本記事の3つのポイント

  • 中国を中心に自動車産業が復調の兆しを見せている。中国は5月以降、3カ月連続で前年を上回る販売台数を記録している
  • 車載半導体メーカーの業績も4~6月期を底に回復に向かう見通し。電動化・ADAS化のトレンドも後押し
  • 足元回復基調だが、今後もこのトレンドが続くかどうか、注視が必要

 

中国市場が牽引する自動車市場

 2020年7月における新車販売台数をみると、中国では前年同月比16%増の211.2万台となり、5月以降3カ月連続で2桁成長を記録している。内訳は、乗用車が同9%増の166.5万台、商用車は同59%増の44.7万台と大きく伸長した。一方、新エネルギー車も同19%増の9.8万台となり、6月の大幅なマイナスから一転、プラス成長を果たした。中国では、下期に一部の都市でナンバープレート発給数の引き上げや、新エネルギー車の購入に際して補助金を支給する方針が明らかとなっており、8月以降もさらなる成長が期待される。

 欧州市場(27カ国)においては、同4%減の127.9万台と若干のマイナスになったが、19年9月以来、月次ベースで最も多い販売台数を記録した。内訳をみると、電動車が初めて単月で20万台を超え、構成比率も19年7月の7.5%から18%へ大きく拡大させている。

 日本における新車販売台数は同14%減の39.6万台にとどまったが、6月の前年同月比23%減からは改善傾向にある。国内の主要自動車メーカー7社のうち6社は苦戦を強いられているが、早くもスズキが2桁の高成長を記録し、唯一プラス成長を果たしている。

 米国市場においては、高い失業率や経済の先行き不透明感などから新車販売台数は同12%減となり、マイナスから脱せずにいる。しかし、6月の前年同月比26%の減少からは大きく改善しており、今後のさらなる回復が期待される。

車載半導体 4~6月期は各社マイナス

 20年4~6月期における主な車載半導体メーカーの売上高を見ると、NXP Semiconductors(オートモーティブ事業)が前年同期比35%減、Infineon Technologies(ATV事業)が同8%減、ルネサス エレクトロニクス(自動車向け事業)が同23.2%減、STMicroelectronics(Automotive&Discrete Group)が同17.8%減となり、各社でばらつきのあった1~3月期から一転、軒並みマイナスで推移した。

 7~9月期は、NXPが4~6月期から20%のプラス成長を見込む一方で、ルネサスは横ばいと予想するなど、見通しが分かれている。しかし、自動車の販売台数が着実に回復基調へ転じており、OEMにおける生産台数も戻りつつある。積み増しされた販売チャネルでの在庫状況によってタイムラグが生じるものの、徐々にコロナ禍前の水準に戻るとみられる。

NXP Semiconductors

 4~6月期の自動車部門の売上高は、前年同期比35%減の6億7400万ドルと大きく減少した。1~3月期に引き続き、2四半期連続でのマイナスを余儀なくされている。車載半導体のリーディングサプライヤーである同社は、全社売上高の47%をオートモーティブ事業が占める(19年通期ベース)。車載向け製品としては、アナログからRF、DSP、MPU、アプリケーションプロセッサー、マイコンなどを幅広く手がけ、世界1位、2位を争う製品をラインアップしている。

 現在、新型コロナの完全な収束には程遠い状況にあり、需要環境は流動的なものとして注視していく必要がある。現在、主要顧客である欧州や北米、日本の自動車OEMや車載部品メーカーの生産は、多くが感染拡大以前のレベルを下回っており、需要の正常化、詳細な回復時期についてコメントするには時期尚早との見方を示している。

 このような状況を踏まえながら、同社では、7~9月期における自動車部門の売上高は、8億800万~8億3800万ドルのレンジになるとの見通しを示した。YoYベースでは引き続きマイナスとなるが、4~6月期からは20%増加し、回復基調へ転じる見通しだ。なお、自動車の生産レベルは、7~9月期末までに新型コロナの感染拡大前の8割程度にまで回復するとの予測を示した。

Infineon Technologies

 4~6月期におけるAutomotive(ATV)事業の売上高は、前年同期比8.2%減の8億1500万ドルとなった。同社は20年4月にCypress Semiconductorの買収を完了しており、Cypressから、新たなマイコンの製品ポートフォリオ、コネクティビティーコンポーネント、ソフトウエアエコシステム、ハイパフォーマンスメモリーなどが加わっている。

 ATV事業では、Cypressのビジネスから車載マイコン、メモリーソリューションが加わっており、4~6月期は売上高の約4分の1を占めている。これにより、従来のInfineonのみのATV事業売上高は前年同期比で約25%減少したと推測でき、これは世界の自動車の生産台数の推移とほぼ一致している。

 Infineonは、車載およびインフラ側の両方のアプリケーションに対応する、SiおよびSiCパワーコンポーネントの製品をラインアップしている。この幅広さに加えて、優れた車載品質も高い評価を得ており、トヨタから名誉品質賞を受賞している。

ルネサス エレクトロニクス

 自動車関連では、エンジンや車体などを制御する車載制御関連と、カーナビゲーションなどの車載情報機器向けの車載情報関連を手がけており、車載マイコン、SoC、アナログ半導体、パワー半導体を中心に提供している。

 自動車向け事業の4~6月期売上高は、前年同期比23.2%減/前四半期比22.4%減の726億円となった。これにより、1~6月累計の売上高は同6.2%減の1662億円にとどまった。主に、車載制御関連の製品が減少したことが要因。

 7~9月期の業績予想としては、産業・インフラ・IoT関連が微増で推移するなか、自動車関連は微減を見込む。「自動車関連以外の分野は、コロナ禍で需要が増加したアプリケーションもある。7~9月期は、それらの分野が若干強めに出て、10~12月期に実際の姿に戻る。自動車関連は、4~6月期・7~9月期を底に、10~12月期にかけて回復していくようなカーブを現時点では予測している」とCFOの新開氏は語る。

 同社では、コロナ禍の様々な状況においても、持続可能なニューノーマル(新しい日常)に向けて、ソリューション開発に注力している。車室内HVACシステム(暖房、換気、空調システム)では、CAN/LIN対応マイコンを豊富にラインアップ。各種モーターユニットに適したアナログ、パワーデバイスも幅広く提供していく。また、同社のLiDAR向けソリューションは、道路利用弱者の安全と保護を目的に、障害物を高精度に検出することができ、周辺認識のプラットフォームに適している。すでにLeddarTech社のシステムに採用されている。

STMicroelectronics

 4~6月期におけるAutomotive & Discrete Group(ADG)事業の売上高は、前年同期比17.8%減/前四半期比3.5%減の7億2700万ドルとなり、1~3月期に続いて2桁のマイナスを余儀なくされた。厳しい事業環境ではあったものの、クルマの電動化・デジタル化に伴い、トラクションインバーター、車載用充電器およびEV用のDC/DCコンバーターの分野でSiC-MOSFETの新しいデザインを多数獲得。また、「ADASでは、ミドルクラスならびにエントリークラスの車種で、自動運転レベル2およびレベル3の採用が強く見られた。21年に生産される乗用車の3分の1に、当社の技術を採用したビジョンシステムが搭載される見通しだ。また、77GHzのミリ波レーダーアプリケーションを含む、自動車用マイコンのシェアも拡大しつつある」とジャン・マーク・シェリーCEOは語った。

 同社のStellarファミリーの新製品は、クルマのアーキテクチャーの進化に対応する製品として好評を得ている。PCM(相変化メモリー)内蔵によるリアルタイム高性能処理の実現により、次世代の車載ニーズに対応。28nmプロセスのFD-SOIテクノロジーを採用して製造された同製品は、複数のArm Cortex-R52を搭載したマルチコアを構成。高速のリードライト制御が可能なPCMを最大40Mバイト内蔵することで、OTAによるソフトウエアの更新ニーズにも柔軟に対応する。

 なお、同社では20年の通期売上高(全社ベース)として92.5億~96.5億ドルを見込む。下期の売上高は、上期を6.1億~10.1億ドル上回る見通し。設備投資は現時点で約12億ドルを予定している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡

まとめにかえて

 記事にもあるとおり、自動車産業ならびに車載半導体市場は当初想定していたよりも、早期に市場が回復基調に入っています。受注ベースでは7月からすでに反転傾向にあり、8月以降もこのトレンドが続いています。もともと電動化・ADAS化など成長性は高かっただけに、今回の見通し改善は業界内でもポジティブに受け止めてられています。

電子デバイス産業新聞