは、当初からリニア新幹線に関わっており、影響を受ける可能性があります。

また、これは鉄道だけではないのですが、欧州向けが、全般的に入札が延期になったり、停滞したりしていると聞いています。このあたりを考えると、交通関係は、確実に前年よりも伸びるとは言いにくいところです。

坂本:バイデン政権の政策で、「カーボンを減らすために、鉄道をちゃんとしましょう」という話がありますが、御社には発注が来ていないですか? 

上村:バイデン政権は、「これからの大量輸送手段としては、飛行機よりはクリーンで経済的な鉄道がよい」と言っています。鉄の上を走るものですから抵抗も少なく、非常にエコノミカルで、カーボンも煙もあまり出さないですね。

坂本:電気で走れますからね。

上村:よい着眼だと思います。アメリカは鉄道があまりない世界で、ほとんど航空機ですよね。そのような話は聞いていますが、私どもに下りてくるにはもう少し時間がかかります。

坂本:期待できるかもしれないということですね。

上村:これは期待できます。日本の車両技術力は大変高く、有名なところでは、台湾新幹線も日本から供給したものですし、中国新幹線にも関わっています。世界中の鉄道に、私どものお客さまである大手の車両関係のメーカーは関わっており、大変高い評価を受けています。ですので、バイデン政権にも期待したいと思っています。

2022年3月期 (第49期) 見通し②

上村:次に、通信・放送です。ブロードバンド通信機器の性能が向上しました。私どもが取り組んでいるのは「GE-PON」が中心ですが、1ギガの時代は終わり、10ギガのものが主流です。そうすると、容量的にも大きく非常に性能が高くなりますので、台数がそれほど必要なくなってきています。そのようなことから、台数は減少気味です。

また、オリンピックもありますので、4Kや8K放送対応のための更新需要は、今後も継続すると考えています。また、電力会社の既存設備保守や設備投資が再開する見込みです。そのようなことはありますが、特に通信関係は、この4年、5年くらいのスパンで考えても、決して伸びているわけではないため、前年並みか、若干下がるくらいと予測しています。

続いて、電子応用です。国内、中国、欧州の医療機器への設備投資回復度合いを見極めると、昨年は医療関係がよくありませんでした。今年も回復傾向にはあるとはいえ、まだ元に戻ったわけではないため、今期は前年並みか、若干下がるかもしれないという見方をしています。AI用のHPC関連は前年並みくらいで、踊り場の状態です。

防衛・その他については、前期が特に低かったのですが今期は例年並みに戻るようで、若干上がるという見込みです。

一言で言いますと、当社としてはこのようなところは比率が低く、半導体関係のところが大きいため、結果として全体では伸びると考えています。

2022年3月期 (第49期) 応用分野別売上予想

上村:スライドにある図の一番右側を見ると、青色の通信・放送と橙色の電子応用は、だいたい前年並みか若干下がるところですが、結局、灰色の計測・制御のところがグッと伸びているということで、全体での売上予想は34億4,900万円です。前期が32億円ほどでしたが、このくらいは伸びるだろうということです。

坂本:ここが、経常利益20パーセント増のカラクリということですね。

上村:そうですね。先ほど坂本さんから「これが伸びたら儲かるでしょ?」と、よいところを突かれましたが、経常利益も20パーセント近く上がる計算になります。

成長戦略

上村:続いて、成長戦略を「コア事業の強化」「ユニット供給の拡大」「デジタル化、5G、IoT等への対応」「中国子会社の戦略的活用」の4つに分けて、お話を進めていきたいと思います。

(1)コア事業の強化

上村:まず「コア事業の強化」です。先ほどご説明したように、私どもは、社会インフラや産業インフラに使用されるコンピュータの受託設計・受託生産をコア事業としており、完成後は、長期的に安定供給するというビジネスモデルを確立しました。これを大事にして、今まで築いたものをさらに強化し、お客さまに貢献していきたいと考えています。

お客さまは、装置全体のシステムをまとめており、私どもがその中のコンピュータの部分だけを受託設計して受託生産していますが、大手のお客さまの守備範囲は私どもよりもはるかに広いため、お客さまは「完成度をなるべく上げて供給するように」と常に要求します。

この傾向は今後も続くと思っており、お客さまが必ずしも充分な技術リソースや人的リソースを持っているわけではないため、専門メーカーとして守備範囲を確実に行い、お客さまのニーズに応えていきたいと思います。専業メーカーとしての優位性を追求していくために、デリバリーや低コスト、そして、品質向上はとても大事なことです。

私どもは「コンピュータの脊髄のようなものを作っている」という話をしました。「コンピューターバス テクノロジー」と言うのですが、これをさらに深め、そして、コンピューター構造技術と生産技術力を高めていきたいと考えています。

(2)ユニット供給の拡大

上村:お客さまであるメーカーが、ご自身で部品をバラバラに調達して組み立てる方法もあるのですが、最近は「なるべく完成度を上げて、そのまま使えるユニット(完成体)で調達したい」という要求が強くなりました。そのような要求に応えるように、なるべくユニットで供給可能な体制をとっていこうと考えています。

(3)デジタル化 (DX) への対応

上村:「デジタル化(DX)への対応」です。このような時代背景で、クラウド、ビッグデータ、AI、5G、Edgeコンピューティングなどが連日のように話題になっていますが、これはすべてコンピュータで行うテーマです。このようなニーズに応えられる最適なプラットフォームを提供することが課題であり、そのあたりに力を入れていきたいです。

(4)中国子会社の活用強化

上村:最後に、「中国子会社の戦略的な活用」についてです。中国製のものは、コスト的にも内容的にもはるかによいものがたくさん出てきており、戦略的に活用していきたいと考えています。

質疑応答:中国子会社の活用について

坂本:会場質問と僕の質問を合わせて、中国の子会社に関して伺います。まず、半導体製品とハイテク製品が、米中貿易摩擦で内製化するという話があると思いますが、そのあたりに商機があるのでしょうか? また、中国はいろいろなものが安く、活用したいというお話がありましたが、具体的にどのように活用するのでしょうか?

御社は、中国への進出がけっこう早かったと思います。進出のきっかけや戦略的なものがあったのかを含めて、教えてください。

上村:中国の子会社を作ったのは2002年で、おっしゃるとおり大変早かったと思います。中国は、人口で比べても日本の10倍強ありますので、中国市場は私どものお客さまにとって大変魅力のある市場です。しかし、中国は「できれば国の中で作りたい」ということで、「なんでも輸入していい」という国ではないのです。ですから、病院などの特に公共性を帯びた設備などについて、国外の会社は、時には入札に参加することさえできない事があると聞いています。

そのような背景もあり、中国市場に進出した頃は、私どものお客さまである大手電子機器メーカーが、こぞって「中国に足場を持つ」という時代でした。

そうこうしているうちに、長いお付き合いのある大手医療機器メーカーが、いろいろと政策的なことがあって「生産拠点を中国に移すことになったため、できればエブレンも一緒に来てもらえないだろうか?」ということになりました。

坂本:誘われるパターンですね。

上村:それが2002年でした。私どもが作っているのは、一般のプリント基板とは少し違う設備やテクノロジーが必要だったため、「一般のプリント基板は中国でいくらでもアッセンブリするところがありますが、エブレンは設備もテクノロジーも違うから、よいところがなくて困っています。だから一緒に来てほしい」と、そのような話がきっかけでした。

坂本:いまだに優位性を保ってお付き合いしているのは、御社の力だと思います。

質疑応答:株主還元について

坂本:株主還元について、個人投資家から質問がけっこう来ています。自己資本比率が高いところは聞きたいと思いますが、今後の配当の施策や、自社株買いを含めて、今後の株主還元について教えてください。

上村:配当は、少しずつではありますが上げてきているため、宣言どおりに実行していきたいです。業績は充分に確保できると思っており、当面このくらいのペースで、株主のご期待に応えていくようにしたいと考えています。

坂本:成長と配当、両方ということですね。

記事提供: