本記事の3つのポイント

  • EVなど電動車両の普及とともに、急速充電器に大きな注目が集まっている。特に充電時間の短縮に向けた高出力化に向けた取り組みが加速している
  • LiB搭載容量なども影響するが、充電時間は10分前後まで短縮することにめどが立ち始めている
  • 欧米では充電ネットワークを専門に手がける企業が登場。充電インフラの拡充に貢献している

 

 世界的な環境規制の高まりを背景に電動車需要が堅調だ。㈱富士経済によると、2018年の世界市場は前年比31.2%増の425万台で、内訳はハイブリッド車(HV)233万台、電気自動車(EV)130万台、プラグインハイブリッド車(PHV)62万台となった。一方、35年の予測は4090万台で、EV2202万台、PHV1103万台、HV785台と、EVとPHVがHVを抜くとみている。

 こうしたなか、一躍注目されているのがEVやPHVの充電インフラである急速充電器だ。特にEVを本格的に普及させていくうえでは不可欠であり、自動車メーカー各社の事業戦略とも密接に関わってくる。すでに高出力350kW機も登場しており、ガソリン車の給油時間と同程度の充電時間も実現している。急速充電器の動きを追ってみた。

 充電器にとって最も重要となるのが充電時間だが、これは充電器の出力によって決まってくる。一般家庭などで使われる普通充電器は、電圧100Vまたは200V、電流15~30Aで、出力は電圧と電流の積である1.5~6.0kWとなる。充電時間はEVが搭載するリチウムイオン電池(LiB)の容量にもよるが、7~15時間程度だ。

 一方、急速充電器は電圧と電流を向上させることで出力を大幅に高め、充電時間を短くできる。例えば、国内規格「CHAdeMO」は電圧450・500V、電流20~200Aで、出力は50kWなどとなる。充電時間は、同じくEVのLiB搭載容量にもよるが40~80分程度だ。なお、充電時間は単純にLiB容量と出力の比で計算できない。LiBは7~8割充電されると、それ以上は充電速度が遅くなるためだ。

高出力化進む

 次にCHAdeMO以外の急速充電器の規格について説明する。世界的には「Combined Charging System(CCS1)」、CCS2、「GB/T」、「スーパーチャージャー」などがあり、CHAdeMOを含め、これら5つが代表的だ。それぞれの出力を見てみると、CHAdeMOは50kWが中心で、より高出力の90kW、100kWも製品化されている。一方、CCS1/CCS2が50~350kW、GB/Tが50~150kW、スーパーチャージャーが72kW(Supercharger V1)、145kW(同V2)、250kW(同V3)となっている。現状、CHAdeMOが最も低く、CCS1/CCS2が最も高い。

 高出力化により充電時間も飛躍的に短くなっている。LiB搭載容量や、前述のように充電速度が遅くなることから一概には言えないが、10分前後まで短縮したもよう。急速充電器大手トリティウム(オーストラリア)は「175kW機(「Veefil PK」)の約10分の充電により、EV航続距離として最大350kmを実現する」と表現している。

 今後もさらなる高出力化が進んでいく見込みだ。CHAdeMOでは、策定団体であるCHAdeMO協議会が23年までに250kWを導入していく計画。ただし、中国のGB/T陣営と900kWの統一規格を策定していく取り組みも進められており、先行きは不透明となっている。また、CCSは22年までに1000kW、スーパーチャージャーは21年までに500kW(同V4)を導入していく計画だ。

 一方、高出力化によりケーブル発熱量が上がることから、ヒートシンクが大きな課題となっている。冷却方式は50kWなどの低出力機では空冷だが、高出力機では液冷が一般的となっている。ただし、ケーブルが太く重くなり、かつ高額となる。そこでパワー半導体を使ったタイプも登場している。後述するABB、エファセック、トリティウムといった大手メーカーはパワー半導体搭載モデルを市場投入している。

中国が最大市場

 次に市場動向およびメーカー動向について述べる。富士経済によると、19年はコネクター(ケーブル)累計出荷本数で28万本弱に達した。国別では中国が約8割を占め、以下、米国、日本、ドイツ、英国、フランス、ノルウェーと続く。

 中国は世界最大のEV大国であり、中央政府の補助金制度により設置台数を急激に増やしてきた。ただし、最近は同制度が緩和されたこともあり鈍化傾向にある。米国はZEV規制導入を進めるカリフォルニア州ら11州を中心に普及。日本はPAやSA、それに日産自動車や三菱自動車工業などの系列ディーラーで設置が進められてきた。環境規制が進む欧州では、EV導入に伴い設置台数が急速に増えている。ドイツ、英国、フランス、ノルウェー、イタリアなどでは350kWなどの高出力機の導入も目立つ。

 メーカーでは青島特来電、星星充電、普天新能源といった中国トップ3がそのまま世界トップ3となる。中国メーカーを除くとテスラがトップとなり、ABB(スイス)、エファセック(ポルトガル)、トリティウムなどが大手だ。

 一方、日本市場では東光高岳、ハセテック、ニチコン、新電元工業などが有力だ。東光高岳は日産自動車向けに提供し、累計設置台数では長年にわたりトップを堅持。SAやPA、コンビニエンスストア、道の駅など国内で約3000台以上の販売実績がある。ニチコンは、自動車ディーラー、道の駅、マンション、宿泊施設、ショッピングモール、スーパーなどに数々の設置実績を持つ。

欧米は充電ネットワークが貢献

 欧米では「Electrify America」および「Ionity EU」といった充電ネットワークを展開する企業が普及に貢献している。Electrify Americaはフォルクスワーゲンの子会社。米国全土にCCS対応機を設置し、充実した料金システムや、スマホアプリによる充電スポット検索などでユーザー数を獲得することに成功している。設置数は、ステーションで420カ所、急速充電器で1953台。なお、ステーション数は近く98カ所追加される予定。

 一方、Ionity EUはダイムラー、フォード、BMW、アウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェなどが共同出資で設立。EU圏内で気軽にEV充電ができるインフラを整えることを使命としている。kWベースの課金システムや、上記自動車メーカーが展開している充電利用サービスなどを特徴としている。現在のステーション数は225カ所。また、20年内に400カ所設置する計画があり、うち47カ所を設置中だ。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

まとめにかえて

 EV向けの急速充電インフラが日本はもとより、欧米や中国など世界各国で導入が進んでいます。半導体・電子部品の観点からは、高出力化に向けてSiC(シリコンカーバイド)などの次世代パワー半導体材料が採用されている点も注目です。SiCパワー半導体は自動車そのものへの搭載も進んでいますが、充電インフラも今後大きな市場として立ち上がってくることでしょう。

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