3つのポイントの見出し

  • AMATによるKOKUSAI買収が破談に。AMATがKKRに対して契約解除料を支払うかたちで決着
  • 独禁法の問題はクリアしていると見られてただけに、米中対立の激化が取引の大きな障害となった
  • 半導体製造装置メーカーにM&Aは近年、まとまらないケースが散見される

 

 半導体製造装置業界で世界トップの米アプライド マテリアルズ(AMAT)は、買収手続きを進めていたKOKUSAI ELECTRIC(東京都千代田区)との契約解除を発表した。2020年末に買収価格を引き上げるなど、取引完了に強い意欲を示していたが、中国規制当局からの規制が下りず、苦渋の決断となった。独禁法などは問題なくパスしていたと見られ、米中貿易摩擦など政治的な対立に最後までに翻弄されたかたちとなった。

日立国際電気の半導体製造装置部門から独立

 KOKUSAIはもともと、日立国際電気の半導体製造装置部門として事業を展開していたが、18年にグループから独立。KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)の支援のもと、18年6月から現社名で活動を行ってきた。主力のバッチ式成膜装置を中心に事業を展開。メモリー投資の拡大を背景に、ここ数年業績を伸ばしてきた。

 一方、AMATは世界最大の半導体製造装置メーカーとして、成膜装置をはじめ、イオン注入装置、エッチング装置など幅広い製品ポートフォリオを保有。ただ、成膜装置については、枚葉式では高いシェアを築く一方、KOKUSAIが得意とするバッチ式での実績は少なく、成膜装置分野での補完関係は高いとみられていた。

 親会社のKKRは当初から他社への売却・経営統合を模索してきており、一時は国内半導体製造装置メーカーが買収するかたちで契約寸前まで進んだが、破談になった経緯がある。その後、19年7月にAMATが約22億ドルで買収すると発表。当時は向こう12カ月以内(20年6月末)での取引完了を目指すとしていた。

3度の延期も執念実らず

 ただ、その後は買収期限になっても完了せず、1度目は20年9月まで延期。2度目は20年末まで延期していた。21年3月まで延期した3度目においては買収価格の引き上げも発表。当初、22億ドルを6割増となる35億ドルまで引き上げ、執念を見せたが、中国規制当局の承認が最後まで下りず、AMATがKKRに契約解除料1億5400万ドルを支払うかたちで決着した。

 そもそも今回の買収案件に関しては、独禁法に抵触するリスクは低いとみられていた。KOKUSAIが強みとする縦型炉などの熱処理装置はAMATの製品ポートフォリオにはないためだ。中国規制当局は今回の買収案件に関して、「Yes」とも「No」とも判定しておらず、時間切れを狙っていた節がある。投資会社であるKKRとしてはKOKUSAIの株式を保有し続けることに意味はなく、「あきらめさせた」かたちといえる。

破談・白紙が相次ぐ半導体製造装置業界のM&A

 やはり、背景にはあるのが米中貿易摩擦の激化だ。半導体の国産化に力を入れる中国政府に対し、米国政府は中国新興メモリー企業JHICCへの輸出禁止措置に始まり、ファーウェイやSMICへの制裁も強化。ここ1~2年強固な姿勢を貫いてきた。AMATのKOKUSAI買収を最後まで許可しなかったのも、中国側が仕掛けた対抗手段の1つと見られており、両社はその渦に巻き込まれた。

 大手半導体製造装置メーカーのM&Aに関しては2010年以降、破談・白紙が続いている。13年に発表されたAMATと国内トップの東京エレクトロンの経営統合に関しては、独禁法にかかわる米司法省の承認が得られなかったことから契約を解消。また、15年に発表されたラムリサーチとKLAテンコールの米国企業同士の経営統合についても、米国規制当局の承認が下りなかったため、16年に白紙撤回されている。

 半導体製造装置業界は市場規模が大きく拡大する一方で、大手による寡占化が進行しており、独禁法の兼ね合いから、合併や買収が難しい環境にある。そこに米中対立という他の要素も加わったことから、ますます障壁が高いものになってきたといえよう。

 AMATとの統合が絶たれたKOKUSAIにとっても、今後の選択肢はそれほど多く残されていないとみられる。年間売上高が1.5兆円を超えるAMATにとって、売上高1500億~2000億円で推移するKOKUSAIの買収はそれほど大規模なものではなかった。この案件で承認が下りないとなると、KKRにとっては今後他社への売却よりも、IPO(新規株式公開)の方が現実的な判断になってくるといえそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳

まとめにかえて

 アプライド マテリアルズにKOKUSAI ELECTRICの買収が破談になったことで、今後KOKUSAIの動きにより一層注目が集まりそうです。他社との経営統合をもう一度模索するのか、あるいはIPOを目指すことになるのか。同社が強みとする成膜装置分野は今後の高い成長が見込めるため、単独でのIPOも十分勝算があるとみる関係者もいます。

電子デバイス産業新聞