あまり知られていない現実~「未遂」でも苦しむ心~

その日も仕事を終え、帰路につきました。時間は夜8時近く。まだ人通りもあり、不安が頭をよぎることもなく自転車に乗っていたのです。

通勤経路に川沿いのサイクリングロードがありました。朝の通勤時では毎日利用している道です。しかし橋の下を通るので、帰宅時間が遅い日は念の為サイクリングロードは避けて遠回りして帰宅していました。ですがその日は「そんな遅い時間でもないし…」と思い、サイクリングロードを通って帰ったのです。

一般道からサイクリングロードに降り、入口で自転車に乗った男性、そしてちょっとご年配のランニングしていた男性とすれ違いました。とくに気にかけることもなく、筆者はそのまま走り去ったのです。

「シャー・・・」もう少しで橋の下という場所で、後方から迫って来る自転車の音に気が付きました。かなりスピードがあるように聞こえたその音に、筆者は邪魔にならないように少し路肩側に避けたのです。

「シャーーーー!!」避けたはずの自転車の音が自分に近づいてくる…そうわずかに思った瞬間、後方からタックルされるように人の手が伸びてきました。そしてそのまま自転車ごと草むらに倒れ、痛みを感じると同時に男性の身体が筆者の上に覆いかぶさっていることに気が付きました。

男性は覆いかぶさったまま筆者の顔を片手で抑え、顔を近付けてきます。何が起こっているのか分からないまま、ともかく顔を反らして抵抗しました。男性はもう片方の手で筆者の左手首を掴んでいましたが、幸いにも右手が自由だったため、その右手を伸ばして側に置いてあった何か(たぶん自転車のカゴに載せていた手荷物)を掴んで男性の顔めがけて投げつけました。

そうすることでなんとか身体が自由になり、這いつくばる様な姿勢で逃げようとしましたが、また後ろから羽交い絞めされそうになったのです。その時、目の前に自分の自転車が見えたので、ハンドルを握ってその男性にぶつけようと振り回しました。

「振り回した…」といっても、せいぜい自転車を自分の前に出して盾にしたくらいのものでした。そのまま自転車をグイッと相手側に押し、男性と筆者の間に空間が出来た隙に、土手を登って橋のたもとにあるコンビニエンスストアに向かって逃げたのでした。

この間、何度も「助けて!」と声を出そうと試みたのですが、声は出せませんでした。「なんで?なんで声が出ないの?!…」本当の恐怖に直面すると声を出すことすらできないんだ…と落ち着いてやっと理解できたのは、その数日後だと記憶しています。

参考記事

ニュースレター

メールアドレスをご登録いただくと、毎朝LIMOの更新情報をお届けいたします。
執筆者

国内大手パソコン周辺機器メーカーに正社員として13年間勤務。お局道まっしぐらと思いきや、自分でも予想外に結婚。その後、さらにまさかの子だくさん母(長男・次男・長女の3兄妹)となる。長女出産後、正社員時代に鍛えたタイピングの速さを武器にWebライターへ。「心に伝わるライティング」を心掛けています。