キオクシアホールディングスは、10月6日に予定していた株式上場に向けた手続きを中止し、上場を延期すると正式に発表した。市場環境の好転など適切な上場タイミングを引き続き検討していくとしている。新型コロナウイルスに伴う最終製品の需要低下と、ファーウェイに対する規制強化をはじめとする米中関係の悪化が上場延期を招く要因となった。

ファーウェイ制裁強化が追い打ち

 東芝のメモリー事業が分離・独立した同社は、親会社のベインキャピタルのもと、設立以降、株式上場のタイミングを探ってきた。今年8月には新株式発行および株式売り出しを発表し、上場に向けた準備を進めてきた。

 しかし、新型コロナによって最大セグメントであるスマートフォンの販売が低迷。2020年のスマホ販売台数は2桁台のマイナス成長が見込まれているほか、データセンター向けも米系顧客の投資一巡で足元では停滞感が強まっていた。

 そこに追い打ちをかけるように、米中関係が一層悪化。米国政府が中国ファーウェイに対する制裁を強め、同社は先端半導体の調達が実質的に困難な状況に陥った。キオクシアもファーウェイに対しての製品供給を現在停止している。キオクシアのファーウェイ向けの売り上げ比率は1割弱あり、米アップルに次ぐ水準となっている。

年明け以降も下落局面か

 こうした市場環境の悪化から、NANDフラッシュの需給バランスも軟化傾向にある。20年上期はリモートワーク/在宅勤務の急速な導入によるクラウド関連や、パソコン需要の拡大によって、NAND価格は一時的な上昇を遂げたが、下期以降はスマホ、特にメモリー搭載容量の多い上位機種の販売が低迷したことで、コントラクト(契約)価格は下落基調にある。

 同じメモリーのDRAMも価格下落が進んでいるものの、NANDに比べてスマホ向け比率が低いこと(ビット基準)、参入各社の数が少ないことから、21年初頭から価格が反転する見方が強まっている。一方のNANDは年明け以降も下落基調が続く可能性が高く、キオクシアにとって適切な上場タイミングとはいえなかった。

 事実、8月27日の上場承認時の売り出し想定価格は3960円を見込んでいたが、9月17日に公表した仮条件の価格は2800~3500円と約2割引き下げられており、機関投資家らの反応が悪かったことがうかがえる。

112層世代の投資計画に影響

 上場延期は今後のキオクシアの設備投資戦略にも影響を与えそうだ。当初、上場によって得た資金を借入金の弁済に充て、残りを設備投資資金に回す予定であった。この設備投資資金は700億円前後であり、四日市工場ならびに北上工場で立ち上げを進めている最先端世代となる112層世代の設備投資資金に充当する見通しであった。

 しかし、上場延期によって資金調達に狂いが生じたことで、今後3D-NANDにおける投資戦略の変更や見直しがかかる可能性も出てきている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳