“DX(デジタル・トランスフォーメーション)”という言葉を最近はよく耳にするようになったという方も多いのではないかと思います。DXとはいったいどのようなものでしょうか。

経済産業省はDXを次のように定義しています。

「デジタル技術が、我々の生活を圧倒的に便利にしたり、既存のビジネスの構造を“ディスラプト(破壊)”するなど、新しい価値を生み出すイノベーション」

今回はそうしたIT業界を取り巻く変化の中で、SI(システムインテグレーター)のあり方も変わらなければならないとして、「SI2.0」を提唱されている、クラウドエース株式会社の取締役会長である吉積礼敏さんに話を伺いました。

―――「SI2.0」はこれまでのSIとは何が違うのでしょうか。

沢山ありますが、大きく分けると、要件を作る人(要件者)とシステムを作る人(SIerもしくはエンジニア)の関係性、進め方、アーキテクチャの3つに分けて整理ができます。

1点目の要件者とエンジニアの関係性について、これまでは主従もしくは丸投げという関係性でしたが、「SI2.0」ではリスク共有型で、かつエンジニアファーストで進めるという点が異なります。これは最先端の技術を使って高速にシステム開発を行わないと競争力のあるシステムを作るのが難しくなってきているというところです。

2点目のシステム開発の進め方です。これまではウォーターフォールで100点を目指す開発でしたが、「SI2.0」ではアジャイルで永遠に変更をし続けるという前提に立って開発を進めます。ソフトウェアをソフトウェアとして変更容易であるべきという原則論にたった進め方をするべきという点です。これも大きくは世の中の変化が激しくなってきていることに起因していると思います。

3点目のアーキテクチャは、これまではインフラとしてはオンプレミス(自前でHW等を用意する)主体で、ソフトウェアアーキテクチャはモノリシック(全部のシステムを出来る限り大きなひとつの実行単位にしてしまう形を取る形)でしたが、「SI2.0」ではインフラはクラウドとして変更容易性を高め、ソフトウェアアーキテクチャはマイクロサービス(小さなサービスをいくつも組み合わせて大きな機能を実現する形)にすることで、影響範囲を極小化して変更容易性を高める形を志向します。結果的には変更容易性が大きく高まり、開発速度も桁違いに高くなります。

―――SIの新たなステップとして「SI2.0」を考えられた背景について教えてください。

これまでのSIの進め方については10年以上前からずっと疑問を持ち、仕事をしてきました。

日本のITの生産性はこの20年で相対的に格段に落ち、その結果日本社会全体の生産性が低下してしまっているのではないかと危惧してきました。

経済産業省からも生産性に関して危惧する「2025年の崖」と言われる言葉も出てきてDXの必要性が叫ばれています。

個人的には「そもそもSIのやり方自体に問題があるのではないか?」と考えてきました。クラウド時代、ITリテラシーの前提が大きく変わっている、ビジネス環境の変化が激しいこの中で、本来のベストなSIのやり方はなんだろうという事でずっと模索してきました。

当然これまでもクラウド化であったりアジャイルだったり、開発速度を高めるための個別の施策としては色々やってきていましたが、今回やっと言葉にして整理することが出来たというところです。

―――なぜ、いまなのでしょうか。

ちょうどクラウドが市民権を得て、DXや「2025年の崖」という言葉により、とにかく何とかする必要性があるだろうという考えが世の中で認められやすくなっていると感じています。我々の実際の現場でも同様の考え方です。

大手のエンタープライズのお客様でも同様の考え方が受け入れられ始めていると実感していることから、広めるにはちょうど良いタイミングなのかなと考えました。

―――「SI2.0」が浸透していくことで、誰がどのようなメリットを受けるのでしょうか。

大きくは日本国民全体が社会の生産性向上のメリットを受けやすくなるというようにも考えています。

小さくはまずはSIに関わる人にとって、すべからくメリットが生まれやすいと思います。これまで必要性の低いドキュメント作成を行っていた無駄なことであったり、本来はもっと良い解決策があっても口をつぐんでフラストレーションを抱えるエンジニアだったり、良いシステムを作りたい一心でやっている筈なのに一度決まった仕様に縛られてしまったり、色々な不都合が解消する近道になると思っています。

結果として、良いものが安く早く出来ることになるのです。その先に良いシステムがどんどん出来ることで社会全体の生産性向上に繋がれば良いなと思っています。


―――「SI2.0」のコンセプトをもとに、どのような活用事例が期待できるのでしょうか。

当社の事例ですが、 セブン⁻イレブンさんの事例などが挙げられます。日本屈指の規模のDWHでほぼリアルタイムにPOSデータを収集するという仕組みをわずか5ヶ月という短期間で構築しました。これは「SI2.0」のコンセプトをお客様と我々が共有してプロジェクトを進めることで成し遂げた快挙と言っていいと思います。

このように我々SIerとお客様の間での進め方の認識として「SI 2.0」を志向して進めてもらう事でこのような結果を出すことも出来ると思いますし、ユーザ企業内でエンジニアと事業部門との間での進め方においても流用することで、高品質なサービスを高速に生み出せると思います。

―――SI、エンジニアサイドに求められる条件は今後どのように変わるのでしょうか。

まず、高品質なエンジニアリング、これは変わらず必須になります。技術的バックグラウンドを持って、責任を持ってソフトウェアを開発する能力です。高品質というところの定義に、「変更容易性」という要件に対しての要求はより高くなっていくと思います。

これまでは作ったら作ったものを100点としてそのまま動き続けること、が要件でしたが、今後は、システムは永遠と改善し続ける必要があるものという意識がより必要となってきます。

ですので、そのために必要なクラウド・アジャイル開発・マイクロサービス、と言った技術要素に対する理解はより必要になってくるでしょう。

これはエンジニアに求める能力なのかどうか微妙な線ですが、最先端の技術を理解した上でビジネス要件に鑑みたときにどういう実装が良いのかを判断出来る、アイデアを出せる人材に対するニーズはより一層高くなると思います。

ビジネスの勝負の源泉が、そうした点に集約されだしてきていると思います。これは「SI 2.0」かどうかには関係無く起こっている状況だと思いますが、それを進める上でより最適なシステム開発の方法は「SI 2.0」です、と考えています。

―――「SI2.0」へのハードルがあるとすれば、何にでしょうか。また予想以上に浸透するとすれば、何がきっかけとなるでしょうか。

難しい質問です。まずは世の中の大きな趨勢ではあると言う点では疑いがないと考えているため、徐々には浸透するだろうと思っています。

もしかしたら「SI2.0」という名称じゃないかも知れませんが、同様の考え方は本質的に必須だと思います。

そういう意味ではハードルはないと思っています。また、最も予想外に早く浸透するとすれば、「SI 1.0」を代表するような企業が「SI2.0」を受け入れてくれることだと思います。

参考資料

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泉田 良輔