先端半導体製造に向けて、欧米で国家レベルでの支援策が続々と打ち出されている。新型コロナウイルスに伴うサプライチェーンリスク、さらには米中対立などの地政学的リスクなども増大しており、自国内や域内での半導体生産強化を目指す。大手半導体メーカーの工場誘致も積極的に行う構えだ。一方、日本国内は2050年でのカーボンニュートラル実現に向けたグリーン成長戦略を掲げており、パワー半導体に照準を合わせた支援プロジェクトにも注目が集まる。

新型コロナ、米中対立が影響

 欧米各国が半導体生産を重視する背景には、新型コロナと米中対立が大きく影響する。ロックダウンによる工場閉鎖に加えて、物流インフラの混乱も加わり、半導体の調達に支障をきたす例が相次いだ。また、米中対立の先鋭化によって、ファーウェイをはじめとする中国製品の導入が難しくなったことも今回の動きにつながっている。

 半導体をはじめとするハイテク産業のサプライチェーンは昨今、グローバル化が進み、高度に複雑化されていたが、現在はこれとは対極に位置するデカップリング化が進展している。自国内・域内でサプライチェーンを完結することで、顕在化するリスクを低減する狙いがある。

 また、半導体そのものの価値が上昇していることも関係しているとみられる。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展や電動車両の普及など、いずれも半導体が重要な役割を担っており、各国政府が重要産業として認識を高めている。足元でも半導体の供給不足が自動車産業を筆頭に大きなテーマとなっており、短期・中期双方の視点から支援の必要性が増しているといえそうだ。

半導体製造はアジアに集中

 近年、欧米各国の半導体産業はファブレス化が進み、アジアに製造が集中する傾向が強まっていた。特に米国はその傾向が強く、米国内で最先端プロセスを採用して製造を行っているのは実質的にインテルのみという状況だ。欧州もインフィニオンやSTマイクロなどパワーやアナログに強みを持つ半導体メーカーや露光装置最大手のASMLなどが存在するが、先端プロセスの製造という意味では担い手が乏しい状況だ。

 米調査会社IC Insightsによれば、19年末時点の世界の半導体生産能力は月産1951万枚(200mm換算)。台湾と韓国で世界全体の約4割を占めており、日本は16%、北米は13%、欧州は6%という水準にとどまっている。300mmウエハーに限れば、さらに台湾、韓国、中国の比率が増す構図となり、日欧米のシェアは低くなる。

米国は370億ドルの資金拠出

 先端半導体の自給率アップに向け、まず米国は20年7月に「CHIPS for America Act」「American Foundries Act」の半導体製造強化に関する法案を提出。さらに今年に入って、米国半導体工業会は米国半導体メーカーのCEOらと連名で、バイデン大統領に半導体に製造・研究に資金支援を要請する書簡を送った。

 こうした要請に対して、バイデン大統領は2月に半導体をはじめとする重要4品目に対して、今後100日間でサプライチェーンを見直す大統領令に署名。半導体生産強化に370億ドルの資金を拠出する考えを示した。

 また、欧州もEUの共同宣言として、半導体をはじめとするエレクトロニクス分野の設計・製造能力を強化する方針を示した。30年までに域内の半導体生産シェアを現状の10%から20%に引き上げるべく、今後2~3年間で最大1450億ユーロの資金を投入する方針。

カーボンニュートラル宣言行った日本、パワー半導体の育成に注力

 日本も菅政権が20年10月にカーボンニュートラル宣言を行ったことを契機に、重要関連産業への具体的な支援策が打ち出され始めている。経済産業省が50年までのカーボンニュートラル達成に向けたグリーン成長戦略を制定。令和2年度の第3次補正予算において2兆円規模のグリーンイノベーション基金がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に設置され、半導体分野では主に、パワー半導体などの育成に力を入れる。

 国内では現在、パワー半導体の300mm生産に向けた取り組みが参入各社で進められており、先ごろ東芝デバイス&ストレージが加賀東芝エレクトロニクス内に300mm対応のパワー半導体量産ラインを導入すると発表。こうしたプロジェクトに資金が投入されるかどうかはまだわからないが、官民一体となったパワー半導体支援が今後進められていくことになりそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳