女性自身の事情

女性自身が昇進を望まない状況には主に2つのパターンがあります。

1つ目のパターンは、昇進したいという気持ちがあっても、ほかに問題があって積極的に昇進を選べないケースです。たとえば、女性活躍に理解がない上司や同僚がいる場合、昇進すると職場の雰囲気が悪くなって働きにくくなることがあります。また、「周囲にロールモデルがいない」「重要な仕事を担当した経験がなく、管理職を務める自信がない」といった理由で昇進をためらう女性も存在します。

結婚した女性では家庭の役割分担も大きな問題です。日本には性別による役割分担が色濃く根付いています。従来、男性は一家の大黒柱となって働き、女性は家を守る役割が求められてきました。共働き世帯は専業主婦世帯の2倍程度に増えましたが、メインの稼ぎ手は夫というケースは少なくありません。家のことは妻まかせという家庭も多いことでしょう。

男性よりも女性の年収が低くなりやすく、結婚すると女性の収入が家計の補助という位置づけになりやすい点は、昇進意欲の低さを考えるうえで無視できないポイントです。「夫の年収のほうが高いから、自分は家事や育児をメインにこなしてスキマ時間に働くほうが効率的だ」と考える女性もいます。

2つ目のパターンは、昇進しない選択肢を自ら積極的に選ぶ場合です。管理職になると責任も重くなり不定期な仕事も増えて、長時間労働になりやすい傾向があります。仕事と家事や育児、介護を両立させたい場合などでは、昇進のメリットよりも時間が自由にならないデメリットのほうが大きくなりやすいでしょう。

管理職になって年収を上げなくても、気持ちよく働ければいいと考える人もいます。年収よりも大切にしたいものがある場合なら、なおさらです。「年収が高い=幸せ」だとは考えていない人も少なくありません。

おわりに

女性の昇進意欲の低さは、女性が置かれている企業や家庭の事情、日本に根付く男女格差と密接に関係しています。決して女性だけの問題ではありません。今後、働き方改革や男女共同参画が進めば、女性の昇進意欲が高まる可能性があるでしょう。

とはいえ、人が働く理由や価値観はさまざまです。年収が上がれば幸せになれるとは限らないことを、多くの人が知っています。誰もが自分らしく柔軟に働ける環境を整えていくことが、価値観の多様化が進む今の日本に求められている一番大切なことなのかもしれません。

参考資料

尾藤 ちよ子