液晶や有機ELといったFPD(Flat Panel Display)の旺盛な需要に伴い、これを駆動するディスプレードライバーIC(DDIC)各社の業績も伸びている。下期以降の急速な業績向上で、主要メーカーである台湾のノバテックとハイマックス、韓国のシリコンワークスの2020年業績は前年比で大きく拡大した。この好調が当面続きそうだ。

上位4社でシェア7割、うち3社がファブレス

 ハイマックスによると、20年7~9月期時点のDDICシェアは、28%で首位のサムスン電子に続き、ノバテックが2位で21%、シリコンワークスが3位で12%、ハイマックスが4位で9%となっており、上位4社で70%に上る。

 上位4社では、サムスンを除く3社がいずれもファブレス(自社工場を持たない半導体設計会社)であり、ファンドリーの生産能力に依存している。DDICは他のデバイスに比べてウエハーの単価が安いため、ファンドリーはDDICを優先的に生産したがらない。このため、現在のようにファンドリーの生産能力が逼迫すると、DDICは供給不足に陥りやすいという構造を慢性的に抱えており、20年下期以降は供給がきわめてタイトな状況が続いている。

 一方で、ファンドリー生産コストの上昇がDDICの価格上昇につながっている側面もあり、これが業績アップにも一部寄与しているようだ。

ノバテックは19%増収を達成

 ノバテックの20年のDDIC売上高は、前年比19%増の537億台湾ドルと好調だった。IT用液晶パネルの需要増と価格上昇が寄与した。21年1月の月次業績は、売上高が前年同月比45%増の81.2億台湾ドルと大きく伸び、このうちDDICの売上高も同36%増の54.2億台湾ドルと好調を維持。一般的に1~3月期は季節要因で需要が下がるが、21年は季節性を上回りそうだ。

シリコンワークスは34%増収

 シリコンワークスの20年通年業績は、売上高が前年比34%増の1.16兆ウォン、営業利益は同約2倍の942億ウォンとなった。売上高のうちDDICの構成比は86%に上り、DDICだけで売上高が初めて1兆ウォンを超えたもようだ。特に20年下期は、四半期ベースで前年同期比50%近い増収を記録し、通期業績の伸びに大きく寄与した。

 主要顧客は、ソニーやシャープなどの日系、ハイセンスやBOEなどの中国系など多岐にわたるが、株式の33%を持つLGグループの有機ELの生産が拡大したことが最も大きく寄与したとみられる。

 LGディスプレー(LGD)が下期からアップルの新型iPhoneに有機ELの納入を本格化させたことに伴い、特に中小型パネル用DDICの売り上げが大きく伸びた。また、LGD広州8.5G有機EL工場が20年下期から稼働したことも、大型パネル用DDICの増収に寄与。売上高に占める有機EL用の構成比は19年の31%から20年は42%へ上昇した。

 8インチファンドリーの能力不足が懸念されるものの、LGDのテレビ用有機ELの出荷台数は、20年の約450万台から21年は700万~800万台に増える見通しであるため、21年も大型パネル用DDICの出荷増が見込まれている。BOEの10.5G液晶向けも寄与すると予想されている。

ハイマックスは中小型が伸びて39%増

 ハイマックスの20年のDDIC売上高は前年比39%増の7.56億ドルだった。大型パネル用DDICは2.41億ドルと前年比で微増だったが、中小型パネル用DDICが同68%増の5.16億ドルと大きく伸び、収益拡大の牽引役になった。

 中小型パネル用DDICのなかでも、シェア拡大に成功したのが車載用とタブレット用。車載用は3割弱、タブレット用は4割弱のシェアを獲得できたとみており、ここでのTDDI(Touch Display Driver Integration)が収益増に貢献した。

 21年1~3月期は、ほぼすべての分野で成長が継続し、売上高は前四半期比で5~10%増加すると見込む。生産能力不足ですべての需要に対応できず、有機EL用は減収を見込むが、テレビ用やノートPC用は伸びが続く。車載用TDDIは21年から出荷が本格化する予定で、中小型用全体では1桁後半の増収になると想定している。

 社長兼CEOのジョーダン・ウー氏はDDICの生産状況について「車載用は主に8インチ、モバイル用はほぼ全量12インチで、大型パネル用は8インチと12インチの組み合わせだ。今後は車載用TDDIも12インチに移行する。TDDIは80nmから55~40nmプロセスへ、有機EL用は40nmから28nmへ移行している」と説明した。

 一方、生産能力に関しては「ファンドリーの生産能力不足で成長が抑制されており、21年に入ってからは組立やテストなどにまで不足が深刻化している。しかし、21年は四半期ごとに能力が増加すると予想しているが、すぐに大幅に増加することはないため強い需要が長続きする」と語った。そのなかで同社は車載用に生産能力を優先的に振り向ける考えだ。

マグナチップは有機EL用で差別化

 市場シェア3%でDDIC業界7位に位置する韓国のマグナチップセミコンダクターは先ごろ、解像度QHDのフレキシブル有機ELディスプレー向けにフレームレート120Hz対応のDDICの量産を開始した。

 このDDICは解像度1440×3360用にも設計されており、世界のメーカーが製造するハイエンド5Gスマートフォン向けに最適化した。ハイフレームレートとファンドリーで最先端の28nmプロセスを採用し、5Gプレミアム用途でシェア確保を狙う。同社では、将来の設計基板を継続的に構築し、フォルダブルスマートフォンにも対応してく考え。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏