新型コロナウイルスの感染拡大が、エレクトロニクス業界のサプライチェーンにも甚大な影響を及ぼしている。先ごろ台湾FPD(Flat Panel Display)関連メーカーが発表した2020年2月単月業績にも影響が色濃く反映されており、集計した29社で前月比/前年同月比ともに増収を達成できた企業は1社もなかった。液晶パネルのバックライトユニット(BLU)やEMS(電子機器の受託製造サービス)など、工場で多くの生産要員を必要とする企業では5割以上の減収に見舞われたところもあった。

1~3月期の出荷台数見通しを大幅に引き下げ

 米アップルは2月17日、「20年1~3月期の業績見通しが達成できなくなった」と発表した。新型コロナウイルスの影響で、iPhoneの供給が一時的に制限されること、店舗の営業停止などで中国のアップル製品の需要に影響が出ていることを理由に挙げた。

 これに見るとおり、旧正月明けの職場復帰率の低迷や工場の稼働遅れ、これに伴う部材の不足やデリバリーの混乱、消費の低迷によって、FPDを搭載するスマートフォンやテレビ、ノートPCなどの生産計画や需要見通しに大きな狂いが生じ、関連企業の業績にも深刻な悪影響が出始めている。

 台湾の調査会社TrendForceは2月17日、20年1~3月期のセット機器の出荷台数予測を引き下げた。テレビは4880万台を4660万台、スマホは3.07億台を2.75億台、ノートPCは3500万台を3070万台に修正したが、2月27日にノートPCを2750万台、3月5日にはスマホを2.7億台に再度引き下げた。

 TrendForceでは、ノートPCの減産要因として、プリント配線板やバッテリー、ヒンジ、受動部品や金属部品など、ノートPCの製造に必要な部品の主要サプライヤーの生産再開の足並みがそう簡単に揃わないことを挙げている。一方、スマホに関しては、20年4~6月期に感染拡大が抑制されると、20年下期は回復に向かうと予測している。

EMS企業は前月比4割減収も

 アップル製品を数多く組み立てているEMSの最大手である鴻海精密工業(フォックスコン)は、2月の売上高が前月比で40%、前年同月比で18%減少した。3月3日に電話会議を開催し、3月末までに労働力不足を解消して通常操業に戻せるとの見通しを明らかにしたが、20年1~3月期の売上高は前年同期比で15%程度減少する見通しと報じられている。

 アップルのワイヤレスイヤホン「Airpods」の生産を受託しているインベンテック(英業達)も、2月10日時点で「20年1~3月期は前四半期で15~20%の減収になる」との見通しを明らかにしていたが、2月の売上高は前月比で40%、前年同月比で33%減少した。

 一方で、アップルサプライヤーの1社であるペガトロン(和碩)は前月比で15%減収だったが、前年同月比では微増だった。ちなみに、ペガトロンは2月17日、ベトナムに生産子会社を設立すると発表。3月26日には電話説明会を開催する予定という。

BLUメーカーは前月比5割以上の減収

 2月に軒並み前月比で2割以上の減収に見舞われたEMSと同じく、BLUメーカーも大幅な減収を余儀なくされた。

 BLU大手のコアトロニック(中強光電)は2月18日の決算会見で、新型コロナウイルスの影響によって20年1~3月期の出荷量が前年同期比で最大50%減少する可能性があることを明らかにしていたが、2月の売上高は前月比で45%、前年同月比で40%減少した。生産拠点における2月の人員は通常時の約30%にとどまったという。

 同じくBLU大手のラディアント(瑞儀光電)は台湾の高雄と中国の南京、呉江、広州に生産拠点を持ち、2月10日の週にいずれも稼働を再開したが、2月の業績は集計した29社で最大クラスの減収幅となる前月比51%減、前年同月比57%減となった。

 また、液晶パネル大手のイノラックス(群創光電)は、2月の出荷台数が大型パネルは前月比26%減、中小型パネルは同36%減となり、売上高が同15%減った。一方で、FPD業界では、こうした液晶パネルの生産・出荷減少が、19年末から値上がりに転じている液晶パネル価格のさらなる上昇につながり、これが先々パネル各社の収益改善に寄与してくると見る向きもある。

 タッチパネル大手のTPK(宸鴻)は、2月20日の決算発表時に「帰任した人員は生産ラインを満たすのに十分。生産への影響は2月が約20~30%、3月が20%未満、4月に通常操業に戻る」との見通しを明らかにしていたが、2月業績は前月比で14%減少した。3月9日には「中国の工場は7~9割で操業できている」とのコメントを出した。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏