銀行員が語る「失敗する経営者」 夢ばかり見て、足元が見えなかった人
「忙しい」と「忙しくしている」とは違う
Aさんは、とにかく「忙しくしている」人でした。
いいアンティーク家具があると言えば買いに行き、流行っているペンションがあると言えば見学と、自分のペンション運営は部下に丸投げで、年中国内を飛び回っていました。Aさんに用事があり会いたくても、事務所にいたためしはなく、連絡はいつも携帯電話でした。
そんなある日、携帯電話の向こうから「今、ロビーの絨毯を選びにバリ島にいます」と聞いたときはさすがに驚き、正直呆れてしまいました。なぜならこの時、新しい融資の手続き書類が必要で、翌日に会う約束をしていたのです。もちろん手続きは遅れ、私と銀行は予定の変更をしなければならなくなりました。
こうした積み重ねで、銀行のAさんに対する信用はどんどん低下していったのです。
差し伸べられた手を振り払ってしまう
経営者がこのような状態では、会社が上手くいくはずありません。ペンションの経営が悪化するにつれ、当然ながら銀行からの融資は受けにくくなっていきました。
そんな時に、窮状を見かねた近所の同業者のオーナー(Bさん)が、資金援助を申し出たのです。Bさんは人物もしっかりした人で、地域や業界のまとめ役として、銀行も私も信頼の置ける人でした。
しかし、Aさんはこの申し出をきっぱりと断ったそうです。Bさんによると、
「援助のフリをして、ウチを乗っ取るつもりですか」
「何か狙いがあるんでしょ?」
Aさんからは、このような反応が返ってきたそうです。