日系半導体製造装置メーカー各社の2020年4~6月期決算は、新型コロナウイルスや米中対立などのマクロ環境の不透明さにもかかわらず、総じて堅調に推移した。「Work from Home(在宅勤務・リモートワーク)」に関連したデータセンターやパソコン向け半導体需要などが市場を牽引したことが大きかった。スマートフォンの需要減に伴うメモリー投資の一部先送り、自動車・産業機器市場の低迷を受けたパワーデバイスをはじめとする200mm関連投資の後退は懸念事項だが、製造装置市場全体で考えれば、年初段階に比べて目線は高くなっている印象だ。

予想覆すTSMCの増額修正

 半導体製造装置業界を巡る関心事は大きく、「米中対立」「メモリー投資」「中国現地企業の投資動向」の3つに集約されているといってよいだろう。このうち、米中対立についてはTSMCの投資動向に変化を与えるものとして、大きな注目を集めていた。中国ファーウェイ、ならびに傘下のハイシリコン(海思半導体)に対する米商務省の新規制により、ハイシリコン向けのファンドリー事業が消失してしまう懸念から、設備投資額を引き下げるのではないか、と危惧されていたためだ。

 これに対して、TSMCは20年4~6月決算で20年通年の設備投資金額を従来の150億~160億ドルから、160億~170億ドルに引き上げ、大方の見方を覆して増額修正を図った。引き上げの背景はEUV露光装置の支払い条件の見直しなど、テクニカルな要素も含まれていることが指摘されているが、少なくとも投資金額を引き下げなかったのは業界に燻っていた不安を解消する意味でも大きかった。

 ハイシリコンの需要ウエートが高かった5nmプロセスについては、21年以降クアルコムやAMD、メディアテックといった他の主要顧客がラインを埋めてくれる見通しで、年末までに予定どおり月8万枚規模の5nmラインが構築される予定だ。ただ、9月14日以降はファーウェイ/ハイシリコンに対してウエハー出荷は行わないと明言しており、先端プロセスを消費する貴重なユーザーを失うことに変わりはない。これら影響が21年以降、設備投資金額に作用するかどうかはまだわからない状況だ。

TSMCにとってハイシリコンは貴重な先端プロセス顧客だった

 ハイシリコンの受託生産を巡っては、その候補として中国ファンドリー最大手のSMICの存在がクローズアップされている。「Kirin 710A」などで用いている14nm世代の生産能力増強を急ピッチで進めており、当初20年10~12月期に予定していた製造装置の導入スケジュールの一部を7~9月期に前倒しするような要請も行っている。20年設備投資金額も年初想定の30億ドル強から43億ドルまで引き上げており、投資金額で見れば、大手の一角を担う存在に浮上してきている。

DRAMは下ぶれ、NANDは見通し維持

 メモリー投資については、DCやパソコン向けの需要増はプラス材料であるものの、スマホの販売台数(グローバル)で前年比2桁台のマイナスとなることが大きく影響し、一部投資の先送りなどが出始めている。サムスン電子は平澤第2工場(P2)でのDRAM投資を一部21年以降に延期。マイクロンテクノロジーも台中工場の新棟(A3)への設備納入タイミングを1四半期程度先送りしている。

 ただ、YMTCやCXMTといった中国新興メモリー企業はこうした需要見合いで投資を調整しておらず、シェア獲得に向けた戦略的な投資を続けている。YMTCは64層世代の3D-NANDの追加投資を目下進めているほか、CXMTも20年上期にDRAMの追加増強を行った。

 全体的に見れば、メモリー投資は年初想定に比べてDRAMが下ぶれている一方、NANDは従来見通しを維持しているといえる。この違いはパソコン用SSDの存在と次世代ゲーム機が関係している。特に次世代ゲーム機に搭載されるストレージは従来のHDDからSSDに切り替えられる見通しで、NAND需要に少なくないインパクトを与えている。

アドバンテスト、米国新規制の影響受ける

 半導体製造装置業界を取り巻く環境については、いずれも中国の市場・顧客に関連したものが多い。先ごろ発表された日系装置メーカー各社の20年4~6月期業績もこれら影響が織り込まれたものになっている。

 半導体製造装置国内最大手の東京エレクトロン(TEL)の4~6月期におけるSPE(半導体製造装置)部門の売上高は3037億円(前四半期比2%減)となり、2四半期連続で3000億円を超える水準となった。地域別では中国向けが大きく伸長し、前四半期比1.5倍の伸びを見せた。SPE部門の地域別(仕向地基準)売上高では、中国が全体の約24%を占め最大セグメントとなった。同社によれば、メモリー分野を中心に現地企業、グローバル企業双方で設備投資が活発に行われたという。

 洗浄装置大手のSCREENホールディングスの4~6月期におけるSPE事業の受注高は430億円(前四半期比31%減/前年同期比28%減)となり、ほぼ想定線での着地となった。中国顧客をはじめとするファンドリー分野の投資拡大が下支え要因となった。アプリケーション別の受注高構成比ではファンドリーが全体の49%を占め、この半分程度が中国顧客によるものだという。1~3月期のSPE受注も中国ファンドリー顧客が全体を押し上げており、4~6月期もこの傾向が続いたことになる。

 一方で、今回4~6月期で市場にネガティブな印象を与えたのがアドバンテストだ。同社は近年、5Gに関連したテスト需要を背景に高成長を遂げてきたが、今回開示した20年度通期の業績予想は、売上高が前年度比6%減の2600億円、営業利益が同23%減の450億円になると発表した。中国ファーウェイに対する新規制など米中関係の悪化に伴い、SoCテスターの引き合いが低下する見通し。

 20年度通期見通しのうち、メモリーテスターは増収を予想する一方、SoCテスターはHPC(High Performance Computing)需要は拡大しているものの、米中対立による圧力がそれを上回るとして、同33%の大幅な減収となる見通し。同社では米中対立によって、規制対象となっている顧客向けのテスター投資は当分低迷すると見ており、余剰設備の調整や解消に「半年~1年程度かかる」(吉田芳明社長)との見方を示した。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳