新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、世界の公衆衛生上の緊急事態であり、世界経済に前例のないリスクをつきつけている。企業活動や家計所得が厳しいリスクに直面している中で、各国政府には革新的な解決策を見出すこととそれを迅速に実行することが求められている。しかしそれだけではなお十分ではない。

新型コロナウイルスが供給サイドならびに需要サイドの両面から世界の経済活動に打撃を与えている兆候が表れ始めている。供給サイドでは感染拡大を抑制する対策によって工場が閉鎖されサプライチェーンが混乱している。需要サイドでは旅行産業や娯楽産業への打撃が特に大きく、また消費者が所得の減少を懸念して高額商品の購入を先送りする可能性も高まっている。

各国の政策当局の喫緊の課題として以下の4点が考えられる。それは、①企業への直接的支援、②家計所得への支援、③需要全体への安定化策、④新型コロナウイルスが供給全般に与える打撃の最小化、である。

こうした新たな政策課題は、平常時には個々に独立して役割を果たしてきた金融政策や財政政策、規制政策の垣根を超えるものである。これまで各国政府は、新型コロナウイルスが国内経済に与える打撃を抑えるために、図表1に想定する政策手段のいくつかを打ち出すことを約束している。

1. 企業への直接的支援

世界各国の政策当局は、実体経済において現金不足が生じれば、避けられるべき事業閉鎖や企業倒産が引き起こされかねないことを即座に認識し、そうした事態を防ぐことを最優先課題に据えている。

図表1の1列目にこうした課題に対応する政策手段を列記した。市中銀行へ流動性を供給する支援策や、中小企業を対象とする公的融資あるいは融資保証などが代表例である。

世界で最初に新型コロナウイルスの問題に直面した中国は、政策的支援において先行している。規制当局は経営不振に陥る企業のローン支払いの遅延を容認し、また中国人民銀行(中央銀行)は市中銀行に対し感染の影響を受けている企業への融資に回すことを条件に、3,000億人民元(約4.6兆円)の資金を注入した。